✤ 6 ✤ これって、三角関係?


「ただいまー」


 それから、午前授業を終えると、私はまた、自転車にのって、家に帰ってきた。裏にある玄関を開けて、中に入れば、奥のカフェから、コーヒーの香りが漂ってくる。


(お父さん、ちゃんと起きて、店開けたんだ。よかった)


 私は、廊下を進み、こっそり裏口の鍵を開けると、一階のカフェスペースを覗きこむ。すると、お父さんは、アイロンのかかった真っ白なワイシャツとサテンエプロンをして、しっかりマスターらしくなっていた。


 うちのカフェは、お父さんと数人のアルバイトさんたちで運営してるの。


 カフェと言うくらいだから、基本は飲み物ばかり。

 あとは、お菓子とケーキ。そして、アイスとサンドイッチがあるくらいかな?

 

 がっつり食事をするようなお店じゃないから、そこまで混雑しないし、比較的、穏やかなお店で、いわゆる隠れ家的なカフェ。

 しかも、丘の上に建ってるから、すごく景色がよくて、私も気に入ってるの。


「あら、アリサちゃん、おかえり~」


 店内を眺めていると、私にきづいた常連のお客様が声をかけてきた。


 子供の頃から、よくこうして顔を出していたから、私はマスターの娘として、ちょっだけ有名人。


 でも、あまりお邪魔をするわけにはいかないし、ちょっとだけ話して、丁寧にお辞儀をすると、私は二階にある我が家に向かった。


 室内階段を上った先には、私たちの住居がある。


 扉を開けてリビングに入れば、お父さんが冷房を入れてくれてたみたい。冷たい空気が、まるで生き返るようだった。


 そして、しっかり手を洗った私は、自分の部屋にむかった。でも、自分の部屋に入ると、私は気が抜けたのか、深くため息をついた。


「はぁ……」


 実は、朝から、ずっと悩んでたんだ。

 彩芽ちゃんの、あの顔を見てから……


「もう、私のバカー!! あんなに、あからさま反応して! もし、彩芽ちゃんが、アランくんのことを好きだったら、どーすんのよ!」


 今更、後悔しても遅いけど、あれから考えて、たどり着いた答えは、もしかしたら、彩芽ちゃんも、アランくんのことが、好きなんじゃないかってこと。


 だって、そうじゃなきゃ、あんなに困った顔しないよね?


「どうしよう……せっかく友達になれたのに、好きな人がカブって、気まづくなったりするのは嫌だなぁ」


 彩芽ちゃんは、私にとって、大切なお友達。

 

 アラン君から紹介されたあと、私たちは、すぐき仲良くなった。


 休み時間も一緒だし、休日も、たまに待ち合わせをして、一緒に買い物をしたり。


 それに、いつだったか『恋ヶ崎って名字は言いにくいから、アリサでいいよ』って言ったら、彩芽ちゃんも『じゃぁ、私も下の名前で呼んで』って言ってくれて、今では、名前で呼びあうくらいの仲!


 それなのに──


「はぁ~、やっぱり好きなのかな? アラン君のこと」


 ベッドの上にボブッと倒れ込むと、私は、側にあったクッションを抱きしめながら考えた。


 彩芽ちゃんは、アランくんと同じ小学校で、同じく転校生。それに、あんなに仲がいいんだもん。アランくんのことを好きだとしても、全く不思議じゃないよね?


 それに、そうだったとしたら、これって、三角関係!?


 どうしよう。大変なことになっちゃった!

 こういう時、どうすればいいんだろう?


 私は、ベッドの上で、寝転がりを打ちながら、ひたすら考えこむ。


 私は、アラン君のことが好き。

 だけど、彩芽ちゃんのことも大事。


 でも、恋なんてしたことなかったし、こんな時、どうすればいいか全く分からない。


「はぁ……お母さんが生きていたら、相談できたりしたのかな?」


 小さくため息をついた私は、その後、静かに目を閉じた。

 お母さんは、私が、二歳の時に亡くなった。だから、生きてる時のお母さんのことは何もおぼえてない。

 私が知っているとすれば、スマートフォンの中にいる、お母さんくらい。


 机の上に置かれたピンク色のスマホ。


 もう契約が切れてて、使えないスマホだけど、その中には、まだ小さい私の動画を撮りながら、可愛い可愛いと、はしゃいでるお母さんがいる。


 でも、そのスマホに語りかけたところで、お母さんが答えてくれるわけじゃないし、やっぱり、自分で考えるしかないよね。


 ザァァァ……


「?」


 だけど、その時、急に風が吹いた。

 そよそよと髪や制服が揺れて、なんだか心地いい。

 でも──


(あれ? 私、窓開けたっけ?)


 ふと気になって、起き上がった私は、窓を確認する。だけど、窓は開いてなくて……じゃぁ、この風は、どこから?


「きゃっ──!?」


 すると、その瞬間、さっきまでの風が、急に荒れ狂うような突風に変わった。まるで、竜巻でも起きてるみたいに、部屋中の本やプリントがバサバサと音を立てる。


(な、なに、これ! どうなってるの!?)


 目を閉じ、両腕で顔をかばいながら、私は、部屋の中を確認する。すると、パァーッと青白い光が部屋を照らしたかと思えば、その瞬間、空中に何かが現れた。


(──え?)


 そこに現れたのは4~5歳くらいの女の子だった。

 しかも、赤ちゃんを抱えてる!


「え、危ない──ッ!」


 ドシーン!


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 いきなり天井に現れた子供たちは、そこから真っ逆さまに落ちてきた。私は、とっさにに抱きとめたけど、もうワケが分からない!

 

 普通、天井から子供が落ちてくる!?

 なにこれ、夢!?

 いやいや、そんなわけないよね!


 だって、子供二人抱きとめたから、今、めちゃくちゃ腰が痛いんだもん!


 でも、これが現実だとしたら、一体何が起きているんだろう。


「あ……あなたたち、誰?」


 いきなり現れた子供たちを見て、私はポカンと口を開けたまま問いかけた。

 すると、その女の子は、私の顔を見るなり


「ママっ!」


 そう言って、抱きついてきた。


 え? ちょっと待って!

 ママって、一体どういうことぉぉ──!?

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