✤ 8 ✤ 未来の子供たち


「「うわぁぁぁぁぁあああん」」


 まだ小さい二人が、大声で大合唱。それは、まさに耳を塞ぎたくなるくらいの声だった。


(ど、どうしよう……!)


 もしかして、私が、泣かしちゃった!?

 確かに、ママだと思ってる人に、ママじゃないなんて言われたら傷つくよね!


「うわぁぁぁん、ママは私たちのことが、きらいなのー!」


「き、嫌いじゃないよ!」


「じゃぁ、なんでリュートを抱っこしてくれないのー!」


「する! するから!!」


 泣いてる二人をほっとくわけにはいかないし、私は、ミアちゃんに言われるまま、リュートくんを抱っこすることにした。


 だけど、リュートくんはまだ小さくて、緊張して、体がガチガチになった。


(だ、大丈夫かな? 抱っこって、こんな感じ?)


 初めての体験に、私の心臓は限界寸前。

 アランくんと話す時よりも、バクバクしてるよ!


 でも、その後、なんとかリュートを受け取った私は、腕の中で、そっとリュートくんを横抱きにする。


 まるで、ゆりかごに寝かすように。すると、リュート君は、モゾモゾと動き出して、私にピッタリ寄り添う。


(わ、かわいい……っ)


 ほっぺた、ぷにぷにしてる。

 おてても、ちっちゃい。


 でも、見た目は小さいのに、おもったより、ずっしりとした重みがあった。

 ずっと抱っこしてたら、腕が痺れちゃいそう。


 だけど、赤ちゃんて、こんな感じなんだ。

 小さくて柔らかくて、とっても可愛い。


 でも、手を離したら、いなくなっちゃいそうで、この重さが、命そのものを抱っこしてるみたいに感じた。


「ひく、あぅぅ……っ」


 すると、リュートくんは次第に泣き止んで、私の服をキュッと掴んだ。


(わぁ、なにこれ、かわいい~~!!)


 しがみつく姿が可愛いすぎて、思わずキュンとなる。


 リュートくんは、ミアちゃんとは違う髪質なのかな。サラサラの黒髪に、鼻筋のとおった男の子らしい顔立ち。もしかして、リュートくん、イケメンかも!


 それに、ミアちゃんも、ふわふわの髪をツインテールにしていて、とっても可愛いし、こんなに可愛い子たちに、ママっていわれるのは、案外、悪くないかも!


 だけど、そう思った時──


「びぇぇぇぇぇ!!!」

「え!?」


 リュート君が、また火がついたように泣き出した。


「わわ、どうしたの!? リュートくん、泣かないで~!」


 一瞬、眠りそうだったのに、その後は、どんなにあやしても、全くダメ。

 落ちた時に、どこかぶつけたとかじゃないよね?

 それとも、お腹すいてるとか?


 あーもう、やっぱり、赤ちゃんのお世話なんて、私に出来るわけないよー!!


「ミアちゃん、ちょっと待っててね!」


 泣いているリュート君を、そっとベッドの上に下ろすと、私は、そのまま、一階のカフェに駆け込んだ。


「お父さん、ちょっと来てー!!」


 仕事中のお父さんに助けを求める。

 でも、焦ったような私の声を聞いて、店中が騒然としちゃった!


「ア、アリサ? どうしたんだ!」


「お父さん、今、2階が大変なことになってるの!? 皆さん、すみません! しばらく、お父さん、借ります!!」


 一応、他のアルバイトさんたちに許しをもらうと、私はお父さんを連れて、すぐに二階に向かった。


 お父さんは、すごく驚いてるみたいだったけど、こんなの、私一人じゃ手に負えないよ!


「お父さん! この子達のこと、何か知ってる!?」

 

 そして、部屋につくと、私は、まずお父さんに確認をとった。もしかしたら、お父さんが連れてきたって可能性もあるし。

 だけど、お父さんは


「な……誰だ、その子達は!?」


「やっぱり、お父さんも知らないんだ。この子たち、さっき天井から落ちてきたの!」


「天井から!?」


「うん! いきなり、竜巻みたいな風がバーッと吹いて、青く光ったとおもったら、ミアちゃんとリュートくんが降ってきて! しかも、この子たち、20年後の未来から来たとか言ってて……!」


「20年後の未来……!?」


 お父さんは、まさには、ビックリ仰天って感じ。

 目を丸くして、ミアちゃん達を、じっくり見つめてる。

 でも、驚くよね。

 私だって、まだよくわかってないんだし!


「そうか……! つまりこれは、僕が密かに研究を進めていたが、20年後に完成したということだな!?」


「え?」

 

 だけど、びっくりしてるかと思いきや、お父さんは、いきなり、ワケが分からないことを言い出した。


 ちょっと待って、タイムマシン!?

 お父さん、そんなもの作ってたの!?


「お父さん、なにいってるの!?」


「だって、この子、アリサの子供の頃にソックリじゃないか!」


「じーじ? じーじだよね!」


 すると、今度は、ミアちゃんが、急に泣くのをやめて、お父さんに飛びついた。


「じーじだぁ! ママはちっちゃくなっちゃったけど、じーじは、若くなっちゃった!」


「じーじ? そうか、おじいちゃんか! つまり君たちは、20年後の僕の孫たちということだな! なんて、可愛いんだ~! よくぞ、来てくれた~」


 いや、お父さん、あっさり受け入れすぎ!

 変わり者にも程があるでしょ!


「ちょっと、お父さん。まさか、本当にタイムマシンに乗って、20年後からきたと思ってるの!?」


 私だって、ミアちゃんが嘘をついてるとは思えない。でも、まだ信じられないよ!


 それに、お父さんの孫ってことは、確実に、私の子供ってことになるし、それが本当なら、この子達は、20年後の未来からきた、私の子供たち!?


「ふぇああああぁぁぁぁん!!」


 だけど、その間もリュート君は泣いていて、ゆっくり話していられる状況ではなかった。


「あーもう! とにかく、お父さんは、リュートくんなんとかして! 赤ちゃんて、どうやったら泣き止むの!?」


「ど、どうやったらって……! とりあえず、オムツを替えて、ミルク──て、オムツもミルクもないじゃないか!?」


 お父さんが、はっとして、頭を抱える。

 当然だよね。うちには、赤ちゃんなんていないし、オムツもミルクも、あるはずがない!


「アリサ! 今すぐ、近くのベビーショップで、オムツとミルクと、あと赤ちゃんに必要なものを、一通り買ってきなさい!」


「え!? 私が!!」


「こんな小さな子を、アリサに任せて、僕が家を離れるわけにはいかないだろう!」


「そ、それは、そうだけど」


「ふぎゃぁぁぁぁ!」


「わわ! アリサ、急げ!」


「わ、分かりましたぁー!!」


 その後、私は、お父さんからお金を預かると、自転車に乗って、近所のベビーショップまで、全速力で走った。


 だけど、もう、何が何だか分からなかった。


 今朝まで、普通の日常をすごしていたはずなのに、なんで、こうなっちゃったの~!?

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