きょうを読むひと
卯月
変身、アイドルフォーム!
『今日のニュースです!』
給食時間。五年生と六年生の放送委員が、交代で校内ニュースを読んだり、音楽を流したりする。今日の担当、あたしと同じ組の奈々ちゃんの声を、豚汁を食べながら聞いていると、
『一年二組の小野君が昨日、飛ばしてしまった風船を、マジカルピンクに捕まえてもらったそうです!』
「ゲホッ、ゲホッ!」
むせた。不意打ちひどい。
……二学期になってから、カレンの手伝いで〈コンパクト世界〉から落ちてきた生き物を探している関係で、うちの学校の子に会う率が高いんだよね。その甲斐あって、〈砂漠渡り〉のあとに、もう一匹は捕まえることができたんだけど……。
「えみかー、大丈夫?」
隣の子に心配されている間に、放送はニュースコーナーから音楽コーナーに移る。
『今日のリクエストは、三年一組の……』
突然、声が途切れた。
どうしたんだろ? と、何となくスピーカーを見ると、
『奈々ちゃん、どうしたの!?』
他の子がバタバタ駆け寄るような音がして、直後ブツッと放送が切れたので、クラス中が大騒ぎになった。
午後、教室に戻ってこなかった奈々ちゃんが、次の日は普通に登校してきた。奈々ちゃんは明るく言う。
「放送中に急に、声が出なくなっちゃったの。午後から病院に行っても原因わからなくて、でも、夕方には自然に元に戻って」
「そっかー、治ってよかったねぇ」
みんなでほっとしたけれど、事件が起きたのは給食時間だった。
奈々ちゃんが教室にいるのに、
『きょうのニュースです!』
『マジカルピンクに捕まえてもらったそうです!』
校内放送で、奈々ちゃんの声が聞こえてきたのだ。ていうか、何でそこ繰り返すの。
「〈声
カレンが断言した。
「私たちの世界から落ちてきたうちの一匹。気に入った声や言葉を盗るの。盗られた側も少ししたら回復するから、奈々さんに大きな実害はなくて良かったけれど……」
「あたしは実害アリアリだよ!」
あの後いろんなところで、奈々ちゃんの声で『きょうのニュース!』『マジカルピンク!』と連呼し続けたのだ。先生たちが学校中探し回ったけれど、声の主は見つからなかったらしい。ていうか、何でそこを気に入ったの。
「……で、何で今日のあたしは、この格好なの」
放課後。先生たちが最後に〈声盗り〉の声を聞いたという体育館を、あたしとカレンは調べに来た。
最近は、いつどこで探している生き物に出くわすかわからないので、学校にも(こっそり)指輪を持ってきているのだけれど、体育館に入って扉を閉めた瞬間に、指輪が強烈な黄色の光を放ったのだ。
慌てて体育館の鏡で確認すると、全身イエロー系でリボンやフリルだらけ、大きくふくらんだ膝丈バルーンスカート、可愛いんだけれどアイドルのステージ衣装みたい。ご丁寧に、ヘッドセットマイクまでついている。
「
うんうんとうなずくカレン。お願い、指輪をほめないで。
「〈声盗り〉は体色を変えて姿を隠す能力があるけれど、声を気に入ると寄ってくるから、
「歌わなくても! 奈々ちゃんは、ニュース読んだだけで盗られたでしょ!」
「変身でその姿になったってことは、歌声に魔力がのるということだと思うわよ?」
そう言うと、カレンもコンパクトを取り出した。ジャスミン姫みたいな赤い服に変身したカレンに、ステージ上に引っ張って連れていかれる。
「一人はやだ! カレンも歌って!」
「私とあなたが一緒に歌える曲なんてないでしょう」
「音楽の授業で習ったやつなら歌えるでしょ!」
相談の結果、ステージに二人並んで、『ちいさい秋みつけた』を歌うことに。
一番が終わったころ、体育館の天井近くで、何かが動く気配がした。打ち合わせどおり、あたしは歌い続け、カレンは捕まえることに集中する。
魔力がのった歌声(多分)に吸い寄せられたのか、全体的にクジャクに似ているけれど足は四本ある生き物が、身を隠す様子もなくフラフラと飛んできた。あたしの目の前まで来たところで、すかさずカレンが、手に持ったコンパクトをかざす。真ん中の赤い宝石がピカッと光り、〈声盗り〉が縮んで吸い込まれた。
「やったぁ、三匹目!」
二人で手を取り合って喜んでいると、体育館の扉の方で、ガタッと音がした。見ると、開いた扉の向こうで低学年ぽい女の子が、目をぱちくりさせている。
扉を開けたタイミング的に、〈声盗り〉を捕まえた場面は見られてないと思うけれど、とにかくごまかさなきゃ。
「あ、あたしたち、歌の練習をしていたの、そうよねー」
カレンに振ると、カレンも
「そ、そうなの、歌の練習よ! ねー」
そのまま、『ちいさい秋みつけた』の一番をもう一回歌ってから、そそくさと体育館から退場した。
次の日の給食時間。
『今日のニュースです! 二年三組の堀田さんによると、昨日の放課後、体育館で、二人組のアイドル歌手が歌の練習をしていたそうです!』
あたしとカレンが盛大にむせた。
〈了〉
きょうを読むひと 卯月 @auduki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます