第30話 最高にハッピーな一日

 全てを解決した俺たちはとある場所へと向かった。

 その場所とは――当然ラブホテルだ。

 部屋の中に入って即座に俺たちはセックスをした。


「早すぎでしょ」


 行為の後、ベッドに横になっているミキが呆れた。


「ミキだってそうだろ?」


 互いにあっという間に限界を迎えたのだ。

 ループを繰り返して数え切れないほどセックスをしてきたけれど、その中でも最も早かったかもしれない。


「ずっと緊張しっぱなしだったからね」


 今回のループは失敗が許されず、緊張の連続だった。

 その緊張からようやく解放されたことが快楽にも大きな影響を与えていた。


「幽霊……出ないね」


 どれだけ待っても頭のない女は現れない。

 近くに置いていたスマートフォンで時刻を確認すると既に24時を過ぎており、日付は11月12日と表示されている。


「そっか……明日になったんだね」


 どこか浮かない顔だった。


「どうした?」

「本当にこれでよかったのかなって」

「もっと良いやり方はあったかもしれないけど、それでも全部上手くいったと思うぞ」


 呪われているとさえ思えたやくり町だったけど、誰も犠牲にすることなく『明日』を迎えることができた。

 何の準備もなく最後のループが訪れた身としては、上手くやれた方だと自画自賛している。


「なし崩し的にループから抜け出しちゃったけど、もしもサチくんのループが続けられていたら、私はきっとずっとループを続けていたんじゃないかなって思う」


 彼女はいまだループに未練があるらしい。

 もしかしたら未来に対する、『明日』に対する不安の表れなのかもしれない。

 俺がその不安を解消できるかは分からない。

 でも一つの答えを提示しようと思った。


「セックスするたびにリセットされたら、俺たちは本当の意味で愛し合うことはできない」

「記憶を引き継げれば問題ないよ」

「そうじゃない」

「じゃあどういうこと?」


 ループする度に身体はリセットされる。

 どれだけ心で通じ合っていても、ループしてしまえば俺たちの身体はまだセックスをしていないことになる。


「それだと永遠に子どもを作れないじゃないか」

「えっ?」


 セックスを行う目的は人によって様々だ。

 快楽のため。愛を確かめ合うため。

 でも生物としての本来の目的で言えば、セックスとは子孫を残すための行為だ。

 ループという現象はその目的を完全に潰してしまう。


「俺と結婚してほしい」

「え、えぇっ!?」


 突然のプロポーズにミキが動揺している。

 あたふたしている彼女の姿が可愛い。


「でも今の私の状況って凄く大変だよ? サチくんに迷惑かけちゃうし……」


 廉太郎さんの後始末に限らず、これからも俺たちの前にはさまざまな困難が待っているはずだ。


「俺はミキが傍にいれば、それだけでハッピーになれるよ」

「それって――」


 彼女が川に飛び込んで自殺しようとしたときに言った言葉だ。

 その言葉は今の俺にとって間違いなく真実だ。


「ミキはどうだ? 俺が傍にいることは、ほんの少しでもミキのハッピーにはならないか?」

「そんな言い方、ずるいよ」


 ミキが拗ねたように口を尖らせる。


「頷くしかないもん」


 俺たちは結婚を誓う口づけを交わした。


「そうと決まれば――もう一戦だ!」


 これだけ幸せな気持ちで愛おしい人とセックスをできる。

 新しく始まる『今日』は、何度も繰り返してきた『今日』以上の最高にハッピーな一日になるだろう。

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ハッピーエクスタシーチャート ほえ太郎 @hoechan

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