✤ 11 ✤ 私たちだけの秘密


 それから、一時間くらいたって、私たちは、リビングにあるダイニングテーブルに腰かけていた。


 私とお父さんの向かいには、ミアちゃんと日下部くんが座ってる。そして、その日下部くんの腕の中には、すやすやと眠るリュートくんがいた。


 あのあと、ミアちゃんは、日下部くんの腕をつかんで、無理やり、リュートくんのもとに連れって行った。


 そして、泣いてるリュートくんを、日下部くんに抱っこした瞬間、あら不思議!


 なんと、泣いていたリュートが、急に泣き止んだ。

 これには、ミアちゃんも大喜び!


 でも、なんで? やっぱり、パパだから?


 これには、色々思うことはあったけど、その後、リュートくんが落ち着いているすきに、哺乳瓶を消毒して、オムツを変えてあげた。


 でも、オムツ替えなんてしたことないし、私が怖くて固まっていたら、これは、お父さんが変わってくれたの。一応、子育て経験者だしね!

 昔を思い出しながら、何とかってかんじ。


 でも、ミルクを作るのは、私が頑張ったんだよ!


 バタバタしていたら、30分くらいあっという間に過ぎ去って、哺乳瓶の消毒が終わった。そして私は、ミルクの缶とにらめっこしながら、ミルク作り。


 まずは、お湯を沸かして、ミルクの粉をスプーンですくって、哺乳瓶に入れる。


 そして、お湯を注いで溶かして完成!……と言いたいところだけど、このままじゃ熱いから、人肌に冷まさないといけないんだって。


 ミルクの適正温度は36〜40℃くらい。


 でも、人肌なんて言われてもよくわからないし、流水で哺乳瓶ごと冷やしながら首を傾げていたら、日下部くんが『このくらいで大丈夫』と教えてくれた。


 日下部くんは、家でも妹にミルクをあげてるみたいで、すごく手慣れていた。


 私が哺乳瓶を渡せば、床にあぐらをかいて座り込んで、抱きかかえたリュートくんに、ミルクを飲ませていて、その姿は、まさにパパだった。


 リュートくんも安心してるみたいだし、それに、ミルクを飲み干したあとは、日下部くんが、リュートくんを縦抱きにして、背中をトントンと優しくさすってあげていた。


 『何やってるの?』って聞いたら、赤ちゃんはミルクを飲むときに、空気も一緒に飲みこんじゃうだって。


 だから、そのままにしておくと、ミルクを吐いて窒息する恐れがあるから、それを防ぐために、ミルクを飲ませたあとは、毎回ゲップをさせて、空気をだしてあげるらしい。


 すごいなー。そんなことも知ってるなんて、さすがは、お兄ちゃん!


 さっきは、オムツ博士なんて言ったけど、詳しいのはオムツだけじゃなかったよ。


 そして、その後は、リュートくんが、日下部くんの腕の中で眠っちゃって、私達は、そのすきに、リビングで話し合うことにした。


 なんの話し合いかって?

 それは、もちろん、ミアちゃんとリュートくんのことについて!


   ✤


「つまり、この子達は、タイムマシンに乗って、20年後の未来からきたってこと?」


 午後3時すぎ──昼下がりのリビングの中で、私の前に座る日下部くんが、困惑しつつ、そう言った。


 結局、今日起こったことを、全部話すことにしたの。でも、簡単に信じられる話ではないし、日下部くんは、すごく複雑そうな顔をしてる。


 まぁ、わかるよ。

 私だって、まだ半信半疑だし。


「ミアちゃんは、そう言ってる。でも、私もまだ信じられなくて……だけど、突然、部屋の中に風が吹いて、光の中からこの子達が現れたのは確かだよ」


「あー、確かにあの部屋、すごく散らかってたな」


「ち、散らかってたとか言わないでよ!」


 ミアちゃんたちが現れた時に、散らかった私の部屋。

 片付ける余裕がなかったとはいえ、あの散らかった状態の部屋に、日下部くんを入れることになってしまった。


 しかも、あんな状態の部屋を、クラスメイトに、それも男子に見られてしまうなんて、今考えたら、ものすごく恥ずかしい!


「言っとくけど、いつも散らかってるわけじゃないからね!」


「…………」


「あ! その顔、信じてないでしょ!」


「いや、そういうわけじゃないけど……」


「パパ! ママは、ウソついてないよ!」


 すると、そこに、ミアちゃんが口を挟んだ。


「ミアたちがきた時にね、お部屋がブワァ~ってなって、バサバサ~っとおちて、ぐちゃぐちゃになっちゃったの!」


「ぐちゃぐちゃね。でも、ミアちゃんは、未来のことは、何も覚えてないんだろ?」


「うーん、おぼえてたはずなんだけどなぁ。こっちにきたら、思いだせなくなっちゃった。でも、パパとママとじーじのことは、顔を見たら思いだしたよ!」


 日下部くんが聞けば、ミアちゃんが、笑って答える。


 あれから私たちは、未来のことも含めて、ミアちゃんに詳しく話を聞いた。


 ミアちゃんのフルネームは『日下部 ミア』

 そして、リュートくんは『日下部 リュート』


 年齢は、5歳と0歳5ヶ月で、二人は姉弟。


 そして、未来では、母親の『日下部 アリサ』と、父親の『日下部 柊真』の4人で暮らしていたらしい。


 だけど、それ意外のことは、さっぱりだった。


 未来は、どんなかんじなのか?とか

 パパとママは、なにをしているのか?とか

 どうやって、こっちにきたのか?とか


 まるで蓋をされたみたいに、全く思い出せなかった。


 でも、私と日下部くんが、パパとママであることと、私のお父さんが、じーじ、つまりおじいちゃんであることは、顔を見た瞬間に思い出したらしい。


 そして、自分が20年後の未来から来たということも、ミアちゃんは、ハッキリ理解していた。


 そんなわけで、私たちは、お父さんが言っていたように、20年後に開発されたタイムマシンに乗って、過去こっちに来たと言う話になった。


 そして、お父さんは


「未来から過去にタイムスリップしてきたなら、記憶が混乱していても、おかしくはないだろう。それに、僕達の顔を見て思い出したのなら、これから、ゆっくり未来のことも思い出すかもしれない」


 そうとも、いっていた。


 確かに、ミアちゃんは、まだ小さいし、いきなり両親と離れて過去に来たら、ショックで記憶が混乱しちゃうこともあるかもしれない。


 だけど、問題は、このあと、どうするか?


「ねぇ、お父さん。ミアちゃんたち、これから、どうするの? やっぱり警察に届けるの?」


 普通は、見知らぬ子達があらわれたら、警察に届けるよね?

 でも、未来からきたなんて言って、信じてもらえるのかな?


「いや、しばらくは、僕たちだけの秘密にしよう。もし、ミアちゃんたちが、だと知られたら、大変なことになるかもしれない」


「大変なこと?」


「うん。未来から来たなんて、信じる人は、そうはいないだろう。だが、もし信じる人間がいて、それが悪い大人だったら、ミアちゃんを誘拐して、未来の情報を聞き出そうとする人も現れるかもしれない」


「え!?」


 お父さんの話に、私は震えあがった。


 今は、思い出せないけど、確かに、ミアちゃんは、20年後の未来の情報を握ってる。


 でも、その情報のために、誘拐だなんて!


「ダメ! そんなの絶対だめ!」


「当然だ! 僕も可愛い孫たちが、危険な目に会うなんて耐えられない! だから、しばらくは、親戚から預かったことにして、僕たちだけの秘密にしよう」


「うん、そうだね。日下部くんも、このことは、誰にも言わないでいてくれる?」


「あぁ、俺も、この子達が、危ない目に会うのは嫌だし」


「ありがとう! あと、ミアちゃんも、未来から来たってことは、絶対に誰にも言っちゃダメだよ」


「うん!」


「それと、なにか思い出した時は、必ず私に報告すること!」


「分かった! あ、そうだ! ママ! 私、大人のママからお手紙あずかってた!」


「えぇぇ!?」


 すると、急に思い出したらしい。ミアちゃんは、ワンピースのポケットを、ガサゴソとあさくりはじめた。


 ていうか、手紙って!?

 そんなの預かってるなら、早く言ってよ!


 そして、新たな新事実発覚に、私だけじゃなく、お父さんと日下部くんもおどろいてる。


 だって、その手紙は、20年後の私からの手紙ってことでしょ!?


 ──未来からの手紙。

 そう思うと、すごくドキドキしてきた。


「はい、ママ!」


 すると、ミアちゃんが、私に手紙をさしだしてきて、私は、その手紙をしっかり受け取った。


 ハガキサイズの紙が、四つ折りに折りたたまれてる。手紙と言うよりは、メモに近いかんじ。


 そして私は、ゆっくりと、その手紙を開いた。

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