✤ 3 ✤ 王子様との出会い


 アラン君と出会ったのは、中学に入学した、次の日だった。


 桜がひらひらとう頃、私は、真新しい制服を着て、中学校に向かっていた。


 チェック柄のオシャレな制服は、入学前からあこがれていた制服。そして、初めての自転車通学に、本当なら、もっとワクワクしてもいいはずだった。


 だけど、その日の私は、ワクワクどころか、不安でいっぱいだった。


(……自己紹介、うまくできるかな?)


 不安の理由は、その日の最初の授業が、クラス全員でをすることになっていたから。


 私が入学した『桜川さくらがわ中学校』は、この付近の3つの小学校の生徒が集まった、とても大きな中学校だった。


 町の中心にある『桜川小学校』

 海に近い『三崎みさき小学校』

 そして、丘の上にある『堂守どうもり小学校』


 そして、私は、その中でも、一番生徒数の少ない堂守小学校の出身だったから、入学式の日、体育館に集まった新入生の数を見て、びっくりしちゃった。


 だって、堂守小は、全校生徒をあわせても32名しかいない、小さな小学校だったのに、一年生だけで100人近くいるんだもん。

 まるで別世界に来たみたいだった。


 しかも、堂守小から桜川中学に入学した生徒は、私をふくめて、三人だけ。

 おまけに、ほかの二人とはクラスも別れちゃって、私は、新しいクラスで、ひとりぼっちだった。

 だから、今日の自己紹介で失敗したら、もっと孤立しちゃうんじゃないかって、すごく不安だったの。


 そして、自転車を漕ぎながら、ひたすら考えていたのは


 自己紹介で、何を話そう?とか。

 ちゃんとクラスになじめるかな?とか。

 友達が出来なかったらどうしよう?とか。


 そんなことをばかりが、グルグル、ぐるぐる。

 でも、それがいけなかったのかもしれない。


「ニャ~」

「え!? ──きゃぁっ!?」


 考え事をしていたせいか、猫が飛びだしきたのに気づかなかった。


 私は、慌ててブレーキをかける。


 だけど、自転車は止まりきれずスリップして、猫をよけたと同時に、私は自転車ごと路上に倒れ込んだ。


 ガシャーン!


 ──と大きな音をたてて倒れる自転車。

 タイヤはクルクルと回って、私は、その横でうずくまった。


「痛ったー……っ」


 ネコは無事。あと、ヘルメットをかぶっていたから、大したケガもなかった。


 だけど、盛大にすっころんだ私は、すごく恥ずかしい感じ。


 だって、通勤途中のサラリーマンとか、高校生のお姉さんとか、みんな見てる。


 もう顔は真っ赤で、今にも涙が出そうで。

 だけど、そんな時だった。


「大丈夫?」


 そう言って、声をかけてくれたのが、アラン君だった。


 アラン君は、私の顔をのぞきこんで、心配そうにみつめてきた。だけど、初めは、何が起きたのか、よくわからなかった。


 だって、目の前にあらわれた男の子は、昨日の入学式で、誰よりも目立っていた王子様みたいな男の子。


 しかも、近くでみると、人間とは思えないくらい綺麗な顔をしていた。


 瞳の色は、深いアメジスト色で、珍しい銀色の髪だって、すごく透明感あって、キラキラしてる。

 まるで、天使が降りてきたみたい。


「て……天使?」


「え? なに言ってるの?」


「あ! いや、な、なんでもないです! あ、あと私! 英語は話せません……!」


「え? あはは! 確かに僕は日本人じゃないけど、日本語はペラペラだよ。それより、怪我はない? 立てないなら、手を貸すよ」


 すると、アラン君は、私に向けて、そっと手を差し出してきた。まるで『掴まって』というような優しい仕草に、思わずキュンとなる。

 でも……


「だ、大丈夫です! 一人で立てます!」


 私は、すぐに立ち上がって、スカートのホコリをはらった。

 助けてくれるのは嬉しいけど、男の子と手を繋ぐのは、ちょっと恥ずかしい。


「ありがとう。ケガはしてないので、心配しないでください」


「そう……でも、の方は無事じゃないみたいだよ」


「え?」


 だけど、その後、アラン君が言った言葉に、私は、意味がわからず、自分の制服を見つめた。

 すると、転んだ時に、どこかに引っかかったみたい。ブレザーのポケットが、ザックリやぶれていた。


「えぇ!? ウソ!!」


 昨日、下ろしたばかりの制服を、もうダメにしちゃった!? しかも、この制服を着たまま、学校にいくの!?


(ど、どうしよう……今日は、自己紹介もしなきゃいけないのに)


 私の顔からは、サーッと血の気が引いていく。


 入学早々、制服をやぶっちゃうような子と、仲良くしてくれる子っているのかな?


 ただでさえ、生まれつきのくせっ毛で、からかわれることもあるのに。


「っ……」


 すると、ずっと抱えていた不安が爆発するかのように、私の目には、じわりと涙が浮かんできた。


 もう、ダメだと思った。きっとこのまま、ひとりぼっちで、中学校生活を送るんだ。


 でも、その時──


「貸して。その制服、僕が

「え?」





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