第2話 事件
首都レーニアまでの道のりは長い。
到着までにいくつかの街や村を経由するのだが、通りがかりで依頼を何件か受けることとなった。
今も依頼の真っ最中。森に棲みついた小鬼の討伐のため住処を探っているところだ。
ホブゴブリンと違い、小鬼は世界中どこにでも棲みついている。
小鬼は徒党を組んで行動することが多く、その規模は大小様々。小鬼自体は強力な魔物ではない。三・四体の小さな集団であれば、村の自警団でも討伐は可能なほど。
しかし、その規模が膨れ上がるにつれ厄介になる。数万規模までになると、それはっもう災害と同じ。
そうなる前に、早いうちに冒険者が討伐に赴くのだ。
「おーい。そっち行ったぞ。三体な」
「ちょっと! そっちでどうにかしなさいよ! 私、小鬼嫌いなんだからっ!」
イヤァァァァァ、と悲鳴を上げ魔法を乱発する。
四方八方に放たれた風刃が、小鬼のみならず周囲の木々も斬り裂き森を破壊した。
火弾にしない分、まだそれなりに冷静さは保っているらしい。
「……やり過ぎだって。一体は生かせって言ったろ?」
「嫌っ! こいつらなんか見たくもないのに、あんたが変に押し付けてくるんじゃない!」
「ある程度克服しておかないと、後々面倒だろ? 冒険者なんだから、多少は我慢してくれよ」
「ぜぇったい、嫌!」
「はぁ……まあ、いいや。次の集団探そう。これで何回目だ……」
もうすでに五回は同じことを繰り返している気がする。
森の中をうろついている小鬼の集団を見つけ、討伐。その際一体をあえて逃がし、自分の拠点まで案内してもらって一網打尽、というのを計画していた。
しかし、アカネのあまりの小鬼嫌いにより、肉片すら残さず討伐されている。正直言って、小鬼が憐れに思えてきたには気のせいだろうか。
「おっ。小鬼発見。今度は俺がやるから、アカネは待機ね。いい加減早く終わらせて帰りたいからさ」
「最初からそうしなさいよねっ。私はなにもしないから!」
我儘なお嬢様の相手をするのは、やはり疲れるなぁ……。
◇◇◇
「――いやぁ、ありがとうございます! 本当に、あなた方には感謝しかありません!」
洞窟内に作られていた小鬼の集落を潰し、村へ帰還した俺とアカネは村を上げての宴会で、歓待を受けていた。
広場では村人総出で飲み食い踊り回り、人の笑顔で溢れていた。
顔を赤くし上機嫌な村長は、嬉しそうに話を続ける。
「まさか、小鬼の集落が出来ていたとは。あのまま放置されていたら、我々の村は小鬼共に喰らい尽くされていたことでしょう。本当に、ありがとうございます。お二方は、我々の恩人です」
「いや、俺たちは依頼を受けただけだから」
「そうよ。そんな大げさなことじゃないわ」
「なんと謙虚な……! お二方がなんと言われようと、私はこの御恩を生涯忘れませぬぞ!」
そう言って、村の男衆と乾杯する村長。
少々照れくさいが、こうして誰かのためになっているというのは悪くない。
「ふっふ~ん♪ あんな小鬼なんて、大したことないのよ~」
「あ! お前、酒は飲むなって言ったろ! 樽が空っぽじゃないか」
「お酒飲まなきゃやってらんないのよぉ~! もっとお酒持ってきなしゃい!」
こりゃダメだ。
アカネが酔いつぶれるまで止められない。大人しく、嵐が過ぎ去るのを待つとしよう。
アカネの嫌な事を押し付けた分、少しは大目に……あれ、なんか俺、アカネに甘過ぎないか……?
アカネへの対応に疑問を抱いていると、村人たちの話声の中から、気になる話題を拾った。
「見た? この前の情報記事」
「ええ、もちろん。怖いわねぇ」
「『監獄塔創設以来、二度目の脱獄』ですってね。レーニアでは厳戒態勢を敷いているそうよ」
「ああ。確か、凶悪な犯罪者たちが何人も監獄塔から抜け出したらしい。一日中騎士が捜索をしているが、未だ誰一人捕まえられていないってな。まったく、なんであんなところに『監獄塔』なんか作ったのかね、昔の人は」
「監獄塔」は、連合王国内で悪事を働いた凶悪な大犯罪者を投獄している。
魔道具や魔法で罠が張り巡らされ、脱獄を許さないと言われているそうだ。
しかし、過去に一度だけ脱獄を許したことがあるらしい。
その時は点検洩れで、一部の魔道具の魔力が空になり抜け出す穴があったという話だ。
今回の原因は分からないが、何やら波乱が起きそうな予感。
……ちょっと、レーニア行くのやめようかな。
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