8.中村 祐吾(36)の場合

世界が滅茶苦茶になってから5ヶ月、俺は田村と共に図書館にいた。

今から約2ヶ月前辺りから、この世界は急激に痩せていった。田村とは近くに住んでいたから、直ぐに合流できた。こんな良く分からない世界では、仲間がいるだけで心強い。


インターネットが、使えなくなったこの世界で、何かを調べるとしたら紙しかない。

二人は図書館で捨て子に関する情報を探していた。

もし、もしも、だ。

両親が消えた子供達はどうなる?

残った世界の人から消えた人間の記憶が消えたら?

祖父母が居たとしても、祖父母は自分たちに、子供いることを忘れる。孫なら尚更だ。

捨て子は、そんな子供なのだとしたら?

もしかしたら、この世界の人間は何度も半分になっているとしたら?

資料を探す。子供達には悪いが出来ることならば、本当に捨て子であって欲しいと願いながら。


そんな希望を打ち砕くように、集めた資料からは捨て子の多い3つの年が浮かび上がった。

33年前、66年前、99年前の計3年。資料は無いがきっとその前もあるのだろう。おそらく33年後ごとに。

おそらく人間は、何度も半減している。覚えていないだけで。

残る世界と消える世界。


「なあ、田村。…たぶん、たぶんだが、こっちの世界は…」


言い淀んでいると、窓から外を眺めながら、田村が言った。


「ああ、分かってる。言わなくて良い。」


この世界はどうなるのだろう?

俺たちはどうすれば良いのだろう?


中村はボンヤリとした頭で、ふと小学生時代のある参観日を思い出していた。隣の席のかわいい女の子は両親ではなく、両祖父母が来ていた。でも後々、両祖父母に見えた2人がその子の両親だと知った。そして、その子が捨て子だと言うことも。


「日向…」

中村の口から無意識に発せられた言葉は、

図書館の静寂のなかへ消えていった。

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