第60話 四剣乱舞

「翔子ーーー!!!」

 俺達が女王の間にたどり着いた時叫び声が聞こえた。


「身体強化、俊脚!」

 マサトは強化魔法で脚力を強化し一気に駆けていき攻撃を受け止めた。


「ったく、見た感じ散々みたいだな…ソルドは下がっててくれ、皆いくよ!!」

 俺は腰の二振りを抜刀しクワッドとマサトの間に割って入った。


「新手…。」

 クワッドは俺を見るなり距離をとり態勢を整えようとしている。


「まてよ!」

 させない、クワッドの動きに合わせるように踏み込み一気に距離を詰めて斬りかかる。


「ご主人は早速始めちゃいましたね。」

 女王の間に追いついたムゥ達は周りを見渡す、壁にめり込んだ勇者、腰が抜けて戦闘不能のガキ、バラバラの即死であろう死体が2つ、そして膝をつきながらタカユキを見守るマサトとそれに庇われている2人、いや3人か…全滅はしなかったらしい。


「貴女、治療士ですよね?その男まだ生きてますよ?今手当てすれば助かりますよ。」

「え?あ…はいっ。」

 何が起きたのか理解できていないミオはハッと我に返りケンゴの治癒を始めた。


「とりあえずその二人は助かります、あとはあたくし達に任せて見ててくださいませ。行きますよ!」

 ムゥはそう言うと斬り合うタカユキとクワッドの下へと走り出し、それに続くようにガルアス、ロゼッタ、ゼルが走って行き展開していく。 


「うぉっと!?」

 三本の剣を警戒していたらクワッドは不意打ちでもう一本剣を抜刀してきた、俺はギリギリでそれを躱す。


「四刀流とか聞いてないんだけど?」

 ジェネラル・クワッド・ソード、鎧を纏ったアンティオンに見えたがその姿は有名な宇宙戦争の映画に出てくるドロイドの将軍に似ている、剣を複数振り回すあたりもそっくりだ…。


「悪いけど、一対一は遠慮させてもらうよ!」

 そう言いながら俺は二刀を振りながら正面から突っ込み、それを受け止め空いた腕で剣を突き立てようとする瞬間にダン!ダン!ダン!と何かが飛来する。


「…!?」

 ロゼッタの狙撃だ、剣を盾にしつつ回避しようと体を動かす瞬間を逃さずムゥが鉈を振り飛び掛かる。


「四刀とか器用に戦ってめんどくさいのでございます!!」

 それでもクワッドは剣を使いムゥの攻撃も受け止めて見せる。


「どぉりゃぁぁぁぁあ!!」

 そこへ横から完全に不意を付くようにガルアスが突撃し斧を下から胴目掛け振り抜いた。


「ヌゥ…!」

 直撃したかに思われたが鎧で受け流されてしまった。


「マジか、全部防がれた…。」

「流石最強と言うだけありますね、強いのでございます。」

「見事…先ホドノ有象無象トハ全ク違ウ…我モ全力デイカセテモラウ!!」 

 ガルアスの一撃を受けた鎧がバキンと音を立てて崩れ落ち、それに合わせるよう全身に纏っていた甲冑も崩れ落ちた。


「なんだ!?」

「…参ル!」 

 その瞬間視界からクワッドの姿が消えた!?


「なっ!?」

 次の瞬間俺の正面に四刀をバッと振りかざしたクワッドが現れた、どうにか振り下ろされる剣を右の剣で弾きながら左の剣をわざと自分のマントに引っ掛け正面に靡かせ剣を受ける。


「早いっ!?」

 バチバチとプロテクションマントがクワッドの剣を防ぎ激しく反応しパキパキと障壁が崩れていく。


「ボーンスタンプ!」

 骨巨人の手のひらがクワッドを両側から潰そうと迫るが当たる直前でまた高速移動をして回避してしまう。


「くっそ当たらねぇ!!」

 ロゼッタが狙い撃つが高速で移動するクワッドに狙いが追い付いていなかった。


「蟻じゃなくてゴキブリだろこれ…。」

 あまりの移動速度に全員がついて行けない、このままでは勇者パーティの二の舞になってしまう、かと言ってドボルガッシュやガダラスでは動きが重すぎて対応できない…どうするっ!?


「!?」

 考えているうちにクワッドはガルアスに狙いを定め一気に距離を詰めていく。


「くっ!?」

 ガルアスにはマントが無い、間に合え!俺は右手を思いっきり振り抜き剣をクワッドの移動予測地点に投げつけた。


「おらぁ!」

 剣に減速したクワッド目掛けてガルアスの斧が縦一線に振り下ろされた、しかしそれを横に逸れて躱して見せる。


「いただきでございます!」

 投げた剣を拾い避けた先で待っていたムゥが横薙ぎに斬りつける、それすらも片足で上手くバランスをとりながら剣で受け止め、更に追撃の鉈すらも受けて見せた。


「ぎゃん!?」

 そのままムゥを蹴り飛ばしクワッドは距離をとる、さっきまで奴がいた場所に骨の腕が草のように生え動きを封じようとするが追いつかない速度で回避していく。


「ダメ、捕まえられないっ。」

「ならこれならどうだっ!!!」

 ゼルの魔法でも捕まらないクワッド目掛けロゼッタは大きめの弾丸を形成して発射した、弾丸はクワッドの近くまで接近すると弾け拡散してみせた。


「ナンノ!!」

 クワッドは高速で剣を振り拡散した弾丸を叩き落してしまった。


「ここだぁ!」

 動きを止めたこの瞬間を逃がさぬために俺は左の剣で斬りかかる、しかしその時、直感が危険を知らせてきた、咄嗟に右手でマントをバサッと広げ防御態勢をとったその瞬間、クワッドがこっちを向きブシューと口から何か液体を噴射してきたのだ。 


「くっ!?」 

 クワッドが噴射した液体がマントに当たった瞬間その位置からボン、ボボボボボボ!と爆発し始めたのだ、直撃したらヤバかった。


「こいつ爆弾蟻かよっ!?」

 高速移動に四刀流、おまけに爆発性の液体噴射、ダンジョン最強と呼ばれるだけのデタラメスペックだった。


「ご主人どうします?爆液噴射まであると下手に近づけませんよ?」

「そもそも早すぎて追いつけねぇ…。」

 ムゥとガルアスも近くに寄ってきた。


「ガルアス、斧以外は扱える?」

「一応ある程度の武器は扱えるぜ?」

「ならこれ使って。」

 俺はライボルザードを呼び出してガルアスに渡した、斧より取り回しやすい槍を持ってもらい気休めかもしれないけど少しでも高速戦闘について行けるように…。


「借りるぜ…。」

 ガルアスは斧をその場に落としライボルザードを構えなおした。


「ちょっと真似てみるかな…。」

 さっきマサトが使った魔法、身体強化、あれは見た感じ魔力を足に集中させて纏う感じだった、あれと同じ事ができればアイツのスピードについて行けるかもしれない!


「身体強化…。」

「あ、ご主人まっ…!」

「俊脚っ!?」

 足に魔力集中し纏い強化するイメージをしてクワッド目掛けて踏み込んだ!!


「ぎゃんっ。」

 はずだった、すれ違いざまにガキンと剣を当てれたのはいいが勢いあまってそのまま壁に激突してしまった。


「ご主人は普通の人より魔力量が全然違うんですからちゃんと練習しないと暴走するのでございます!!」

 それは早く言ってほしかった…。


「いっ痛…。」

 とにかく…態勢を整えなければ!!


「トルナード!!」

 俺はブレスレットから風の魔剣トルナードを呼び出しそのまま振り抜き風の刃をクワッド目掛けて飛ばした。


「効カヌ!」

 クワッドの四刀流の威力は凄まじかった、しかし剣を二本しまい真ん中の2本の足を移動に回した多脚走行状態の機動力もとんでもないものだった…。


「くっそはえぇ!?」

「こんなの蟻じゃなくてゴキブリでございます!!」  

 四足になったクワッド縦横無尽に駆け回り俺達を翻弄していく。


「くらえぇ!!」

 俺はトルナードの風圧を利用し吹き飛ぶ形ではあるが高速で移動するクワッドに追いつき一撃をいれようとする。


「ナンノ!」

 しかし右腕で風をコントロールしながら左手一本で剣を振るおうとすると余裕が全くない、油断するとそのまま壁に激突しそうになってしまうのだ。


「くっそぉ!!」

 それでもどうにか一撃をいれようとするのだが今度は飛び上がり、壁を走り始めた!?


「撃ち落とせぇ!!」

 ムゥが地面に剣と鉈を突き刺し両手で火炎弾を連射し、ロゼッタがライフルで狙い撃ち、ゼルが骨の棘を召喚し撃ち込んでいく。


「当たらないっ。」

 クワッドはカサカサと壁を天井を重力なんて関係無いと言わんばかりに駆け回る。


「まずいっ!?」 

 俺は、直感的にトルナードに魔力を流し一気に飛び込んだ、クワッドは駆け回りながら後衛の二人を狙っていたのだ。


「させねぇよ!!」

 ゼルとロゼッタの真上に来たクワッドはそのまま落下し4刀を抜き放ち強襲してくる、そこに空中でギリギリ飛び込み攻撃を受け止める。


「ヌゥ…。」

 剣どうしがぶつかり合いガキンという音が響き渡たり、そのまま地面に落下し背中から叩きつけられたがそのままバク転して距離を取りながら四刀の串刺し追撃を躱した。


「どおりゃ!!」

 クワッドは続けざまのガルアスの援護の一撃もバックステップで躱して見せた、本物の強者であることを痛感させられる。


「脳筋ライオンよりつえぇ…。」

「あの馬鹿そうとう手加減してましたよ、あの時…。」 

 そうとう手加減してあれかよ…。


「実際あの時のウガルルムより全然こいつの方が強いのでございますけど…。」

 また睨み合い膠着状態になってしまった、1対5でやっと拮抗している現状を打開する方法が思いつかない…考えなければ奴に主導権が傾いてしまう…。


ビシャン!!


 その時だった、何かが光、横たわっていたクィーンの腹部に大きな亀裂が入りクワッドは急に焦りだしたのだった。

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ロードストライカー~いまさら王道冒険譚~ ウィヴィル @Wiviru

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