楽しい動物園……。

「きたーー! 路地裏ーー!」

 はい。毎度のことながらルゥがうるさい。


 ルゥが言った通り、私たちはこの前の盗賊退治のクエストを受けてその日の夜に、その盗賊がアジトにしている路地裏に来ている。

ここをもっと奥へ進めば盗賊のアジトにがあるらしい。


リリー姉さんへの手紙はさっき書いて送った。


「そんなに叫んだら盗賊が起きちゃうよー」

 軽くシィウが注意する。


「はぁー」

 こんな奴と一緒に来てしまったらため息も出るというもの。

置いて来れば良かった。


 そう思っていたら、

「こっちの方から誰かの声がしなかったかー?」

「自分にも聞こえやした」

 早速盗賊のご登場らしい。


「かくれて」

 小さい声で2人に指示を出す。


かくれてとは言ったものの、路地裏なので隠れられる場所は道の端にある影ぐらいしかない。


壁に身を押しつけて息を殺していると、

「確かこっちの方から……」

 筋肉モリモリの2人が現れた。


 ……てか、え?

こいつ……村の近くの森の中にいたあいつだ。

「あ」

 思わず声が漏れてしまった。


「ん? あ! おまっ、ぐはっ!」

 盗賊が私に気づいた途端に少し離れたところに隠れていたシィウが飛び出て盗賊の顔面に蹴りを入れた。


 なんという早業か!


「とりゃ!」

 今度はルゥが飛び出て、もう1人の盗賊の脇腹を鞘に入ったままの剣で叩く。

盗賊はそのまま吹っ飛んでいき、壁に打ち付けられた。


 馬鹿力すぎん?


「もう、何してんの?」

 シィウが声を漏らしたことについて問いただしてくる。

「いやー。ちょっと見たことある顔だったからついー……」

「え? もしかして知り合いだった!?」

「いやいや全然そんなことはないんだけど……」


 などと会話をしていると、

「ねぇねぇ2人とも。あれなぁに?」

 そう言いながらルゥが奥の方に地面にたくさん置かれているものを指差す。


「あー、あれは……」

 その問いへの答えを言おうとした時、

「ほう、まさか本を知らないとは」

 さっきまで誰もいなかったルゥの人差し指の先に顔を近づけている女がいた。


 赤い髪をしたポニーテールで、そこそこな値段しそうな服を着ている。とても盗賊とは思えない。


 とっさに臨戦態勢をとる。

シィウも腰にある短剣に手をかける。


「ただねぇ、ただの本じゃないんだ。あれは全部魔導書でね、声に出して読むとその本に刻まれている魔法が発動するんだ。」

 よく見るとコイツ、丸腰だ。

となると使ってくるのは魔法か?

盗賊が使う魔法程度なら問題ないだろうが、精神年齢を下げる魔法が本当にあるのだとしたらマズい。


 そんなことを考えていると、急に女の雰囲気が変わった。

「たとえば……こんな風にね! 楽しい動物園ファニー・ズー

 女の手が紫色に光ったと思ったら急に本が現れ、呪文を唱える。


──途端、白い煙が女の周りから吹き出し、私たち3人を包み込んだ。

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こんな世界で出会えた君に……。 五十嵐 天秤 @nekotyaan_7

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