第二章
第1話 首都への旅路
連合王国。
「鬼隠森」を中心に隣接する四大国の一つ。
他の三国に比べ歴史は浅いが、比肩するほどの文明技術や武力を誇る。
かつては、隣り合っていた幾つもの小国が絶えず小競り合いを続けていた。
悲鳴の止まない地。終わりの無い争いの大地。そう揶揄されていたこともある。
しかし、いつしかその争いに終止符が打たれた。とある小国に生まれた奇跡の少年によって。
〝職業〟不詳、年齢や容姿、名前さえも今では知ることはできない。
少年に関する一切の記録が残されていなかった。
それでも、少年の為した偉業は連合王国に住まう者であれば誰でも知る物語として語り継がれている。
『王建記』。
争い合う国全てを一人で相手取り、諭し、互いに協力すべく道を提示したとされている。
方法は著者によって様々。時に武力で、時に話術で、時に奇跡の御業で。
どの著書にも共通するのは、少年がいたからこそ今の連合王国がある、という解釈。
現に、連合王国は「冠主」と呼ばれる十人の統治者によって治められている。
互いに意見を交わし、国の舵取りをしている知恵者たち。
国の基盤も、全て奇跡の少年の手によるもの。
奇跡の少年なくして、連合王国は成らず。
首都の中心地には、奇跡の少年の空想像が建てられているそう――。
「……だってさ。知ってた?」
「私だって連合王国に住んでいるんだから、それくらい知っているわよ」
呆れ顔でため息を吐かれてしまう。
何年も森の中で生活していたから、世情に疎いのだ。そんな目で見ないでくれ……。
現在、俺とアカネは連合王国首都近郊を目指し、街道を歩いていた。
馬車もしくは魔道操車を借りようと思ったのだが、俺もアカネも御者の経験は無く、俺に魔力が無いため、魔道操車が運転できるのはアカネ一人。かなりの負担になってしまうだろうと思いやめた。
だが、アカネは歩き疲れると自分の長杖に腰掛け、浮遊移動する。
正直言ってずるい……。
今もフヨフヨと浮かび、眠気眼をこすっていた。
「……なあ、俺もそれに乗せてくれれば首都までひとっ飛びじゃないか?」
「一人乗りよ。それにフォリストから首都までどれくらいの距離があると思ってるの? 私の魔力が持つはずもないじゃない」
俺たちが出会った街、森林隣接冒険都市フォリスト。
街を出るころに初めて名前を知った。
何でも、「鬼隠森」の探索用に作られた冒険者のための街だとか。
だからあんなに冒険者がいたのか。
そのフォリストから首都レーニアまで、馬車及び魔道操車を使って約半月。
徒歩旅の俺たちでは一月以上はかかることだろう。先はまだ長い。
俺はシーナさんに渡された連合王国観光案内を開き、数年ぶりの大きな都市に想いを馳せた。
「そんなの見てどうするのよ。目的は別でしょ?」
「主目的は確かに別だけど、旅は知見を広げるためのもの。なら、色々なものを見て触れて、自分の経験とするべきだよ」
「変にこだわりあるわね、あんた……。それで、何か良い物でもあるの?」
「気になるのはかなり。『冒険者ノ塔』とかどう? 冒険者同士一対一で戦い、勝利することで塔を登れるんだって。世界中の美術品を集めた『美術展覧場』とか、『魔法書大図書館』、『監獄塔』なんかもあるんだって。ものすごく興味深いね」
「別にそんなもの――『魔法書大図書館』!?」
目をキラッキラに輝かせたアカネが、顔を寄せ観光案内を覗き込む。
あんなに話半分で全く興味すらなかったのに、大図書館につられたようだ。
「魔法書蔵書数世界一……!? これは、いかないなんて選択肢ないわね。ほら、さっさと行くわよ! 大図書館が、私を待っているわ!」
急激に気分の上がったアカネ。ピュ―っと飛んで行ってしまう。
やれやれと、溜息を吐き上機嫌なアカネの背を追いかけた。
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