✤ 12 ✤ 未来からの手紙


 そして、そこには、達筆というよりは、走り書きしたような文字で、こう書かれていた。



 ────────────────────


 12歳のアリサへ


  この子達は、未来のあなたの子です。

  私の代わりに育ててください。


         32歳のアリサより


 ─────────────────────



「え? これだけ?」


 手紙の内容は、あまりにもあっさりしたものだった。


 だって、たったの二行だよ?

 もっと他にも書くことあるでしょ?

 それに、育ててくださいって、なに?


 その瞬間、私は、あまりのショックに体を震わせた。


 だって『育ててください』って、完全に育てる気がないってことだし、つまり未来の私は、ミアちゃんたちを──ってこと?


「ママ、どうしたの?」


 すると、ミアちゃんが、私を見つめた。


「お手紙、なんて書いてあったの?」


 そっか。ミアちゃんは、この手紙の内容をしらないんだ。でも、そうだよね。まだ5歳なら、文字は読めないだろうし。


「ミ、ミアちゃんのママは……」


 なんて、話そう。

 未来からの手紙は、最悪な手紙だった。

 でも、本当のことなんて──


「ミ、ミアちゃんのママはね。今、お仕事が、ものすごーく忙しいんだって! だから、しばらくは、こっちの世界で、私たちと楽しく過ごしててねって!」


 できるだけ、笑顔で答えた。

 ミアちゃんが、不安にならないように。


 だって、こんなこと言えるわけないよ。

 もしかしたら、親に捨てられたのかもしれないなんて──


「恋ヶ崎さん、その手紙みせて」

「え?」


 すると、今度は、日下部くんが、私に話しかけてきて、私は手にしていた手紙を、そのまま日下部くんに差し出した。


 すると、日下部くんは、一度、文字に目を通したあと、その手紙をひっくり返した。


「やっぱり……この手紙、カレンダーの裏に書かれてる」


「カレンダー?」


「うん。卓上カレンダーを一枚やぶって、その裏に書いてるんだ。そして、そのカレンダーの日付が──2042年の7月」


「え……2042年!?」


 それは、間違いなく未来の日付だった。

 今が2022年。たしかに、20年後の日付だ!


「未来にも、カレンダーがあるの?」


「カレンダーは明治の頃からあるし、20年後にも普通にあるんじゃないか」


「そっか。じゃぁ、ミアちゃんたちは、本当に未来から来たってこと?」


「それは確かだろうな。それに、過去こっちに来れたって事は、未来あっちに帰る方法も、必ずあるってことだ」


「……っ」


 日下部くんの言葉に、私はゴクリと息をのんだ。

 ミアちゃんたちを未来に帰す方法がある。なら──


「お父さん、今すぐタイムマシン作って!」


「え!? な、何を言ってるんだ、アリサ!?」


「だって、20年後に作れたって事は、今、作ることだってできるでしょ!」


「そんな、20年もかけた研究だぞ!? 今すぐになんて! それに、時空を行き来するメカニズムを解明しないことにはッ」


「だから、それを今すぐ解明して、タイムマシンを作ってって言ってるの! お願い、お父さん! ミアちゃんたちのお世話は、全部、私がやる! 仕事以外の時間は、全と研究に当てていいから、今すぐタイムマシンを作って!」


 そうだ。こんなの許しちゃいけない!


 だって、ミアちゃんとリュートくんは、パパとママのことが大好きなんだもの。


 だから、お父さんがタイムマシンを完成させて、ミアちゃんたちと未来に行ったら、ガツンと言ってやるんだ。


 20年後・32歳になった私に──『子供を手放すなんて、何を考えてるんだ』って!

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