✤ 14 ✤ 育児と恋と友情と


 お母さん、天国では元気にしていますか?

 突然ですが、私、今日からママになりました。


 実は、20年後の未来から、私の子供たちがやってきたの。

 名前は、ミアちゃんとリュートくん。

 二人とも、とっても可愛くて、甘えん坊さん!


 だから、私とお父さんだけの生活も、ちょっと賑やかになりそうです。


 だけど、一つだけ困ったことがあります。


 それは、今好きな人と、将来結婚する相手が違ったこと。


 ねぇ、お母さん。

 私は、どうすればいいのかな?




 ✤✤✤



「えー、ママいなくなっちゃうのー!」


 月曜日の朝──朝ごはんのトーストとオムレツを食べながら、ミアちゃんが大声をあげた。


 ちなみに私は、今、リュートくんにミルクをあげてる。あれから、一日がたって、ちょっとは慣れてきたんだ。

 だってリュートくんは、定期的に泣いてミルクを欲しがるんだもの。それも、昼夜問わず。

 おかげで、今日の私は、とっても寝不足です!


「ふぁぁぁ~、だから、いなくなるんじゃなくて、今日から学校なの。だから昼間は、お父さん……じゃない、じーじと一緒にカフェでいい子にしててね」


「がっこう? ミアは一緒にいけないの?」


「うん。こればっかりは、絶対ムリ」


 子連れで学校なんて、絶対ダメ。

 でも、それを聞いて、ミアちゃんは、すごくシュンとしてる。

 そんなに、私と離れるのが嫌なんだ。

 でも、仕方ないよね。


「ねぇ、ミアちゃん! 一階のカフェにはね、キッズコーナーがあるんだよー。オモチャもいっぱいあるからね!」


「オモチャ? ミア、ブランコ乗りたーい!」


「いや、ブランコはないけど」


 ありゃりゃ、これは、お父さんが大変かも?


 昨日の日曜日、私とお父さんは、ミアちゃんたちの生活の基盤を整えるため、再びベビーショップにいった。


 赤ちゃんに必要なものって、オムツとミルクだけじゃなかった。他にも、お布団とか、赤ちゃん用のボディーソープとか、抱っこ紐とか色々。それは、もう本当に色々買いそろえないといけなくて、ワゴン車に乗り切らないくらい買い込んできた。


 あと、カフェにあるキッズコーナーも、少し新設したの。オモチャを増やしたり、ベビーベッドを取り付けたり。


 ちなみに、あのキッズコーナーは、私が小さい頃に、よく遊んでいた場所。

 お父さんが、お仕事をしている間は、よく一人でお絵描きをしたり、本を読んだりしていた。


 そして、意外と退屈はしなかったのは、お父さんが発明したオモチャが、いっぱいあったから。


 お父さんのオモチャは、いつくかは特許とっきょをとって、オモチャ会社と契約してるものもあるの。


 と言っても、難しい話は、私にはよくわからないけど、子供たちも、また遊びたいって言ってくれるし、子連れのお客様にも、けっこう好評なんだよね。


「アリサ。早くご飯を食べなさい」


 すると、料理を終えたのか、お父さんが話しかけてきた。

 どうやら、リュートくんにミルクを飲ませるのを変わってくれるみたい。

 私は、お父さんに、リュートくんを任せると


「ありがとうー。私、まだ一口もたべれてないよー」


「腹が減ると、勉強に集中できないぞ」


「はーい。──て! もうこんな時間!?」


 気がつけば、もうすぐ出ないといけない時間になっていた。私は、急いで食事を終わらせると、自転車に飛び乗った。



 ✣✣✣



「ふぁぁぁ~」


 そして、学校について、早くも2時間目の休み時間。私は、机に突っ伏して、大きく欠伸をしていた。


 だって、眠すぎるんだもの。

 赤ちゃんて、あんなに夜泣きするの?

 二時間おきに、起こされたんだけど……


(はぁ……やると言ったからにはやるけど、あんなにハードだとは思わなかった)


 まさか、たった二日で、こんなに疲れるなんて!


「アリサちゃん、大丈夫?」

「あ、彩芽あやめちゃん」


 すると、青い顔をしてうなだれていた私に、彩芽ちゃんが声をかけにきた。


「元気ないみたいだけど、大丈夫? 保健室いく?」

「あ、うんん! ただの寝不足だから大丈夫!」


 やっぱり彩芽ちゃんは、優しいなぁ。

 私の体調を心配してくれるなんて。


「寝不足? 夜更かしでもしたの?」

「あ、それは……」


 でも、彩芽ちゃんが更に問いかけてきて、私は黙り込んだ。


 どうしよう。

 彩芽ちゃんになら、話していいかな?

 勿論、未来のこと以外だけど。


「あのね、突然、親戚の子を預かることになって、その子達のお世話で、ちょっと」


「親戚の子? 何歳?」


「5歳と0歳」


「え、二人!? しかも、0歳の赤ちゃんのお世話って、大変でしょ!」


「そうなんだよー、とっても大変なの! 夜泣きで、しょっちゅう起こされるし、寝たあとは寝たあとで、心配で眠れないし! それに、私にベッタリくっついて離れないから、宿題だって、まともにできないし!」


 なんだか、いっぱい愚痴ってるけど、別にリュートくんたちのお世話が、嫌なわけじゃないの。


 ただ、一気に環境がかわっちゃったから、戸惑うこともあって、自分のダメな部分とか、上手くできなくて悔しい所とか、色々、吐き出したくなっちゃった。


「はぁ。私、ちゃんと二人の面倒みれるのかなー?」


「ふふ、なんだか今アリサちゃん、ママって感じだね」


「ママ?」


「うん。その子たちのこと、とても大切なんだなって」


 彩芽ちゃんが、ふわりと笑う。

 確かに、彩芽ちゃんのいう通りだ。

 私は今、ミアちゃんとリュートくんのことを、とても大切に思ってる。


 この前、初めて会ったばっかりなのに、甘えられたり、抱っこしたりする度に『かわいいな』とか『愛しいな』って気持ちが湧いてくる。

 でも、これって、やっぱり私がママだからかな?


「……あ」


 すると、ふと日下部くさかべくんと目があった。

 教室の隅。窓際の席に座って、私のことを見つめてる。でも、私は、とっさに目をそらしちゃった。


(う……なんだか、気まずい)


 この前──


『俺たち、いつか結婚するんだろ』


 あんなことを言われたからか、まともに顔が見れなかった。


 なにより、日下部くんは、どう思ってるの?

 将来結婚してるなんて、そんな話、簡単に受け入れられる?


 だって私たち、土曜日に、初めて話したばかりなんだよ?

 それに、私が好きなのは、アランくんだし──


「ねぇ、アリサちゃん」


 すると、彩芽ちゃんが、私の手を取って


「私にできることがあれば、遠慮なく言ってね? 育児の悩みでも愚痴でも、いつでも相談にのるよ!」


「わーん! 彩芽ちゃんは、まさに天使だよ! 大好き!」


「あはは、大袈裟だよ」


 いやいや、大袈裟じゃないよ!

 本当に、彩芽ちゃんが、お友達でよかった!


「ねぇ、子供たちの名前は、なんていうの?」


「ミアちゃんとリュートくん。あ、そうだ……彩芽ちゃん、さっそく相談があるんだけど、いいかな?」


「いいよ」


「あのね。お下がりできそうな子供服とかあったりする?」


「子供服?」


「うん、この前、ベビー用品を一式買いそろえたんだけど、けっこうお金がかかっちゃって。だから、服はお下がりでなんてかしようって話になったんだけど、私の着れなくなった服は、ミアちゃんには、まだ大きすぎるし」


「あー、確かに子供服って意外とお金かかるもんね。でも、うちは弟がいるけど、私たちが小さい頃の服は、お母さんがフリマアプリで、売っちゃってた気がする」


「あ、そっか! 私たち、もう中学生だしぬ。小さい頃の服なんて、もう残ってないよね」


「アリサちゃん、ガッカリしないで。それより、もっと、いい方法があるよ」


「もっといい方法?」


「うん。私の家にも、もう着ない服があるから、二人で古着を持ち寄って、アランくんと威世いせくんに、リメイクしてもらうの!」


「え!? リメイク!?」


 リメイクって、あれだよね。いらなくなった服を再利用して、新しくお洋服をつくっちゃうやつ!

 でも、それを、アランくんに!?


「そ、そんなこと頼むのは悪いよ!」


「大丈夫だよ。あの二人、お裁縫大好きだし。それに、私たちの頼みなら聞いてくれると思うから、さっそく次の休み時間に、頼みに行ってみよう!」


「えぇ!?」


 そして、次の休み時間、私は彩芽ちゃんに連れられて、アランくんたちがいる、1年A組に向かった。

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