第2話:孫と一緒に。
「
「赤いきつね!」
あれから数十年の年月が経ち、私は自分の孫にそう問いかける。たまに遊びに来る孫にねだられたのは、赤いきつねだった。
私は緑のたぬきを選び、ふたりで食べることにした。
祖父の言った通り、大人になってからそばの良さに気付いた。昔は赤いきつねばかり選んでいたけれど、今では半々だ。自分の気分によってうどんかそばかを選べるから、少し贅沢な気持ちになる。それに、今だと他の商品も増えているしね。選択肢がたくさんで、ついつい迷ってしまう。
それでも、なぜか原点に戻ってきちゃうのよねぇ。
葵に食べさせるためにお湯を沸かしていると、葵は私の分まで用意してくれた。剥がすのが楽しいみたい。
お湯が沸いて、お湯を入れる。もちろん、葵の分から。自分の分も注いで時計を見る。今から五分と三分。
「おばあちゃんのほうが早いから、あおいが教えてあげるね」
「じゃあ任せちゃおうかな」
くすりと笑ってやかんをキッチンへ戻し、あの日の祖母のことを思い出した。
箸を持って葵の元に戻り、箸を渡すと葵はじっと時計とにらめっこをしていた。
その様子がとても愛らしく見えて、祖父母はこんな気持ちで私を見ていたかもしれないと思うとなんだかくすぐったい気持ちになった。
「あ、おばあちゃん、三分経ったよ!」
「うん。それじゃあ、先にいただくね」
「はぁい」
蓋を全部剥がして、両手を合わせて「いただきます」を口にしてから、そばをずるずると啜る。うん、やっぱり美味しい。それから二分経って、葵も蓋を剥がして「いただきます」をしてから、うどんを箸で持ち上げてふぅふぅと息を吹きかけてから啜る。
うどんをもぐもぐと食べている姿を見て、ふふ、と小さな笑みを浮かべると葵が首を傾げた。
「おばあちゃん?」
「ううん、なんでもないの。――ねぇ、葵、美味しい?」
「うん、とってもおいしいよ!」
その言葉を聞いて、私は目元を細めて昔を懐かしむように「おいしいねぇ」と葵に同意を返した。
「またおばあちゃんと食べたいな」
そんな可愛らしいお願いをされて、「おばあちゃんもよ」と優しく言うと、葵はとても嬉しそうに笑って、それから照れちゃったのか顔を隠すようにうどんを啜っていた。
いつか葵が大きくなって、私のようにおばあちゃんになって、その時にもきっと――こうやって食べているのかもしれないね。
そんなことを考えながら食べていたら、あっという間に食べ終わってしまった。葵が食べ終わるのを待って、両手を合わせると、葵も両手を合わせた。それからふたりで同時に、
「ごちそうさまでした」
と、口にして微笑み合った。
小さな幸せを紡いでいく。 秋月一花 @akiduki1001
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