筋肉少女、最大の弱点

「アヒャヒャヒャ!」


 わたしは自室で、シノに足の裏をくすぐられている。


「思った通りだよ。マユって、ここ弱いと思ったんだぁ」

「やめてアヒャヒャーッ!」


 発狂したように、わたしは笑い転げた。


 ヤバい、笑いすぎて息ができない。


「マジやめてお腹痛い!」


 息も絶え絶えにわたしが懇願すると、ようやくやめてくれた。


「もー。腹筋の足を持ってくれるだけでいい、って言ったのに」

「そんなかわいい裸足裏が見えたら、くすぐらない方が失礼だって」


 くすぐった方が、明らかに失礼だろう。


「でさ、もっといい遊びがあるよ」

「やめてよ。どうせ足裏マッサージでしょ? アレ痛いんだから」

「やってみないとわかんないじゃん。嫌なら、あたしからやっていいよ」


 シノが靴下を脱ぐ。

 鍛え抜かれた、バッキバキの足裏を見せつけてきた。


「そんな。シノがやるなら、わたしもやんないといけないじゃん」

「いいから」


 シノが、短い木の棒を用意する。

 ガチで足裏揉みに使う、ホンモノの医療器具じゃないか。


「じゃあいくよ。ここってどうなん?」

「泌尿器科だって。痛くないから問題ないね」

「ここは?」

「肝臓系。まったく痛くないよ」


 その後もグイグイ足の裏を押しても、シノは悲鳴すら上げない。


「最後、ここは?」

「おう!」


 今まで楽勝モードだったシノが、急に痛みを訴え始める。


「どこよ、ここ? 何に効くの?」

「生殖器だって」


 声を抑えながら、シノが息を荒くした。


 やめやめ。


 シノと交代して、わたしが足を差し出す。


「さて、マユはどこが悪いのかなー?」


 木の棒のゴリゴリが、わたしの足を撫で回す。


「あぐうううう!」


押してくるトコロ、全てが痛い。

 足の指の間にも、木が入り込む。


「いぎいいいい! それヤバいそれヤバい!」


 足をバタバタさせても、シノは医療行為をやめない。

 

「マユ、内蔵全部ダメじゃん。こっそりラーメン食べてるでしょ?」


 どうしてバレた?


「体内の消毒系が、ダメージを受けてる感じだね」

「そこまで酷いとは」

「食べては痩せてを繰り返しているから、特に胃腸が悲鳴を上げてるね。運動もいいけど、ジャンク食べるのを控えないと」


 身体の中から美貌は生まれるとは、わかっている。

 

 夜中に食べる背徳の味には、抗えないだけなのだ。


「これは不摂生の権化だね。うりゃあ」

「あひいいいい!」


 わたしは、身体をのけぞらせた。

 身体中に電気が流れる。


 なにこれ、今まで感じたことのない感覚だ。

 痛みとかはないが、絶対に触ってほしくない。

 刺激されたら、変になってしまう。

 

 突然、シノが治療をやめる。

 

「今のは、どこが悪いの?」

「……生殖器」


 わたしたちは揃って、気まずくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る