9.佐倉 爽太(38)の場合

爽太は婚約者の石谷真衣の両親との食事会が、終わり緊張から解き放たれて、自身の実家へと向かっていた。


「君が真衣を幸せにしてくれるなら、どこの誰だって良い。」


自分が捨て子であり、本当はどこの誰だか分からないと言った自分に真衣の両親はそういった。そんなこと大した問題ではないと言うかのように、2人は話し出した。


「そういえば昔、捨て子が多いってニュースになった年あったわね。礼司くん」


「そうだな。まだ、大学生の頃だったか?

まだ、俺たちが出会う前だな。32いや33年前か。」


「ママもパパも私が生まれる前の話なんて、しなくて良いから。爽太くん戸惑ってるでしょ。」


そんな和やかな雰囲気の食事会だった。

そんなことを思い出しながら、実家の玄関を開ける。母さんの靴があった。微かにテレビの音が聞こえるからリビングでテレビを観ているようだ。靴の無い父さんはまだ、工場に居るんだろう。65歳だと言うのに元気なものだ。両親には本当に感謝している。本当の子供ではない自分を育ててくれた。愛してくれた。これから、親孝行していきたい。そんなことを考えながら、扉を開けたその先に見えたのは、誰も居ないリビングと、つけっぱなしのテレビだった。

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ふたつ世界 桔梗 哲毬子 @kikyotemariko

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