第3話 試験

「――試験?」


 翌日、冒険者たちが依頼で出払っているであろう朝の時間帯を狙ってギルドへと顔を出した。

 誰もいないわけではなく、新人らしき数名がテーブルを囲んで話し合いをしている。

 今日はどんな依頼を受けるか、冒険者としてどうなりたいのか、彼らの目は希望で満ち溢れている。

 少し羨ましく感じるが、それはさておき。


 受付には昨日話したお姉さんが座っていた。

 彼女も俺の顔を覚えていて、すぐに対応してくれる。

 そして、彼女は困惑した表情で俺に告げた。


「ええ……。正直、今回のことは異例でして……冒険者に危険は付き物。ギルドに登録されている冒険者のサポートを担っていますが、結局のところ自己責任なのは変わりません。ですが、いくら誰でも冒険者になれるとは言え、恩恵を受けられなかった方をそのまま受け入れるのはどうかと思いまして……。

 ギルドマスターに相談したところ、ジンさんがどれくらいの実力を持っているのか試してみれば良いと」

「なるほど。その試験で俺の実力が分かれば冒険者になれるってことか」

「はい。聖王国の発表では、女神さまから恩恵を授けられなかった者はいない、とされています。故に前例のないことで、私もどうしていいかわからなくなっています」


 聖王国は、三人の女神を信仰する女神教の本部がある宗教国家だ。

 女神に関する伝承や古代遺跡が多く残っているらしい。

 つまり、女神に関することについては聖王国が一番知っているわけで、その聖王国がそう発表しているのなら、間違いはないのだろう。

 まあ、そんなことはどうでもいい話か。


「とにかく、俺の実力を示せばいいんでしょ? 何すればいいの? 何か狩ってくればいい?」

「いえ、ジンさんには地下修練場で模擬戦をしていただきます」

「……へぇ。いいね。一番単純でわかりやすい方法だね。誰が相手になるの?」


 そう訊ねると、お姉さんは立ち上がり地下へと案内してくれるらしい。

 今すぐに始められるそうだ。


「ジンさんの試験官を務めるのは、トラブル鎮圧対応のギルド職員です。我がギルド支部でも優秀な実力者でして――」

「ちょっと待って」


 地下へ向かおうとしたところで、背中に声がかけられた。女性の声だった。

 受付のお姉さんが不思議そうな顔で問う。


「あれ、アカネさん? 今日はお休みじゃ」

「そうよ。でも、来てよかったわ。その試験官役、私にやらせてくれない?」


 アカネと呼ばれた女性がこちらへ歩み寄ってくる。

 よく見ると、昨日受付の前にいた美人魔法士だった。

 今日は欺瞞していないらしく、冒険者たちの視線を集めている。


「ええ!? ど、どうしたんですか、急に!?」

「昨日会った時から、ずっと気になっていたの。〝無職〟? いいえ、そんなはずないわ。あなたからは普通じゃないものを感じるわ。あなたの本性、私手ずから確かめてあげる」


 何か勘違いしているようだ。俺が〝無職〟なのは事実なのに。

 だが、俺も彼女のことは少し気になっていた。

 彼女はおそらく強い。先生ほどじゃないが、森の外で見る初めての強者だ。

 自分の力を試すのには丁度いいかもしれない。

 そう思った俺は、フッと笑って彼女を軽く挑発する。


「……っ!? やる気はあるみたいね。――アカネよ。ただのアカネ。見ての通り魔法士。女だからって甘く見ないでよね」

「ジンだ。女を傷つける趣味はないが、模擬戦ということなら喜んで手合わせ願おう。よろしくな」


 視線がぶつかり合い、火花を散らす。

 俺たちの様子を見ていた冒険者たちがざわつき始める。


「おい、噂の美人魔法士と新入りが模擬戦だってよ!」

「どうする……?」

「ああ? 見学するに決まってんだろうが!」

「こんな面白そうなこと、見逃す手はないね」


 何だか楽しそうだが、この模擬戦の趣旨は俺の実力試験だ。

 正直野次馬はいらない。言っても聞かないと思うけど。

 彼女も同じことを思っているらしい。嫌そうな顔をしている。


「もうっ! 勝手に決めないでください! ギルドマスターに確認しますから、少し待ってくださいねっ」


 そうして、確認を取り戻ってきたお姉さんは疲れたような表情をしていた。

 ギルドマスターは、「面白そうだから、全然いいよ」と二つ返事で許可したそうだ。

 お姉さんも中々苦労しているらしい。

 許可が下りたので、俺たちはお姉さんの後を追い地下へと降りて行った。





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