凶報(六)

 静寂の中、規則的に繰り返される物理音が薄暗い室内から漏れ聞こえる。雲の棚引く空に月が顔を出すと、不意にその音が止まった。

 月明かりに照らされた台の上で、女性は白い手を休ませる。その横には石の鉢と蓋の開いた小瓶、そして花びらを数枚欠いた黄白色の花。

 細長い指が薬鉢を斜めに傾ける。宝玉の無い指環が台に触れ、カツンと小さな音がした。

「目には美しく見えるのに、恐ろしいことね」

 花と同じ色のが、鉢の中でさらりと滑る。

「これで動けなくなれば良いのだけれど……」

 部屋に小さく響いた言葉を、耳にするものは他にいない。

 女性は改めて乳棒を取り上げ、粉の中心に押し当てた。

 満月に似た黄白色の円が、すり鉢の底で崩れていく。

 雲は流れ、月が隠れる。先と同じ静かな音が、再び夜闇の中に流れ始めた。

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