~~修行日誌~~
――修行一日目。
三週間に渡る静養で、怪我は完治。今日から修行を開始すると先生に言われた。
初めから刀を持たせてくれるはずもなく、しばらくは体を作ることから始まった。
やることは単純。庭でひたすら先生に言われるがまま体を鍛え、結界の外の森でひたすら走り回るだけだ。
これを朝晩毎日行う。合間の昼は瞑想に当てられた。
何時間も瞑想することに何の意味があるのだろうかと疑問をぶつけたが、先生はじきにわかるとだけ言って何も教えてはくれない。
それから、先生にいつでも初心に帰れるよう日誌をつけろと言われたので、こうして日々の記録を残しておくことになった。
これは、いつか俺が道に迷った時の道標になる。……らしい。
今は迷いがないから実感が湧かないが、いつかわかる日が来るのだろう。
こうして、俺の修行一日目は終わった。
◇◇◇
――修行十四日目。
日課の鍛錬にも慣れ、森走りもだんだん早く終わるようになってきた。
俺の体が成長している証だろう。なんだか嬉しく思う。
今日は瞑想中、一瞬ではあったが周囲の音がはっきり聞こえたような気がした。
あれは一体……?
日課が早く終わるようになったことで、追加の鍛錬が増えた。
これ以上負荷をかけるのはちょっと……いえ、何でもないです。
俺はただ言われたことを必死で乗り越えるだけだ。
◇◇◇
――修行九〇日目。
食べて、寝て、鍛錬して。そんな毎日を繰り返すこと早九〇日。
ついに剣術について教えてくれることになった!
日課はもう二時間もあれば終わる。
大抵の魔物であれば、走って逃げることだってできる。
? 十歳の子供が毎日魔物から逃げまわる鍛錬とは一体……?
いやいや、そんなことより剣術だ。
と、喜んだのも束の間。
渡されたのは細長い木の棒。
そして言われた一言がこれだ。
『上から下へ、振り下ろすだけだ。これをひたすら続けろ』
それだけ?
もっとすごいものを教えてくれるわけではないのか。ちょっとがっかりしたのは先生に秘密である。
とにもかくにも、言われた通り時間を忘れるほど、俺は木の棒を振り続けた。
◇◇◇
――修行三六〇日目。
修行を始めてから約一年。未だ木の棒を振るう毎日を繰り返している。
鍛錬と瞑想、そして素振り。一年経ってもこれしかやっていない。
だが、実感がないわけではない。
既に大抵の事では疲れない上、瞑想中は感覚が研ぎ澄まされたかのように音や空気に敏感になった。
瞑想以外でも、目をつぶれば先生がどこにいるのか感覚的にわかるほどだ。
それを先生に伝えると、嬉しそうに俺を頭を撫で笑った。
『その感覚、もっと研ぎ澄ませ。この世界に存在するあらゆる全て、それぞれの気がある。それがわかるようになれば、修行を次の段階に進めよう。ただ、焦ることはない。一歩ずつ進め』
先生はそう言った。この言葉、忘れないようにしよう。
◇◇◇
――修行七二〇日目。
修行開始から二年。十二歳となった。
日課の鍛錬を終え、木刀を手に先生に斬りかかる。
上段から振り下ろした俺の木刀に、先生は細く短い木の棒を添えるだけで軽々逸らしていく。
未だ先生に一太刀も当てることはできていない。
まだ先生は遠い。
◇◇◇
――修行一〇八〇日目。
『目に頼りすぎるな。音で、匂いで、振動で、風の動きで、あらゆるものを察知しろ。気配を敏感に感じ取れ。その程度の技量では簡単に殺されるぞ!』
厳しい先生の言葉。
もう三年も経った。月日が経つのは早い。
別に驕っていたわけではないが、神童と謳われていた俺の能力は、存外大したことはなかったと体感している。
未だ先生に一太刀浴びせることはできていない。
もっとだ。もっと貪欲に強さを……。
◇◇◇
――修行一五〇〇日目
先生との打ち合いは激しさを増すばかり。
俺の体格もようやく先生に近づき、技量も上がった。
今では五回に一回、先生に勝つことができるようになった。
だが、まだ納得できる技量ではない。この程度で満足してはいられない。
広い世界には、たった一振りで竜を倒す達人がいる。
道のりはまだ果てしなく遠い。
◇◇◇
――修行二五〇〇日目。
もう七年の月日が経った。俺も来年には成人を迎えることになる。
体中の傷跡、手についた剣だこ、鍛え上げられた体躯、全て努力の結晶だ。誇らしく思う。
先生からは既に二年ほど前に免許皆伝を得てから、俺は森でひたすら魔物狩りをしていた。
未踏の森と言うだけあって、ここにいる魔物は凶悪な奴ばかり。
先生と過ごしたこの家が、まだ森の入り口だったと気づいたときは驚愕したものだ。
この森は奥に進むにつれ、魔物が強くなっていくようだ。
今度戻ってきた時には、最奥を目指そうと思う。
ひとまず俺の修行は終わった。
次は、世界を見て回り見聞を広げること。
自分の足で進み、目で見て耳で聞いた全ての事を糧に、俺はまだ強くなる。
いつか、俺の名声を世界に轟かせるために!
俺の旅は、ここから始まる――。
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