第24話・第一章Ⅹ「出撃」

 「勇者はまだ現れぬか?」

軍議にて魔王様が尋ねる。


「は・・・、妖精の森周辺を中心に、探索を続けておりますが、未だ勇者の復活は確認されておりません・・・。」

その問いにガイが答える。こころなしか、表情が暗い。


「・・・どうした?ガイよ。」


「魔王様、一つ報告がございます。」


「聞こう。」


「これに御座います。」


そう言うと、ガイは一枚の地図を軍議室の大きなテーブルに地図を広げた。妖精の森周辺を中心に、あちこちに印がつけてある。


「こちらが昨日までの機獣が出現・討伐した地点です。」


「ふむ・・。」


「そして、これが、今朝確認された機獣です。」

ガイがもう一枚地図を取り出し、上に重ねる。位置が違うが、ほぼ一箇所に、先程までと同じくらいの数の印が集中している。


「随分多いな・・・。」


「はい。先日の魔珠を用い、ローグ殿の探査能力を増幅させ、調べてもらいました。」


見れば、妖精の森周辺に増員を出し、手薄になった箇所だ。しかも、ローグが力を増した状態でようやく発見されたということは、機獣はこちらに気付かれない位置で意図的に潜んでいたことになる。そしてその数が増しているということは・・。


「まずいな・・・。」


「はい。手薄になった部隊に襲いかかる機を窺っているかと。急ぎ増援を派遣しましたが、狼型とは違う、新たな機獣も確認されており、予断を許さない状況です。」


「新たな機獣だと?」


「報告によればこれまでの狼型に加え、全身を針で覆われた機獣、下顎に鋭い牙を持つ猪のような機獣、トロル並に大きく、鋭い牙と爪を持つ熊の如き機獣などが確認されております。」


「ふむ・・・。強さはわかるか?」


「まだ実際に手出しはしておりませんが、ローグ殿の見立てでは、針の機獣は狼型と同じく中級魔族程度であろうと。ただ、猪型、特に熊型の機獣の身体能力は、上級魔族に届き得るかもしれぬとのことです。」


「上級魔族だと・・・?」


「もちろん、確定ではありません。ただ、大事を取って、部隊には迂闊に手を出さぬように通達を出しております。」


「・・・ローグに限って、相手の力をそうそう見誤ることはあるまい・・・。あやつが部下に殲滅を命じない以上、それだけの力を持っていると見るべきだろう。」

魔王様は、腕を組み、目を瞑った。しばしの沈黙の後、


「ガイ、魔将を集めろ。獣如きに我等と勇者の戦いに水を差される訳にはいかぬ。奴が復活するまでにケリをつける。」


「は!」

そう言うとガイは合図を出す。軍議室の空間が歪み始める。


歪みがなくなると、オードを始め、魔将達が揃って席についていた。

「魔王様、そのお言葉、待っておりました。」


ふ・・・、と魔王様の口元に笑みがこぼれる。


「その様子だと、皆、状況はわかっているようだな。」


「はっ!!」


「よし・・・。ガイ、そちに指揮を任そう。魔将を率いて見事機獣共を殲滅してみせよ!」


「お任せください。」


ガイは軽く咳払いをした後、魔将達に指示を出す。


「皆、聞いての通りだ。魔王様は迅速な事態収束をお望みである。我等の働きぶりを是非魔王様にお見せしたい。そこでまずはローグ殿、ネレス殿。」


二人が揃って立ち上がる。


「ローグ殿には、情報収集、即ち戦況の把握をお願いしたい。機獣が移動するようなら逐一ネレス殿に伝えて欲しい。ネレス殿はその情報を我等と、必要であれば防衛部隊に退避の指示も出してくれ。魔城と魔王様の警護も合わせて頼む。」


「・・・承知。」

「心得ましたわ。」


「オード殿、トレッド殿、リーン殿は私と共に機獣討伐に当たる。まずは一番数の多い狼型の機獣の群れだが、これはリーン殿にお任せしたい。よいか?」


「いささか物足りなさも感じるでありんすが、部隊に被害を出すわけにはいきんせん。わかりんした。」


「トレッド殿は、次に数の多い針型の機獣討伐を任せたい。配置から考えると狼型の指揮を取っている可能性もある。これ以上群れられる前に、確実に潰してくれ。」


「虱潰しにやればいいんだな?任された。」


「オード殿は、猪型の機獣を掃討してくれ。数は少ないが、上位魔族並の力を持っているやもしれぬ。油断せずあたって欲しい。」


「おいおい。一番強そうな熊型とやらせてくれるんじゃないのかよ。」

オードが不服そうに言う。


「お前は、どうにも遊び癖があるからな。熊型の機獣とやらせたら、相手が戦意喪失するまで延々と戦い続けかねん。今回は迅速に片付けたいのだ。その代わり、猪型の機獣を全て殲滅して、まだ私が熊型の機獣の討伐が終わってなければ譲ってやる。」


「わかったよ。じゃあ速攻で斬り刻んでやるからよ。ガイはゆっくりやってくれて構わないぜ?」


「ははは。くれぐれも急ぎ過ぎて油断だけはするなよ?確実に倒してくれ。」


「ったく、信用ねぇなぁ・・・。」

ポリポリと頭を掻きながら、オードも席を立つ。



「では、魔王様。行ってまいります。」


「ああ。頼む。」


そう言うと、ガイ達は意気揚々と出撃していった。


その自信溢れる姿を目の当たりにし、嬉しく思う魔王だった。



~つづく~


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世界の半分を勇者にあげたかった魔王 かすみあきら @kasumiakira

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