✤ 16 ✤ ミアちゃんの気持ち


「わーい! お洋服、作ってくれるの!?」


 その後、家に帰ってミアちゃんに話せば、ミアちゃんは、とても喜んでいた。


「ママが、作ってくれるの!」


「うんん。私じゃなくて、私のお友達が、みんなで作ってくれるの。だから、日曜日は出かけてくるね」


「ミアは、お留守番?」


「うん。ハサミとかミシンを使うだろうし、危ないしね。そうだ。ミアちゃんは、どんなお洋服が好き?」


「んーとね。ミア、スカートが好きなの! レースがいっぱいついてるやつ!」


「レースかぁ~」


 そういえば、レースがついた可愛い服は、買ってあげてなかったなぁ。

 お願いしてる立場だから、あまりワガママは言えないけど『レースをつけて』って言ったら、アラン君たち聞いてくれるかな?


(あぁぁ、でも、どうしよう! まさか、アラン君の家に行くことになるなんて!)


 嬉しい気持ちと、戸惑う気持ち。

 それが、心の中でひしめき合ってる。


 だって、好きな人の家だもの。

 

 日曜日、何を着て行こうかな?

 私服のセンスが悪いとか思われたくないなー


 あぁ、これじゃ、ただでさえ寝不足なのに、もっと眠れなくなりそうだよ。


「ママ。お顔、赤いよ?」

「へ!?」


 瞬間、ミアちゃんに言われて、私は更に赤くなる。


「べ、別に赤くないよ! そ、そうだ! リュートくんは、どんな服がいいかな~」


「あぅまー」


 私は、話をそらしつつ、リュートくんに笑いかけた。今日のリュートくんは、どうやら、ご機嫌みたい。


 さっきまで、カフェのベビーベッドの中で、ぐっすり寝てたからかな?

 ニコニコ笑うリュートくんは、とってもキュート!


 きっと天使の笑顔って、こんな笑顔を言うんだろうな。昨日の夜は、夜泣きが酷くて、私まで泣きそうだったけど、この笑顔を見たら、全部吹き飛んじゃう!


「ママ~、絵本読んで?」


 すると、今度はミアちゃんが、私に絵本を差し出してきた。しかも、三冊も!


「あ、待って、ミアちゃん。私、リュートくんの機嫌がいいうちに、宿題をしたくて」


「えー!」


 でも、その瞬間、ミアちゃんは、悲しそうにうつむいた。あ、もしかして、傷つけた?


「ミ、ミアちゃん、ごめんね!」


「うんん、ママ忙しいし……ミア、いい子にしてる」


(あ、しまった!)


 落ち込むミアちゃんは、そう言って離れていって、私は後悔した。

 そういえば、ここ3日、ずっとリュート君のことばっかりだった気がする。


 ミアちゃんは、よく私に話しかけてきたけど、私は、リュートくんのことで手一杯で、ミアちゃんのことは、あまりかまってあげられなかった。


 ミアちゃんも、甘えたかったよね?

 それに、今日は学校にも行ってたし、寂しかったのかも?

 私はそう思うと、ミアちゃんに向かって、大きく手を広げた。


「ミアちゃん、おいで。抱っこしよう!」


「抱っこ?」


「うん。だって私、リュートくんばっかり抱っこしてて、ミアちゃんのことは、抱っこしてなかったし」


 こんなことで、ミアちゃんの気持ちが和らぐとは思えないけど、何もしないよりはいいよね?


 すると、ミアちゃんは、私のそばに、ゆっくり近づいてきた。


「いいの?」


「うん、いいよ。だって私は、ミアちゃんのママだもん!」


 そう言って笑えば、ミアちゃんは、キュッとスカートを握りしめたあと、素直に抱きついてきた。


「ママぁ……っ」


 小さいミアちゃんは、安心したように目を閉じる。私は、そんなミアちゃんの髪を優しく撫でた。


 考えてもみれば、未来から、いきなり過去に飛ばされて、怖かったはずだよね?


 明るく笑ってたから気づかなかったけど、本当は、すごく不安だったのかもしれない。


 だって、本当のママとパパは、未来にいるんだよ?

 それに、記憶だって、ほとんど思い出せてない。


 小さいリュート君のお世話も大事だけど、ミアちゃんの『心』のほうだって、もっと大事にしてあげなきゃいけないのかもしれない。


(いっぱい、我慢させてたし、リュートくんの機嫌が良い時は、できるだけミアちゃんと遊んであげた方がいいのかも?)


 でも、そうなると、完全に自分のことが後回しになっちゃうよね?


 宿題、どうしよう?

 お父さんの仕事が終わってから、やるしかないかな?


 でも、夜は夜で、ご飯を食べたり、お風呂入れたりしなきゃいけないし、宿題できる頃には、夜9時を過ぎてるんじゃないの?


 あれ?

 なんか、宿題やる時間がない気がしてきた。


 もしかして、子供を二人育てるって、すごく大変なことなんじゃないの!?


 ──ピンポーン!


 でも、その時、突然インターフォンが鳴り響いた。

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