筋肉少女、クノイチになる

 文化祭の出しものが、「ニンジャカフェ」になった。


 本格的な忍者ではなく、ニンジャである。

 

「ドーモ」とあいさつの後で自己紹介さえ欠かさなければ、どんなアバウトな格好をしてもいい。


 とはいえ対抗馬だった「筋肉カフェ」とかにならなくて、よかった。

 どうして、競っていたのだろう? みんな変な性癖に走りすぎだ。

 男子でさえ、「メニューにプロテイン出そう」と暴走しだしたし。

 

 

「ドーモ。ダンボールマッスルです」


 シノが、ダンボールロボットの格好で現れた。

 ちゃんと胸に手裏剣のイラストが描かれている。

 

「うっわ。そんなんでも許されるんだ。わたしバカみたいじゃん」


 オーソドックスなミニスカクノイチで、来てしまったではないか。


 周りを見ると、まともなニンジャが誰もいなかった。


「マユが一番クノイチしてていいね」

「でも、わたしが一番浮いてる」

「とんでもない! マユみたいなのがいないとクリーチャーカフェって間違えられちゃうよ」


 それでもいいような。

 いっそ「疑似筋肉カフェ」でさえいいと思い始めている。

 

「ダメダメ。マユはクノイチ。イイネ?」

「アッハイ」


 仕方なく、わたしはクノイチファッションで当日は過ごすことになった。


「名前はなににしよう?」

「ヒワイマッチョ」


 友人のメメが話に加わって、わたしの名前を提案する。


 映画の『クライ・マッチョ』と混同するからダメ。


「ていうかお前誰だよ?」

「ドーモ。ミセツケルジライです」


 メメは、いわゆる「地雷女ニンジャ」のコスプレをしている。

 パラソルにもなるステッキが、水遁の術の筒になっているのだ。


「じゃあ、そうだなぁ……セクシービームにしよう」

「いいねメメ。わかりやすい」


 なんか、急に名前が決まったぞ。

 ビーム要素どこだよ?

 

「あのさ、どこがセクシーなのさ? スカートの中だってスパッツだし」

「その格好からセクシーを連想させなくて、何がセクシーだと? あんた今、セクシーのハードルをすごくあげちゃったよ?」


 手をワキワキさせながら、ダンボールと地雷女が迫ってくる。


「あひゃあ!」


 シノとメメが、わたしをなわとびで縛り上げた。

 

「マユは当日、捕まった体のオブジェになってもらうから」


 わたしは教壇で、はりつけにされるという。

 両手足をなわとびでくくりつけられながら。


「ええ……」

「マユしかできないことだよ。お客が来るたび、映えポイントとして置物になってもらうから」


 へそ出しシックスパックを晒して、捕まっている姿を自撮りポイントにするという。


「マジ勘弁」


 わたしは、縄を引きちぎる。


「ひいいい!」

 



 

 連帯責任として、当日わたしは縛られるのを承諾する代わりに、ダンボールと地雷女も道連れにした。


 なぜか、その光景は映えスポットとして学内で賞を取ることに。

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