✤ 22 ✤ 一緒に行くよ


「じゃぁ、言ってくるね!」


 次の日、私たちは準備を整えると、玄関先で、お父さんに挨拶をする。


「本当に、一人で大丈夫か?」


「うん! 大丈夫だよ、心配症だなぁー。それより、お父さんは、早くタイムマシン作ってよね!」


「う……そ、そうだな。そうなんだかッ」


 玄関に立つ、お父さんは、ひどく頭を抱えてる。


 あれから、お父さんは、ミアちゃんたちを未来に帰すために、タイムマシンを作ってる。


 だけど、なかなか上手くいかないみたい。


 どうすれば、時空を行き来できるのか?

 それを、研究する人は、たくさんいるらしいけど、まだ、誰も正解を出せてないんだって。


 確かに、人が過去や未来に、行ったり来たりできたら、すごいことだよね?


 簡単な話じゃないのは、私にも分かる。


 だけど、このままじゃ、タイムマシンが完成する頃には、ミアちゃんたちが、大人になっちゃうよ!


「お父さん、しっかりして! 20年後にはできてるんだから、お父さんなら絶対できるよ!」


「そ、そうか! そうだな! ありがとう、アリサ! 父さん、頑張るからな!」


 うんうん、頑張ってもらわなきゃ!


 ミアちゃんたちを未来に帰すには、タイムマシンを完成させるしかないんだから!


「じーじ、いってくるね~」


 その後、ミアちゃんが父さんに手を振って、私たちは、家を出た。


 外は綺麗に晴れていて、絶好のお散歩日和。

 そして、おそろいの洋服をきたミアちゃんとリュートくんは、とってもキュート。


 私は、リュートくんを乗せたベビーカーを押しながら、ミアちゃんと並んで歩いていく。


 行先は、三か所。まずは、彩芽ちゃんの家にいって、次に威世くんの家。そして、最後にアランくんの家。


 昨日も会ったのに、昨日もアランくんに会える。そう思うと、とても嬉しいはずなのに、昨日の夜『諦めなきゃいけない』と気づいたからか、今は、ちょっと複雑な気分。


 でも、どうせフラレちゃうだろうし、落ち込むのが、少し早くなっただけだよね?


 私は、自分に、そう言い聞かせた。


 だって、告白しなければ、フラれないし、むしろ、よかったんだよ。


 彩芽ちゃんとの仲も壊れることがないし、アランくんとは、今まで通り、友達として仲良くできるし……


「ママ! パパだよー!!」

「え?」


 すると、急にミアちゃんが叫んで、私は顔を上げた。

 見れば、前方に日下部くんがいて、その姿を見つけた瞬間、ミアちゃんが急に走り出す。


 え!? ちょっと待って!!


 突然、走り出したミアちゃん。

 それを見て、私は焦った。


 だけど、ベビーカーを手にしていて、追いかけることが出来なくて、そうこうするうちに、日下部くんが気づいたみたい。ミアたちの元に走ってきた。


「ミア! 急に走り出すな。危ないだろ」


「えぇ! だって、パパがいたから」


「いたからじゃない! 外に出た時は、ママの側を離れるな」


「う、ごめんなさい……っ」


 ミアちゃんを掴まえた日下部くんは、厳しい顔で、ミアちゃんに注意してる。


 ほんの一瞬だったけど、ミアちゃんが離れていった瞬間、すごく怖くなった。


 日下部くんが、前いたからよかったけど、もし道路の向こう側にいたら、車道に飛び出してたかもしれない。


「ありがとう、日下部くん……っ」


「いや、ミアたち連れて、どっか行くの?」


「うん。昨日、友達に、ミアちゃんたちのお洋服を作ってもらったの。だから、そのお礼にいこうかと」


「そう」


「パパ見て~。ミアのお洋服、レースいっぱいにしてもらったの! かわいいでしょ!」


「え? 作ってもらったのって、これ!」


 ミアちゃんが、エッヘンと自慢げに服をみせれば、日下部くんは、その服を見て素直に驚いてる。


 そうだよね。だって、デザインだって凝ってるし、お店で買ったみたいな出来栄えだもの。


「すげーな。友達って、花村はなむらさん?」


「あ、うん。彩芽ちゃんも手伝ってくれたよ。あと、A組の威世くんと、アラン君と一緒に」


「へー……」


 日下部くんが、小さく相槌をうつ。


 というか、日下部くん、彩芽ちゃんのこと知ってたんだ。まぁ、同じクラスだし、知ってるよね?


「俺も一緒に行くよ」


「え?」


「だって、ミアぐらいの子って何するかわからないし。一人で二人見るのは大変だろ?」


「そ、そうだけど、でも……っ」


 ど、どうしよう!

 アランくんの家にも行くのに、日下部くんが一緒だと、なんだか気まずい!


 でも、さっきみたいに、ミアちゃんが急に走り出したら? 私一人で守れる?


「それに、歩き疲れたら、ミアのやつ絶対『おんぶして』って言い出すと思う。恋ヶ崎さん、ベビーカーを押しながら、おんぶできる?」


「えぇ!?」


 おんぶ!?

 しかも、ベビーカー押しながら!?

 

 そうか! 小さい子は歩き疲れたら、おんぶしなきゃいけなくなるんだ!! そこまで、考えてなかった!


「無理だよ! おんぶしながら、ベビーカー押すなんて!」


「じゃぁ、俺がいた方がいいだろ。それに、心配しなくても、友達の家に着いたら、隅に隠れて待ってるよ」


「ホント?」


「うん。俺が一緒にいたら、花村さんたちも戸惑うだろうし」


「そ、そっか……ありがとう! じゃぁ、お願いします!!」


 そんなこんなで、日下部くんも加わることになって、私たちは、まず彩芽ちゃんの家をめざした。


 三人の家は、緩やかな坂を下った町の中心にある。


 彩芽ちゃんの家は、マンションの三階で、威世くんの家は一軒家。


 そして、二人の家に行って、それぞれお礼をすれば、二人は、ミアちゃんとリュートくんの姿を見て、すごく喜んでいた。


 ミアちゃんも、ちゃんと『ありがとうございます』と挨拶できたし、リュートくんも、ぐずることなくご機嫌だった。


 そして、私たちは、時々、休憩をはさみながら進み、最後に、アランくんの屋敷にやってきた。

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