第5話 ブラッドクロスへようこそ
グラン所長の話では冒険者になるのは12歳で構わないらしいが、コーヒー専門店の経営者、つまり商業者になるのは15歳になっていないとダメらしい。
「でも、何で冒険者は12歳で、商業者は15歳なんですか?」
「君も街の外で生活していたのならわかると思うが、気を付ける所があるとは言えスライムは子供でも倒せるしレベルが上がれば若くてもモンスターと渡り合えるからな。実践経験を積ませる為にも、冒険者資格が必要と言うことで12歳と若い年令が定められたんだ。ちなみに隣にいるシェリアやコウキも12歳から冒険者になっている」
「そうそう、なりたての頃は大変だったなー。モンスターの群れの中に置いてけぼりにされたりさ」
「群れと言っても3体のスライムだろ。私の時は4体のゴブリンだった」
「へいへい、またその自慢ですか」
「んんっ。話を戻すぞ」
コウキさんが自ら膨らませた話題で墓穴をほったのを見兼ねてか、グラン所長は咳払いの後話を再開した。
「冒険者と違い、商業者はある程度の知識が必要になる。それに材料や店舗、店員に家具とまず揃えなくちゃ行けないものだらけだ。大抵の商業者は両親の仕事を継ぐか、若くして弟子入りし、腕を磨いて15で資格を貰っている。だがルアク君の場合コーヒー専門店となるとほぼ100%今言った物を揃える必要がある。このままでは15歳で商業者になる事も危うい状況だ。それでもまだ、なると言うのかい?」
グラン所長はこれが最後の確認だと言わんばかりに僕の目を見据えて言った。
確かにやる事は多いかもしれない、でも3年ある。ここで夢が叶えられなければ、折角転生したのに僕は何も出来ない人間になってしまう。
グラン所長の質問に対する回答はもちろん決まっていた。
「はい。僕はコーヒー専門店を作り、それで生計を立てます」
「…気に入ったよ。そこまで真っ直ぐな目を久々に見た。その道を君が選ぶなら応援する。分からないことがあれば何時でも聞きに来るといい」
「ありがとうございます!」
グラン所長に商業者になる道を認めて貰えたのは良かったが、問題はこの3年間だ。孤児院で暮らすしか無さそうだし、その状態でどうやって資金を稼ごう…
そう考えていると、グラン所長こら思わぬ提案が出された。
「シェリア、コウキ」
「はい」
「何すか?」
「ルアク君が15になるまでお前達の元で雇ってやれ」
「え!?」
「所長、それは何故ですか?」
「色々資金を集める必要もあるが、どこかで雇って貰うにしても、きっとどの店も彼のコーヒーの味を知ったら自分の店で広めようとするだろう。それではルアク君の夢では無くなる。俺自身彼を気に入ってひいきしてるように聞こえるかもしれないが、彼のコーヒーに免じて、受け入れてくれないか?」
この提案に僕はもちろん、シェリアさんとコウキさんも驚いたようで、2人とも一瞬固まっていた。だがシェリアさんもコウキさんも直ぐにグラン所長の言葉を理解し、返事を返した。
「分かりました」
「まあ確かに、ルアク君のコーヒーは美味かったし。その代わり毎日コーヒー飲ませてくれよ?」
「決まりだな。ルアク、立派な店作れよ」
「はいっ!シェリアさん、コウキさん、これからよろしくお願いします!」
僕達はギルドを後にすると、シェリアさんが初期投資という事で僕の分の歯ブラシや着替えと生活必需品を買って下さり、家に案内してくれた。
「ここが私達の家だ」
「こ、ここが…」
着いた所は、周りの家と比べると一回り程大きい屋敷だった。
「ここにお2人で暮らしてふるんですか?」
「まさか、こんなでかい家2人じゃ住まないよ。俺とシェリーの他に仲間が3人居て、計5人で暮らしているんだ。多分皆帰ってきてるんじゃないかな?」
「喋ってないで入るぞ、皆に君を紹介する」
屋敷の中もそれなりに広く、1階の左右に2つずつ部屋があり、真ん中には二手に分かれて階段があり、2階にも左右に2つずつ部屋がある。
シェリアさんは1階の左側手前の部屋に向かい、コウキさんと僕もついて行くと、そこはリビングになっており、そこにはグラン所長には負けるが屈強な男性が1人、この中の誰よりも小柄で小さい女性が1人と、猫の耳と尻尾が生えた女性が1人いた。
「あ!シェリアさんコウキさんお帰りなさい」
「夕飯はどうした?食ってきたならいいが」
「2人とも遅い!明日の会議始まってるよ!」
「ただいま。食事は済んだがら大丈夫。会議の途中で申し訳ないけど、大事な話がある」
「今日はゲストが来てるから皆注目ー!」
コウキさんの声に3人全員が僕を見た。
「あら、こんばんは。お客さん?」
「おい、どうしたんだ?その子」
「迷子ならグランの所に連れかなきゃ」
「いーや、彼は客人でも迷子でもない。彼は今日から俺たちの仲間になりました!ルアク君でーす!じゃじゃーん!」
「「「仲間っ!?」」」
仲間というコウキさんの言葉に3人は驚いたようで、各自腰を浮かすが、
「適当な事を言うなコウキ。皆、彼はグラン所長の頼みで我々で雇うことになった」
「「「雇う!!??」」」
シェリアさんの雇うという方が驚いたようでついに立ち上がった。
「ちょっと!急に何言ってんの!?」
「まぁ待てティル。シェリア、一から説明してくれるよな?」
「ええ」
ティルと呼ばれた猫耳の女性がシェリアさんに突っかかろうとした所を大柄な男性に肩を抑えてられて椅子に座り直す。それに続いて小柄な女性と男性も座り直し、コウキさんとシェリアさんも定位置であろう席につく。
「こちらへどうぞ」
「は、はい」
小柄な女性に席を案内され、僕も椅子に座ったところで改めてシェリアさんが話し始める。
まず僕を保護したこと、グラン所長に合わせていること、そして僕が商業者を目指していることを全部話してくれた。
「という訳で、ルアク君を雇うことになった。ルアク君にも紹介しとこう。手前から治癒士のマイア」
「よろしくお願いしますね」
「猫人のティル」
「よろしくな!」
「最後に拳闘士のハンズ」
「ハンズだ。昔は商業者でもあったから、なにか質問があれば何時でも聞いてくれ。所で君は我々が何者かを理解しているのかな?」
ハンズさんに問われてよくよく考えてみれば、慈善活動としか聞いていなかったな。
「…あぁ、そういえばまだ聞いていません」
「嘘をつくな、ちゃんと君には説明したぞ」
「え?」
「ちゃんと慈善活動をしていると、話したではないか」
「はぁ。 シェリア、それじゃぁ説明になってないだろ。済まないな、ルアク君私が代わりに説明しよう」
シェリアさんが説明しない事が日常茶飯事なのか、ハンズさんは呆れながらも慣れた説明をしてくれた。
「我々はパーティ“ブラッドクロス”。元々は冒険者として主に盗賊や人の街に危害が及ぶモンスターを倒したりしていた。それをグラン所長に認められ、今では難民の保護や救済も行っている。もちろんそっちは無償でな」
「ルアク君ほど大きい子は夢があり前に進みやすいですが、小さい子は心の傷次第では立ち直れなくなりますから、そのお手伝いですね」
「あたしみたいな獣人は尚更そういう子が多いからな、助けたいってわけさ」
「そうだったんですか」
初めて確りシェリアさん達の活動が聞けて、色々と理解出来た。
「さて、ではここからはルアク君を雇う上で何をしてもらうかを決めようと思う」
シェリアさんの号令で、次は僕を雇う上での今後が話されることにった。
「はいはいはい!コーヒー入れてもらおうぜ。1日1回。いいだろ?」
「えぇ、まぁ」
「コウキ、真面目な話だ。シェリア、俺達が留守中に掃除してもらうのとかどうだ?」
「うん。ありだろう」
「あの、私は部屋を見られるのが恥ずかしいので…私の部屋は自分でやりますから」
「あたしもマイアと同意見だな。ルアク君がどうこうじゃなくて、やっぱりな…」
「うん。では共同スペースと男共の部屋の掃除としよう」
「そうだな。俺はともかくコウキの部屋は掃除が必要だしな」
「ハンズ!それじゃ俺の部屋が汚いみたいじゃんか!」
「みたいじゃ無くて、事実でしょー」
「ティルまでそう言うのかよ!」
話はあれよあれよと進んでゆき、最終的に僕の仕事は、共同スペースとハンズさん、コウキさんの部屋の掃除、食後の食器洗い、男性陣のみの洗濯、必要に応じて買い物と現時点ではこういう風に決まった。
「では改めて、よろしくなルアク君」
「はい!あと、すみません、僕からいいですか?」
「何だ?何でも言うといい」
「あの、皆さん。僕のことはルアクと呼び捨てにしてください。今日から皆さんに雇われた身ですし、どうも落ち着かなくて」
皆さんは善意から君付けしてくれてたのかもしれないが、僕は会社務めの時ずっと呼び捨てされてた事もあり、働く上でそっちの方が慣れてるというのもある。
「んー、どうだろう皆」
「了解、んじゃよろしくなルアク」
「自分の店出来るまでしっかり励めよ、ルアク」
「応援してるよー!ルアク!」
「あのー、私は人を呼び捨てにするのは苦手なので、ルアク君でお願い致します」
「確かにマイアは性格上無理だろうから、これでいいかな?ルアク」
「はい。皆さん、これからよろしくお願いします!!」
こうして、僕は自分のコーヒー専門店を作るまでブラッドクロスにお世話になる形で異世界生活が本格的に始まった。
異世界カフェテリアへようこそ 水無月 葵 @deneb23
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界カフェテリアへようこその最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます