第3話 スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス!

「グッピーが飼いたい。今の水槽だと定員オーバーだから、新しい水槽を立ち上げようと思う」


 言うが早いか、夫は大きめの中古ラックと中古の水槽をどこからか見繕ってきて、アクアリウムを2階建てにした。


 水槽が増えたということは、エアレーションやらフィルターやらCO2ポンプ等ももうひと揃い必要ということである。

 タコ足配線が更に足を増やし、コンセント周りは一層の混沌を極めた。


「すずめが仕事から帰ってきたら、電気とCO2のスイッチだけ入れて。水草に光合成させなかん」

「どのスイッチよ。5穴マルチタップ×2個あるじゃん」

「水槽①はこことここ、水槽②はこことここ」

「いや覚えられんて」


 後日。


「分かりやすいように配線を組み替えました!」

「せっかく覚えたとこだったのに!」


 更に後日。


「フィルターを増やしてみました!」

「複雑化すな!」


 賢明な読者諸氏なら既にお気付きだろう。

 夫は凝り出すと止まらなくなるタイプである。しかもやたらと手先が器用。


 結局、夫は複数のタイマーを配線に組み込み、全ての装置のスイッチが自動的に入ったり切れたりするようにセットした。

 生き物に関わる、地味ながらも忘れると不味いタイプのタスクを回避できたので、私はとてもホッとした。



 こうして立ち上げた2つ目の水槽。

 新たに、以下の魚が仲間入りした。


【グッピー】

 熱帯魚と言ったらコレ!みたいな魚。『ちびまる子ちゃん』でザリガニに食われていた覚えがある。

 いろいろな種類があるが、うちに来たのはドイツイエロータキシードという品種。

 オスはシュッとした体型で胴の中ほどから後ろが黒っぽく、大きな尾ビレは真っ白で根本だけ黄色が混じる。

 メスはぽってりした体型で全体的に大人しめな銀、尾ビレはオスと同じ色味だけど小さめ。体長は最大4〜5センチ。


 彼らが泳ぐと、尾ビレがひらひらと波打って大変美しい。

 オスがメスをずっと追いかけて、2匹で泳いでいる姿も微笑ましい。


 私から見るとあんまり個体の区別が付かないんだけど、魚同士だと分かるのかな。まぁ分かるんだろうな。たぶん魚から見たら人間の個体の区別なんか付かんだろうし。



【オトシンクルス】

 ナマズの仲間。体長4センチほど。

 体側に入った黒い線を境にして、背側が斑模様、腹側は白。

 ガラスや水草の葉の表面に張り付き、コケを食べる。水槽のガラスがすぐにコケだらけになるので、お掃除係としてお迎えした。

 お腹?口?が吸盤みたいな感じになっていて、すぃ〜っと泳いできたかと思ったらガラスにピタッとくっつく。


 先に紹介したコリドラスもだけど、ナマズの仲間は顔立ちに愛嬌がある。オトシンは体側の黒い線に紛れて目があるのが可愛いと思う。



【クラウンローチ】

 ドジョウの仲間。

 買ってきた時は5センチくらいだったのに、気付いたら10センチくらいになっていた。ちょっと縦幅のある体型なので、なんかでかく見える。野生だと30センチくらいまで成長するらしい。

 鮮やかなオレンジと黒の縦縞模様。それが道化師の衣装みたいなので、『クラウン』と名が付いている。


 クラウンローチは水槽内に湧いた貝を食べてくれる。彼らを入れてから、中身のなくなったサカマキガイやヒラマキガイの殻が転がるようになった。

 これらの貝、魚たちには害はないらしいが、気付くとめちゃくちゃ繁殖している。雌雄同体なので1匹からでも増えちゃうみたい。とにかく気持ち悪い。

 一時期ヤバいくらいいた彼奴らは、クラウンローチのおかげですっかりいなくなった。良かった。


 そもそも、土を掘ったり狭いところに入り込む習性の魚らしい。だから貝の穴にも口を突っ込むのだ。

 よく、流木と地面(ソイル)のごく僅かな隙間に潜り込み、横たわった尾ビレだけ見えている時がある。死んでるかと思ってビビるのでやめてほしい。


 クラウンローチはかなり臆病で、誰かが水槽から1メートルほども離れた位置で動いただけでも、脱兎の如く物陰に隠れてしまう。

 集団で行動する性質なのか、よく1匹の動きを他の子が真似して複数で仲良く一緒に泳いでおり、なかなか可愛らしい。

 その様子を見るにも、逃げられないようにかなり遠くから眺める必要があるのが難点。



【サイアミーズフライングフォックス】

 リピートアフタミー、サイアミーズフライングフォックス!

 スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス!


 名前を覚えるのにひと月くらいかかった。

 コイの仲間。最大10センチくらい。ここまで成長するとなかなかでかくて迫力がある。全体が銀色で、体側に黒い線が一本入っている。

 これもコケを食べることで界隈では有名なようだ。


 水槽の底や水草の上などでじっとしていることが多いが、突然すごいスピードで泳ぎ出したりする。1匹動くと2匹3匹と続くので、これも集団行動するタイプなのかも。



 コケ問題に対処するため、その他にも【ヤマトヌマエビ】という5センチくらいの透明のエビや、【プレコ】というナマズの仲間がいた時期もあった。

 でも夫がショップに返した。エビもプレコも、コケのみならず水草本体を食いまくってボロボロにしたからだ。

 というか、ちょっと個体数が多すぎたんじゃないかと思う。何でも多めに買ってしまう夫なのである。


 それでなくとも混泳には、どういうフォーメーションで水槽に入れるか、相性があるようだ。

 低層で泳ぐのか上層で泳ぐのか、低温の水がいいのか温めの水がいいのか、とか。

 鑑賞という視点から考えると、色合いのバランスとかもあるかも。



 そんなこんなで、水槽内のメンバー入れ替えがようやく落ち着いてきたころ。

 再び夫が言った。


「ベタ(闘魚)を飼いたいんだけど、小さい水槽1個増やしていい?」


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