✤ 9 ✤ ベビーショップでの再会


 それから私は、自転車を走らせ、近くのベビーショップまでやってきた。


 着替える余裕がなくて制服のままだけど、半袖のパーカーを羽織ってきたから、学校帰りに寄り道してるようには、多分、見えないよね?


 そんなわけで、いざ、ベビーショップへ!

 

 お店の中に入れば、そこには、子ども連れの家族でいっぱい。ベビーカーを押してる夫婦とか、オモチャを見てる子供とか、他にも小さい子を連れたパパやママが、たくさんいる。


 そして、そんな場所に、一人でやってきた中学生の私は、明らかに場違いな感じ。だけど、今は、そんなこと言ってる場合じゃないよね!


(リュート君、泣いてるよね? 早く帰らなきゃ!)


 私は、店内を早足で歩き回りながら、オムツとミルクを探した。すると、それから、しばらくして、奥の棚にオムツコーナーがあるのが見えた。


「あった!──て、なにこれ!」


 棚には、大量のオムツだ並んでいた。

 でも、さすがに、数が多すぎない!?


 しかも、新生児? S.M.L、ビッグ?

 なにこれ、オムツって、こんなにサイズがあるの!?


「し、新生児しんせいじって、なに? リュートくんに合うサイズって、どれ?」


 しかも、テープタイプとパンツタイプと、2種類あるし、買って来いって言われたけど、どれを買っていけばいいか、全くわからない!


(ど、どうしよう……適当に買っていってもいいかな? でも、サイズがあわなかったら、意味がないような……っ)


 私は、オムツコーナーの前で、困り果てた。


 しかも、お父さんに聞きたくても、スマホをもってないから、電話すらできない。やっぱり中学生になったし、スマホ買ってって、今度、お願いしてみようかな?

 でも、とにかく今は、自分で何とかしなきゃ!


 その後、私は、オムツコーナーの前で、ひたすら考え込む。だけど、数がありすぎて、なかなか決めきれない。


 すると、その時だった。私の隣に来た人が、オムツを一袋、手に取ったのが見えた。


 こそっと目を向ければ、そこには、私と同じくらいのがいた。


 黒いTシャツとジーンズを履いた、背が高い男の子。

 サラサラの黒髪に、鼻筋の通った顔立ち。

 そして、そのクールな雰囲気の男子には、見覚えがあった。


 同じクラスの日下部くさかべくんだ。


「く……日下部くん、だよね?」


 学校では、一度も話したことないけど、思い切って声をかければ、日下部くんは、私に顔を見るなり


「あぁ、恋ヶ崎さん……だっけ?」


「う、うん。私の名字、おぼえててくれたんだ」


「まぁ、同じクラスだし。それに、恋ヶ崎って名字、珍しいし」


「あ、そっか!」


 確かに、そうだよね!

 恋ヶ崎って、珍しいし、言いづらいし!


 でも、まさかこんなところで、クラスメイトと遭遇するなんて!

 しかも、重要なのは、この日下部くんが、オムツを手に取ったってこと!!


「あのさ! 日下部くんて、もしかして、オムツに詳しい!?」


「は?」


 すがる思いで見つめれば、日下部くんは、少し驚いた顔をした。


「詳しいって……なんだよ、いきなり」


「あのね、至急オムツが必要なんだけど、どのサイズを買えばいいかわかんなくて!」


「わかんないって、恋ヶ崎さんち、赤ちゃんいるの?」


「う、うん。今日、突然やってきて」


「突然?」


「あ、いやいや、とにかくね! 今すぐ、オムツを買って帰らなきゃいけないの! だから、お願い! どれがいいか教えて!」


「どれがって……赤ちゃん、何ヶ月?」


「な、何ヶ月!?」


 それって、生まれて何ヶ月目かってこと?

 そう言えば、リュート君、いつ産まれたんだろう?

 0歳ってことしかわかんないよ!


「わ、わかんない」


「……なんだよ、それ。じゃぁ体重は?」


「た、体重は、えーと……っ」


 いやいや、わかんないよ!

 私の頭は、もう『?』だらけだよ!

 でも、さっき抱っこしたし、大体の体重ならわかるかも?


「えっと、お米一袋……くらい?」


「米? 5キロくらいってこと?」


「う、うん、大体、そのくらいだと思う! 結構ずっしりしてたし!」


「じゃぁ、寝返りとかハイハイは? できる?」


「えーと、寝返りは、わからないけど、ハイハイは、まだできないとおもう」


「そう。じゃぁ、うちの美紅みくと同じくらいかな」


「ミク?」


「俺の妹。今、5ヶ月。Mサイズを買っていけば、何とかなるんじゃないか?」


「ホント! あ、でも、テープタイプとパンツタイプってなに!? どっちがいいの?」


「5ヶ月くらいなら、まだテープでいいよ。パンツタイプは、立てるようになってからだよ」


「そうなんだ! ありがとう!!」


 まさに、渡りに舟!

 日下部くんがいてくれて、よかった!


「凄いね! 日下部くんて、オムツ博士だったんだね!」


「オム……なんだ、それ。どんな称号だよ」


「だって、凄く詳しいし」


「別に詳しくない。俺、四兄妹の長男だから、下の面倒をよく見てて、何となく覚えてただけだ」


「そうなんだ。でも、助かったよ! 本当に、ありがとう~!」


 にっこり笑って、お礼を言う。

 私にとっては、まさに救世主だよ!


「そう。じゃぁな」


 すると、日下部くんは、颯爽と、その場を立ち去ろうと踵を返した。だけど私は、そんな日下部くんの服を掴むと


「待ってー! まだ行かないで!!」


「はぁ!?」


「ミルク! ミルクもわかんないの! 赤ちゃんにミルクを飲ませる時に必要なもの、全部教えて!」


「……っ」


 その後、日下部くんは、少し呆れように、私を見つめた。

 だけど、その後も、親切に教えてくれて、私は、日下部くんのおかげで、なんとかリュート君に必要なものを買い揃えられたのだった。

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