✤ 20 ✤ リメイクしよう!


「いらっしゃい。よく来てくれたね!」


 そして、その後、カールさんに案内されて、二階まで行くと、アラン君がにっこり出迎えてくれた。


 外も豪華だったけど、中も当然、豪華だった。


 床には、高そうな絨毯じゅうたんが敷かれてるし、天井にはシャンデリアまでついてるし、廊下には、いくらするのか分からない壺とか絵画まで飾られてる。


 ミアちゃんたちを連れてこなくて、本当に良かった!

 汚したり、壊したりしたら、大変なことになっちゃうよ!


「暑かったよね。今、飲み物を持たせるよ」


 すると、アラン君が、私の前に来て、爽やかに微笑んだ。

 もう、それだけで、心臓がドキドキしてきちゃった。


 それに、私服姿のアラン君を見たのは初めてで、なんだか、うまく目が合わせられない。


 だって、モデルみたいにカッコイイんだもの。


 背はそんなに高くないし、小柄な感じなのに、足が長いのかな?

 ゆったりとしたシャツを、完璧に着こなしてる。


 というか、そのシャツ、センス良すぎませんか?


 白と黒のツートーンカラーで、ポケットとか袖の装飾が、すごくこってる。

 オシャレでカッコイイけど、どこか可愛らしい感じが、アラン君に、よく似合ってる。


「そのお洋服、可愛い。どこで買ったの?」


「あ、コレ? これは、自分で作ったんだ」


「え!? 自分で!?」


 こんなに、オシャレで複雑そうな服を、自分で作っちゃうの!?

 

 アラン君って、本当に、お裁縫が好きなんだなー。

 それに、この部屋だって、普通の部屋とは全く違う。


 部屋の中央には、大きめの作業台があって、その横には、マネキンが二体。

 壁際には、多種多様な生地がならんでるし、見たこともないようなミシンが何台もある。


 もう男の子の部屋というよりは、職人の部屋だよ!


「そうだ。始める前に、恋ヶ崎さんの要望をきいてもいい?」


 すると、アラン君が、私の荷物を手に取りながら、そういった。古着が入っている紙袋。それを、さりげなく持ってくれるなんて、まさに紳士。


 だけど、渡す時に指先が触れて、思わず、悲鳴を上げそうになった。


 だって、近すぎるよ!

 このままじゃ、心臓の音、聞こえちゃいそう!


「恋ヶ崎さん? 顔赤いけど、大丈夫?」


「へ?」


「もしかして、暑い? クーラーの温度さげた方がいいかな? 今すぐカールに」


「わぁぁぁ、ダメダメ! 執事さんは、呼ばなくていいから! それに、この部屋は快適です! 全く問題ありません!! あ、そうだった! 要望だけど、ミアちゃんね、スカートが好きなんだって! レースがついてるやつ!」


「レース? じゃぁ、うんと可愛くしよっか♪」


 私を心配しつつも、アラン君が、ニッコリ微笑んだ。

 

 その笑顔、まさに天使だよ!

 もう、どうにでもしてください!


 こんなにセンスのいいアラン君に任せておけば、絶対、素敵なお洋服ができあがるよ!


「アラン~。悪い、遅くなって」

颯斗はやと、いらっしゃい!」


 その後、威世いせ君もやってきて、私たちは、二人ペアになって、それぞれリメイクを始めた。


 私とアラン君と、彩芽ちゃんと威世くん。


 私は、アラン君の足を引っ張らないか、すごく心配だったけど、アラン君が、的確に指示をしてくれたおかげで、裁縫初心者の私でも、しっかりお手伝いできた。


 それに、もう着なくなったお洋服が、まるで魔法みたいに、可愛い子供服に変身していくの!


 凄いな~。古くなったお洋服が、生まれ変わったみたいに、キラキラしてる!


 それに、リメイクやお裁縫が、こんなに楽しいなんて知らなかった!


「みんな、本当にありがとう!」


 それから、お昼を食べたり、休憩をはさんだりしながら、私たちは、夕方までリメイクに没頭した。


 完成した衣装は、ミアちゃんの洋服が三着と、可愛いポシェットがひとつ。そして、リュートくんのベビー服が二着と、スタイが二枚。


 完成品を見つめながら、私は、満面の笑みでお礼を言った。すると、アラン君と彩芽ちゃんが


「よかったよ。喜んでくれて」


「思ったより、たくさんできたね!」


「うん! 彩芽ちゃんが、アラン君と威世くんに頼もうって言ってくれたおかげだよ! それに、二人がこんなにお裁縫が上手なんて思わなかったし、すごくかっこよかった! 本当にありがとう!」


 全身で感謝の気持ちを伝える。

 すると、アランくんと威世くんは、少し驚いた顔した。


「あれ? どうしたの?」


 私、変なこと言っちゃった?


 少し不安になって聞いてみれば、その後、威世くんが、気が抜けたように笑いだした。


「いや、男が裁縫やってると、気持ち悪いとか、女々しいとか言われるからさ。まさか、カッコイイといわれるとは思わなかったんだ」


「えぇ!?」


 威世くんの話に、私は驚く。

 だって、裁縫してる時の二人は、本当にカッコよかったもの。


 図案を考えてる時の会話とか、ミシンを扱ってる時の表情とか。裁縫に熱中している姿は、真剣そのもので、学校では見ない表情にドキドキした。


 なにより、とても楽しそうだった。

 それなのに、そんなに酷いこと言う人がいるなんて!?


「信じられない! 女々しいとか、気持ち悪いとか! 男の子が、裁縫好きでもいいはずなのに!」


「そうだよね。なにより、お裁縫が得意で、可愛いものが好きでも、二人は、とっても男らしいのに」


 すると、私の言葉に、彩芽ちゃんが同意してくれた。彩芽ちゃんは、二人と仲がいいし、思うことがいっぱいあるのかもしれない。


 だって、彩芽ちゃんの言う通りだもの。


 裁縫が好きでも、アラン君も威世くんも、男の子らしさは、全くなくなってない。


 それなのに、人が真剣に取り組んでいるものに対して、性別を理由にバカにするなんて──


「酷いよ……! もしまた、そんなこと言う人がいたら、私がガツンと言ってやるからね!」


「あはは、ありがとう」


 すると、アラン君が、朗らかに笑って、私を見つめた。


「恋ヶ崎さんは、僕と初めてあった時も、そうだったよね?」


「え?」


「裁縫が得意で、可愛いものが好きって言っても、嫌な顔ひとつしなかったし、たくさん褒めてくれた。あの時、喜んでくれてたのが、僕はすごく嬉しかったよ」


「……っ」


 え? アラン君、そんなこと思ってたの?


 私を見つめるアランくんの目は、すごく優しくて、おかげで、身体は、火を吹くよう熱くなった。


 ど、どうしよう、嬉しい……っ


 でも、これじゃ、すぐに顔が赤くなっちゃうよ。それに、赤くなったら、好きって、バレちゃうんじゃ……!?


「失礼します。アラン様。ご所望のものをお持ち致しました」


 すると、絶妙なタイミングで、メイドのシャルロッテさんがやってきた。


 あぁぁぁぁ、よかったぁぁ~~~!!!


 みんなの視線は、私から、シャルロッテさんに移ってホッとする。

 だって、赤い顔をみられずにすんだんだもの!


「箱は二つで、宜しいですか?」

「うん。ありがとう、シャルロッテ」


 すると、シャルロッテさんは、大きめの箱を、二つアランくんに差し出して、アラン君が、その箱を受け取り、作業台の上に置いた。


 可愛くて頑丈な箱。一体、何に使うんだろう?

 私が、考えていると


「恋ヶ崎さん。その子供服、綺麗にラッピングして持たせてあげるよ。その方が、子供達も喜ぶでしょ?」


 ま、まさか、子供服をプレゼント包装してくれるってことですか!?

 なにその完璧すぎる、お気づかい!!


(やっぱり、アラン君は、素敵すぎるよ……っ)


 優しくて、頼りになって、私にとって、最高の王子様──その日私は、改めて、そう思ったのだった。

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