チェックメイト


病からの解放。


それはジルが当の昔に諦めていた事。


期待など微塵もしていなかった事。


それ故、ずっと身体に巻き付いて離れなかった倦怠感が、引き潮のように引いて無くなっていくのがはっきりと分かっていくと、ジルは両手を口元に当て、バイオレットの胸の奥底から込み上げてくる者があり、次第に堰を切ったように号泣した。



……この先、さらなる地獄が彼女に待ち受けているとも知らずに。


☆★☆


症状が治まり、喜ぶジルに対し、バイオレットは誇らしげに言った。


「ね? 嘘じゃなかったでしょ? 貴方の病気はちゃんと私の薬で治せるの」


「……う、うん! ……あり、がとう。私、さ、さっき酷い事……」


――先ほどまでは自分を父と引き離した得体のしれない女性に対し、怒りと嫌悪感を覚えていたジルだったが、その感情も知らぬ間に消え去っていた


今は、感謝と尊敬の念が沸き上がっていた。


ジルは素直に頷き、感謝の言葉を述べ、無礼を詫びた。


それに対し、バイオレットは口角を緩めて、


「いいわ。貴方が心の優しい持ち主だという事は私が一番知っているもの。フフフ」


「……」


そう言って、ジルの頭を優しく撫で続けるバイオレット。


――ジルはもう抵抗することはなかった。


バイオレットに心を許した……とまでは行かなかったが、それでも少し……父の次ぐらいには心を許し始めていた。


身体が軽い。


まるで背中に羽が生えたかのように。


それに何だが気持ちいい。


まるで日向ぼっこをしてるのかのように、身体が温かくて心地いい。


(……もうビョーキに苦しまなくていいんだ……。やっとこれでお父さんに心配かけなくて済む……)


そう思うや否や、今度は別の意味での疲労がドッとジルに押し寄せてきた。


安心からくる眠気。


次第にジルの瞼は重くなりかけたが、その時、思い出したかのようにバイオレットがポツリと言った。


「‥‥チェックメイト」














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そして勇者は闇堕ちする(第一部完) 夜道に桜 @kakuyomisyosinnsya

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