第2話 いい感じになるようにやったらいいんじゃないの。
初めてだから飼いやすい生物がいいと、真っ先に夫がショップで購入してきたのが【チェリーシュリンプ】だった。
エビ。
魚じゃないんか。
チェリーシュリンプは小型の淡水エビで、最大でもオスが2センチ、メスが3センチ程度。
カラーバリエーションが豊富で、赤、オレンジ、黄色、青などのほか、頭と尻尾だけ赤で体の中央部だけ透明、みたいな変わったのもいる。
これがなかなか可愛らしい。
小さなハサミで四六時中コケやらエサやらをツマツマしている。
泳ぐ時は後ろの脚をパタパタさせて何だか一生懸命。
小さくとも個性があり、ずっと何か食べている子、暗いところでじっとしている子、エアレーションのブクブクの勢いを利用して猛スピードで泳ぎ続ける子など、いろいろいる。
彼らはエビなので、脱皮によって成長する。
この脱いだ皮は透明なのだが、まるきりエビの形なのである。ヒゲも脚も尻尾も見事にそのまんま。
よくこの皮の中に気泡が入り込み、リアルなエビの形状を保ったまま水面近くを流れにのって優雅に漂っていたりするので、ちょっとビビる。
だけど最初のころ、迎えたエビたちはすぐに死んでしまった。
「ちゃんと水合わせをしなきゃいけないかも」と夫。
水合わせとは、ショップの水槽の水から自宅の水槽の水へと、徐々に慣らしていくことである。
①買ってきた魚やエビを、ショップの水ごと小さめのケースに入れる。
②そこへ点滴で少しずつ自宅の水を加えていく。
③半分以上混ざった水でしばらく泳がせ、異変がなければ自宅水槽へ移す。
急に環境が変わるとビックリして死ぬこともあるようなので、多少手間でも必要なステップなのだ。
以降、何を迎える時も毎回きちんと水合わせを行うようになった。夫が。
エビの次に我が家へやってきたのは、【ネオンテトラ】という熱帯魚だ。
ネオンテトラは体長約4センチほどで、体側の青いラインがネオンのように光って見える。尻尾は鮮やかな赤。
とても美しい魚である。綺麗な上に、丈夫で初心者向けとのこと。
このネオンテトラを。
60匹。
イヤいきなり飼いすぎでは。
ほら魚たちもちょっと窮屈な感じになっちゃってるじゃん。別に私のやつじゃないから知らんけど。
彼らはチェリーシュリンプと違って個々の見分けが付かないため、私はエビの方が好きである。
ネオンテトラとほぼ同時期に迎えたのが、【コリドラス】というナマズの仲間。
体長は最大で5センチ程度。カラーがいろいろあるが、初めにうちに来たのは全身真っ白なアルビノだった。目は血の色が透けているので、赤く見える。
コリドラスはだいたい水槽の底の方にいる。かと思えば突然水面へ急上昇し、即座に底へ戻ってくるなど、割と心臓に悪い動きをする。水槽から飛び出すかと思ってビビるのでやめてほしい。
最初来た3匹のうち、2匹はすぐに死んでしまった。1匹だけはやたら丈夫で、1年以上経った今も生きている。
(なお、しばらく後になるのだが、コリドラスパレアタス(通称・青コリドラス)というブルーグレーの斑模様のものと、コリドラスパンダというパンダ模様のものも仲間に加わった。
この子たちはなぜか同じ柄同士で仲良く一緒にいることが多い)
こうしていろいろ迎えたものの、水質が安定するまで時間がかかった。すぐにpHが酸性に傾き、その度に死者が出る。
「すずめ〜、どうしたらいいと思う?」
夫よ、私に訊くんか。
「いい感じになるようにやったらいいんじゃないの(適当)」
「分かった!」
それからというもの、夫はフィルターを変えたり、エサを変えたり、土を変えたり、殺菌灯を追加したりして、試行錯誤を繰り返した。
最初に迎えたチェリーシュリンプの飼育が軌道に乗るまで、3ヶ月くらいかかった。
これでようやく平和が訪れた。そんな折、夫は言った。
「水槽増やしていい?」
は?
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