第15話 決闘
「ちょっと! 何バカなことしてるのよ!?」
こればかりは言わずにはいられない。
確かに、あの変態と顔を合わせることすら拒否した私は、ジンなら何とかしてくれるかもと勝手に期待し、彼を盾代わりにしていた。
どれだけ断っても、執拗に付き纏ってくる変態の相手などしていられない。
せっかく相方もできた。それも頼りになる男の子。
いつも頼ってばかりだが、今回も甘えてしまった。
だが……まさか、決闘沙汰になるだなんて思ってなかった。
「あれでも、Bランクの冒険者よ。経験も何もかも新人とわけが違うの。それに……あまり言いたくはないけど、彼はあなたにないものを持っている。あなたがいくら強いからって、さすがに相手にならない――」
「それでも、やらなければならない。それに……男が一度口にした言葉を曲げるなんて、ダサいだろ?」
「……でも、こうなった原因は全部私が」
「アカネのせいじゃないさ。視線も行動もしつこい男なんて嫌われて当然だ。悔しさに歯噛みするのも、怒りに打ち震えるのも、アカネに降りかかる全ての憂いは、俺が断ち切ってやる。なんてったって――俺は、アカネの相棒だからな」
そう言って、ジンは不敵に笑う。
そこに緊張や気負いはなく、いつも通り飄々としたまま。
格上の相手に、どうしてそこまで普段通りでいられるのか、私には理解できない。
「あいつもBランク程度で威張り散らしているみたいだが、大したことないさ。俺はもっと化け物みたいな人と七年間戦い続けてきたからな。だから、アカネは信じて待ってるだけでいい。すぐに終わるから」
私の頭をポンと叩いたジンは、踵を返し修練場の中心へと歩いていった。
その背中を見送ることしかできない自分が、ただただ歯がゆい。
私にできることは、彼の勝利を祈るだけ……。
◇◇◇
野次馬根性のある冒険者たちが囲む地下修練場の中心。
金の鎧を纏い、両手に剣と盾を持つBランク冒険者のカインセル。
審判役を務めることになってしまったシーナさん。
彼女の視線から恨みがましいものを感じた。……いつも申し訳ないです。
カインセルの対面に立ち、アカネに預けたマジックバックから取り出した愛刀を左腰に提げる。
アカネに買わされた紅蓮のコートは、思いのほか動きを阻害することが無くいい買い物をしたと、思わずにやける。
「ふんっ。アカネさんとの別れは済ませたのだろうな? 私に楯突いたことを冥界の底で後悔するといいさ」
「アカネに心配かけるわけにはいかないからな。すぐに終わらせるよ。――ああ、そうだ。一応命を賭けるとは言ったが、安心していい。あんたを殺すつもりはない。正直、俺が殺す価値もないからな」
「きさまっ!? 一度ならず二度までも私を愚弄するかっ!!」
「好きに受け取れよ。とっとと始めよう」
互いに距離を取り、睨み合う。
カインセルは盾を正面に構えた。確かどこかの王国騎士剣術だったかな。
相手の攻撃を受け流し、剣によりカウンターを狙う守りの剣。
構えから、しっかりと基礎を習得していることがわかる。正当な努力をしていれば、どこぞの騎士団で名を馳せていたことだろう。
何かやらかして貴族籍を剥奪でもされたのか。そこだけは少し親近感を覚えた。
「はっ。武器も抜かずとは、臆したか? 所詮は〝無職〟の雑魚だ。私の手で、剣術というものを教えてあげよう!」
高らかに笑うカインセル。
彼に便乗し、周囲の冒険者たちもクスクスと小さな笑い声を上げる。
盾を構えたカインセルに対し、俺は刀を抜かず鞘に納めたまま。
左足を一歩引き、腰を落とした前傾姿勢。
左手は刀の鯉口を握り親指は鍔に触れている。空いた右手は柄に触れないギリギリの位置で止めていた。
俺が知る限り、最速の剣技で終わらせる。
心地よい緊迫感。命を賭けたことによるものだ。
心臓が早鐘を打つ。血液が体の中を激しく循環しているのを感じた。
最高の調子だ。深く呼吸をし、五感を研ぎ澄ませる。
視界良好、罵声も怒声も消えた無の空間に佇んでいるかのよう。
全身を巡る血流の速度が徐々に上がっていく。
音の無い世界にシーナさんの声が侵入。
研ぎ澄まされた聴覚を刺激する。
「お二方とも、準備はよろしいですね? ――始めっ!」
ガシャンッ!!
「ハハハハハハハハハハ!! さあ、足掻いてみせ――は?」
斬り裂かれたカインセルの鎧や剣、そして盾が地面に落ちた。
刹那……あまりにも一瞬のことで、誰もが声を失う。
静けさ漂う修練場に、刀を鞘に納める音だけが響いた。
いつのまにか、ジンはカインセルの後方に立っていた。
「はい、終わり。シーナさん、合図は?」
「は……え? え、っと……し、勝者……ジン、さん……?」
呆気ない結末。だが、勝敗は決した。
圧倒的なジンの勝利にて、命を賭けた決闘は幕を閉じた。
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