✤ 7 ✤ 私がママ!?


 本当に驚いた時って、人は声を出せなくなるのだと思った。


 今、私の前には、私のことを『ママ』と言って抱きつく女の子がいる。でも、それ以上におどろいたのは、空中から人が現れたこと。


 え? なにこれ? 意味がわからない。

 ていうか、ちょっと怖い。


 だって、全く知らない子だし。会うどころか、顔すら見たことない子が、いきなり部屋に現れて──しかもママ!?


(えっと、こんな時、どうするんだっけ?)


 家に不審者?

 いやいや、不審者扱いはしたくないな。


 だって、子供だし、オマケに赤ちゃんまでいるし、きっと、なにかワケがあって、うちにいるわけだよね? 


「え、えーと……あなた、名前は?」


 とりあえず、名前を聞いてみた。

 すると、その女の子は


「ミア」


「ミアちゃん? じゃぁ、こっちの赤ちゃんは?」


「こっちは、リュートだよ」


「リュートくんか……じゃぁ、ミアちゃんとリュートくんは、どこから来たの?」


 できるだけ優しい声で話しかける。見ず知らずの私にママなんて言うほど、混乱してるワケだし。

 すると、ミアちゃんは、私の顔を見つめながら


「みらい」


「え?」


「わたしとリュートは、20年後の未来からきたの」


(え? なにいってるの、この子?)


 その言葉に混乱したのは、私の方だった。

 だって、未来って。しかも、20年後って。


 あ、でも、この前、アニメでもやってたっけ。男の人がタイムワープする話。確かあれも、主人公の前に、いきなり未来人が現れて──て、あれはアニメじゃん!!


「そ……そうなんだ」


 一応、相づちは打ちつつも、ありえない話に、私はダラダラと汗を流した。だって、いきなり未来から来たなんていわれても、信じられるわけないし。


 でも、不思議とミアちゃんが、嘘をついてるとは思えず。それに、さっき確かに、部屋の中が光ったんだよね、青白く。


 その前には、竜巻みたいな風も吹いてたし、あの光と風は、明らかに普通じゃなかった。


 それに、部屋の中をみまわせば、まるで嵐が来たあとみたいに、プリントとか、ぬいぐるみが、あちこちに散乱してる。

 この有様をみれば、さっき突風が勘違いじゃないのが、よく分かる。


(え? まさか本当に?)


 もし、本当に未来からきたのだとしたら、この子達の親は、どこにいるの?


「ね、ねぇ。ミアちゃんのお母さんは、どこにいるの?」

 

「ここ」


「え、私!? いやいや、私じゃなくてね。お母さんのこと」


「うーんと、大人のママは……未来かな?」


「未来って……じゃぁ、そのお母さんの名前は?」


「アリサ」


「え!? ……そ、そうなんだ。じゃぁ、お父さんは?」


「トーマ」


 トーマ? 誰それ?

 知らない名前だ。


(でも、本当のお母さんの名前が『アリサ』か。じゃぁ、名前が同じだから、私のことを、ママっていってるのかな? あれ? でも私、まだ名乗ってないような?)


 意味の分からない状況に、私はひたすら首を傾げる。すると、その時


「ふぇぇぇぇぇん!!」


 急に赤ちゃん──いや、リュートくんが泣き出した。


「ど、どうしたの!?」


「わ、わかんない。ママ、リュート抱っこして!」


「ええぇ!?」


 ちょ、ちょっと待って!

 私、赤ちゃんを抱っこしたことないよ!?


「む、ムリだよ! 落っことしそうで怖いし! それに、私はママじゃないよ!」


「ママだもん! ちっちゃくなっちゃったけど、ママは、ママだもん!」


「え、ちょ、ミアちゃん!?」


 すると、リュートだけじゃなく、今度は、ミアちゃんまで泣き出した。

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