~~姉の旅路~~
――世界は広い。
家にあった書物を読み漁っていた私は、幼心にそれを知った。
歴史ある大家に生まれたが、国家や権力、それらに連なる派閥争いなどには全く興味を示さなかった。
一つ年上の異母兄も同じだった。
だが、父は国の中枢を担う優秀な子を求め、三人の夫人を娶ったと聞く。
第二夫人である私の母以外、親と呼べる人たちは皆野心に溢れていた。
そんな人たちから、なぜ私や兄のような子が生まれてきたかは謎。
野心の欠片もない私たちは、無邪気に遊びまわっていた。
そして時が経つにつれ、弟妹達が増えていく。
第三夫人から生まれた異母妹フランメリーは、赤ん坊の頃からじゃじゃ馬だった。
すぐ物を壊してしまう、困った子だ。それでも初めての妹は可愛いと思った。
私の同母弟であるアランバルドはとても大人しい。あまり泣かない子でもあった。しかし、よく周りを見て人の顔色を窺っていた。この子は何か他の子らとは違うと思った。それにとても愛おしく感じた。
第一夫人の子、異母弟のフェルドナッド。アランと同じ年に生まれた子。
フランメリー同様、この子も暴れん坊だった。人の視線に敏感で泣いたり怒ったりと感情豊かな子だ。
数年ほど前に生まれたばかりの双子、アルミナとアルミラ。
容姿は同じなのに性格は正反対。それでも人懐っこい部分は同じ。アランに甘えたりするのをよく見かけた。
たとえ半分しか血のつながりが無くとも、同じ家に住む家族。
私は皆大好きだった。でも――……真っ黒な小鳥が私の肩に止まる。
偵察用の魔法生物。旅先でも実家の様子は気になるものだ。
この子が私の下へ飛んできたということは、何かが起こったということ。
鳥からの報告を聞き、私は雲一つない空を見上げた。
「そう……あの人はそういう選択をした。人の本質も、何も見えていない。兄さんも好き勝手生きればいいものを……。それが、兄さんが出した答えなら私は変わらず好きに生きるだけ。大丈夫、アランは生きている。爺があの子を……なんてできるはずがない」
小鳥を飛ばし、私は立ちあがる。
椅子代わりにしていた飛竜の尻尾を担ぎ、街へ向かう。
ここは帝国の南端、王国と隣接する国境沿い。
帝国全土は見て回ったから、次は王国に行こう。
「と、止まれ! 何者だ!?」
「?」
国境守護の王国兵が私へ武器を突き付け問いかける。
武器を持つ手は震えている。なぜそう怯えているのだろうか。
「お、王国への侵略者か!? 一体、何をしに来た!?」
「あー……」
そういえば、私は今飛竜を担いでいるのだった。
飛竜は本来中隊規模で討伐にあたる魔物だ。それを私のような女子が一人で担いでいれば、素性を疑いたくなるのもわかる。
しかし、侵略者扱いは不本意。どこをどう見たらこんな可愛い女の子が侵略者に見えるというのか。甚だ疑問だ。
私は空いている手で懐からギルドカードを取り出した。
「ぼ、冒険者だったか……――っ!? そ、そのカードは!?」
「私は旅をしている。そのついでにこれを狩った。早くこの重たい荷物をどうにかしたいだけ。面倒事は嫌い」
「し、失礼しました!! どうぞ、お通りください!!」
「感謝。あなたはいい人」
敬礼する若い兵士に感謝を告げ、私は国境を超えた。
変に目立つのは好かないけど、こういう時はこのカードが便利である。
さて、とりあえずギルドのある近場の街へ向かおう。
その後、妹たちへの土産話を探しに王国を見て回ろう。
もう何年も旅をしているが、私の旅はまだ始まったばかりだから――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます