第5話 結成
試験を終え、無事冒険者登録も済んだ。
特に何かしたわけではないのだが、アカネと戦い無傷で勝利したという結果が良かったらしい。
他の冒険者に比べ、彼女の能力は頭一つ抜けていることはなんとなく察していた。
何故彼女が試験官を務めたのかは分からないけど、こうして冒険者になることもできたし、今日は帰ろう。
……そう思っていたのに。
「………………」
冒険者ギルド併設の酒場に設けられたテーブルを挟んで、対面に座っている魔法士姿の美女。
優雅に紅茶を飲んではいるが、チラチラと時折俺の様子を窺っているのを感じた。
さっきまで、シーナさんにお説教されて半泣きだったとは思えないほど、お澄まし顔をしている。
冒険者登録も終わり宿に戻ってゆっくり休もうと思っていた俺を引き留め、半強制的に椅子に座らせた。
それ以降、こうして無言のまま向かい合うこと三十分。俺はどうすれば……?
「……ねぇ」
「なにか……?」
「私と……パーティーを組まない?」
「パーティー、ねぇ……」
ようやく言葉を発したと思えば、パーティーのお誘い。
あったばかりの、それも一度模擬戦をしただけの得体の知れない男にいきなり?
警戒するのも無理はない……と、俺は思ったのだが、周囲の反応は違う。
「う、嘘だろ……っ!?」
「誰の誘いも断っていたあの女魔法士がっ!」
「どうしてあんなやつと!?」
「俺、狙ってたのに……っ」
俺たちの会話を盗み聞きしていた冒険者たちが、愕然としている。
誰からの誘いも断っていたらしい。そりゃ、これだけ美人で優秀だったら声をかけるのも当然だ。
しかし、彼女は誰からの誘いにも乗らず今日まで独りで戦い続けてきた。
独りで戦う理由があったからそうしていたわけではないのか?
「私は別に好きで独りになったわけじゃないわよ」
「人の心を読まないでほしいな」
「全部顔に出てたから。……私だってパーティーが組めるならそうしてる。強くて信頼できる前衛の冒険者を求めていたの。基本的には女の子が良いんだけど、そういう子は大手クランに入っちゃってるからパーティーは組めない。私自身クランに加入する気はさらさらないし。そんなときに、あなたを見つけた」
彼女の瞳が、真っ直ぐ俺を貫いた。
「あなたが初めてこのギルドにやってきた時からずっと気になっていた。魔力は一切感じられないのに、魔力を使用していたこと。鑑定しても力の底が見えなかったこと。私からすれば、あなたは不思議な存在」
「勝手に鑑定しないでくれるかな」
「そこは気にしないで。だから、あなたと直接戦えば何かわかるかと思った。……でも、何もわからなかった。知りたいの。あなたのこと」
真剣な眼差し。彼女は別にふざけているわけではないようだ。
だが、俺は彼女のことを何も知らない。いろいろと噂され有名みたいだし、一緒にいるよりは面倒事が少なくて楽だろう。
そう思った俺は、彼女の誘いを断ろうとした。
「……お願い、私をもう……独りにしない、で……」
彼女の頬をゆっくりと雫が伝う。
か細く弱々しい、目の前にいる俺にすら辛うじて届いた言葉。
無意識から発せられたのか、意図して口にしたのかは分からない。
何故か、俺の口は勝手に動いていた。
「――いいよ」
「え……?」
アカネが驚きの声を零す。
これでは、俺があまりにもちょろいと思われてしまう。
遅すぎるかもしれないが、慌てて取り繕う。
「た、ただし! お試しでな」
「お試し?」
「そう。相性とかいろいろあるだろうし、それ以前に男と女だから。やっぱり合わなかった、と思ったらパーティー解消ってことで」
「……ふふっ。それでもいいわ。これからよろしくね、ジン」
そう言って笑った彼女から、不思議と目が離せなかった。
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