筋肉女子とニーハイ

「こ、こんなの履けるか!」


 バイト先で、私はニーハイを履かされた。

 肩なんてパフスリーブで、これでは自慢のショルダーが披露できない。


「でも、これがウチの標準だし。マユにはなれてもらわないと」


 同じ時期にバイトを始めたシノから、釘を差された。


「くっ! マッチョカフェって言うから、もっと肌色が強いと思ったのに!」


 最新の姿勢矯正グッズを買うためなら、太ももの露出もやむなしか。


 肌を見せる程度なら、スポブラだろうがショートスパッツだろうがなんだって着てやれる。 

 しかし、ムダに隠されると恥ずかしい。


「じゃあ、マユだけ逆バニーね」


「くっ! そんなの着られない!」


「当たり前じゃん。あんなの着たら、ウチらがクビになる前にお店が風営法違反で潰れちゃうよ」


 乳首露出だけは、避けたいっ。


「それはそうと、ニーソとニーハイって何が違うんだ?」


「ニーソは、ここまで」


 シノが、自分のニーハイを上げる。

 スカートの丈ギリギリまで、ニーハイを上げた。

 

「これはオーバーニーとか、サイハイソックスとも言うよ。ニーハイは、ヒザまで」


「つまり絶対領域ができないと」


「その解釈でいいから」



「なら……筋肉は見せつけられる!」


 私は、トレーニングで磨き抜いた太ももを全開にする。

 

「でも、ちゃんとしないとパンツ見られちゃうからね」


「おっと!」


 全力で、スカートを戻した。


 まあ、見られてもしょせんボクサーショーツなのだが。


「ほら、お客さん来たよ」


「いいい、いらっしゃいませぇ」


 冷や汗をかきつつ、私は接客を始めた。


「おまたせしました。愛情プロテインと、肩メロンになりますね」


 客が選んだのは、生ハムメロンと、チョコ味のプロテインだ。

 

「プ、プロ、プロテインに呪文はいかが?」


 オムライスにかける魔法の、プロテイン版である。

 

「じゃあ、それで」


「お、おいしくなあれ?」


 うまくなるのか? 筋肉女が手でハートを作ったくらいで。

 

「マユ、メイドが迷ったらダメだよ」


「そ、そうだな。きっとうまくなる!」


 私は、二の腕を曲げて力こぶを作る。

 

 うん、ナイスバルク。


「そんなんじゃ、怖がっちゃうよ」


「あひゃああん!」


 脇の下に手を入れられて、私は身悶えた。


「おお。なんだ今の声は!?」


 男性客が騒然となる。


「筋肉女子の喘ぎ声、助かる!」

 

「こっちにもサービスください!」


 これ、サービスじゃねえから!


 だが結局、私のセクシーボイスのせいでみせの売上は急上昇した。


「ボーナスで健康器具、買えちゃったね」


「なんか、うれしくない!」

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筋肉女子の弱点 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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