Ⅷ・跳菟の奴隷商人

「だっはぁ〜〜〜。着いたぁ〜。やっと着いたのぉぉ〜〜〜」

大きな旅鞄を二つも抱え汗だくになって大きな岩壁の前にたどりつく。

女一人で持ち歩くにはあまりに大きな旅鞄をドサリと地面に落とすとルルンミルカは両膝に手を付いてぜぇぜぇと息を吐き出しながら文句を並べる。


「大体、教副帝様は無茶ぶりなのよ。邪教を滅ぼせとか言うけど。

国じゃん。一個の国じゃん。そんなの滅しろって言ったて無理ぃ。

それに従者って誰でも良いじゃん。

その辺の雄でも雌でも誰でも適当に選べば良いじゃん。

従者一人に会うために大陸一つ越えたわよ。

主人が従者に会うために、大陸一つ越えるってどうゆうことなのよ。まったく。

それにこの荷物なによ。中に何入ってるのよ。

か弱い淑女に何持たせるのよ。あの教司祭燃やしてやるぅ」


城門とさえ言える岩壁の前で一人大声で愚痴ていると、

声に気づいた輩がやって来る。

ズカズカと足音を響かせ近寄ってきた雄の体軀はでかい。とてもでかい。


「お嬢さん?随分と細腕の様だが、持って来た荷物は大きいな?大丈夫なのかね?

それと我が主人ソヌヌ・アイゼンホイミゾーヌ様の大鎧挟蟹の養殖場に

何の用だね?」

訝しいと言うより、既に怪しい奴だと決めつけて、今にもつまみ出そうと

ルルンミルカの前に立ち塞がる。


「一寸、待ちなよ。カイジガの旦那。まったく。難しい顔ばかりしてるくせに

実はお嬢ちゃんの色々な所を見定めてるくせに。このスケベオヤジ」

カイジガの後ろからヌゥと大きな影が現れスケベオヤジの肩を叩く。

「ぬぉ。見てないぞ。儂は警備の仕事を真面目にやってるだけだぞ」

図星であるのだろう。何とか誤魔化そうと視線を逸らす。


「自分は燄使いのルルンミルカと申します。

遙々四つ目の大陸から従者を受け取りに参りました。その前に水を一杯下さい。

もう、無理。倒れちゃう。むしろ卒倒してやる。」

ぺたんと腰を落としてルルンミルカは倒れかける。

「お〜〜い。誰か水持って来てくれよぉ〜〜。

それと跳菟の旦那に繋いでおくれぇ〜〜」

警護を任されるカイジカよりも背も体も大きい奴隷頭のエルゼーヌが

一際大きな声を上げる。


「なんかすごく重いぞ?お嬢さん。なにが入っているんだ」

来客用の天幕の床にドスンとルルンミルカの荷物が運び込まれる。

「私も良く知らないんです。此方の主人様にお届けするようにと言われただけで」

手に持つ水杯を大事そうに握り締めながらルルンミルカも不思議そうに首を傾げる。

「ふむ。目的地は確かに此処だろうし、開けてしまってもいいのだろうが。」

娯楽があまり多くはなく仕事ばかりのカイジカは興味津々で旅鞄を撫で回している。


「それは、従者奴隷の代金だと思うぞ。カイジガ君」

何処か偉そうな声が天幕の蓋幕の外から聞こえすぐに養殖所の主人が姿を現す。

最も自分の足で歩いてるわけではない。

背が高く白い肌の女性に抱えられてである。

むしろ女性が抱っこしてると言っても良いだろう。

「下ろしてくれ。頼む」と長い兎耳をばたつかせて強請ると白い女性は

嫌々に腕を緩める。

ピョンと器用に着地すると菟耳をピンと伸ばして軽やかに挨拶する


「僕、コホン。儂が撃鞭の奴隷商人ソヌヌ・アイゼンホイミゾーヌ。その人である」

腰に手を添え、背筋をピンと伸ばし精一杯虚勢を張ってみせるが、跳菟族である。

背も小さく愛くるしい顔とまんまるの胴体とお尻。

白い女でなくても抱きしめたくなるだろう。


「可愛い。あ、失礼しました。撃鞭の奴隷商人、ソヌヌ様

私奴、燄使いのルルンミルカと申します。伏せる名の御方から此方にいる従者を一人

受け取りに来たので御座います。注文書は此方です」

恭しく頭を下げて羊皮紙を差し出すが、心の中では跳菟抱きしめて見たい欲望に

ルルンミルカも駆られる。


「うむうむ。なるほどな。事前に連絡は受けてるのだがね。

伏せる名の教副帝様の注文は細かくてな。うん。これが面倒でな。

なかなか大変だっだぞ」

「そこは伏せて頂きたいのですが・・・?奴隷商人様」

伏せるところが全部ズカズカと言ってしまうソヌヌに苦笑いを返すルルンミルカ

「良いじゃん。べつにぃ〜。誰も聞いてないって。

こんな辺境までやって来る偏屈淑女なんだし」

「へ・・偏屈淑女って・・・」急に口調が変わったのに驚きしつつ親近感もわく。

「まずは商売だからね。出す物出してくれないとダメですよん」

可愛い顔しても商売人である。モフモフとした丸い手を付きだして促す。


「では失礼して。」と旅鞄から箱を取り出そうとするが布地が

引っかかって旨く取り出せない。

大事な商談の場でもたつくのも不味いと思うとカイジカの大きな手が伸びて鞄を

引き裂く。

「こっちの方が速いだろ」とビリビリと二つ目の旅鞄も引き裂き中から頑丈な箱を

床に並べる。

ルルンミルカが首元から紐付き鍵を取り出してカチャリと開けて蓋を開く。


「おおおおお。これはすごいぞ。さすがだな。一寸眩しいぞ。

こっちの箱はどうなんだ?」

よほど待ちきれなかったのだろう。ルルンミルカが鍵を開ける前に

錠前器具を引き千切り勝手にあけた金庫箱には、黄金延べ棒が十五本ほど

入っていた箱が二つで三十本の黄金延べ棒が光を放つ。


「おおおおおおおおおっ」大陸一つの行く道を運んで来たルルンミルカを始め

ソヌヌとその一党も目を丸くし声を上げる。


「アタシ。黄金の延べ棒を運んでたんですね。道理で重いはずです。

大変だったもの」

驚きを隠せないのは元より今までの苦労を思い出し

少し遠い目をするルルンミルカ。


「証書一枚で済むんじゃないの?こんなの運んでくる方が危険じゃん

ププ。結構お馬鹿なんだね。燄使いのお姉さんって」

丸っこい手で口元を覆いソヌヌが笑う。


「えええ。そんな。アタシの苦労はどうなるんです。

もっと言い方在るでしょう?むしろ褒めて下さいよ。頑張ったね。

可愛いお嬢さんとかぁ〜〜」

言われて見れば確かに銀行証書に標せば羊皮紙一枚で済む。

危険も少なくなるだろう。何より重くはない。

苦労したのに、頑張ったのにといじけるルルンミルカの頭を白い女の手が

いたわり撫でる。


「はい。これ炎使いさん。次はこれとそれをお願いしますね。

焦がさないで下さいよ」

世話になるお礼に何か出来る事はないかと思い、自分は燄使いだからと申し出たのはいいが連れていかれたのが、厨房だった。

「手伝ってくれるって言うからさぁ〜。こき使ってやっておくれ」

奴隷頭のエリーヌは言うとさっさと自分の仕事にもどってしまう。

何をどうすれば良いのかと思っているとまだ、幼い少女がパタパタと走ってくる。

「料理番頭を務めております。アルメイアと申します。

今日は収穫の日でして、養殖場の外からも人が来てるので忙しいのです。

此方です。此処の鍋を担当して下さい。火を調整するだけで良いです。

味見は私がしますので」

まだ、幼い少女のはずなのに料理に関しては玄人と言う事だろう。

そう言う分けで燄使いルルンミルカは、自慢の炎を使って料理を作るはめになる。


もっとも、ルルンミルカが料理を作る分けではない。

目の前に横一列にずらっと鉄鍋が並ぶ。料理人達が鍋に具材を

次ぎ次ぎとぶち込んでいく

ルルンミルカの仕事は具材の入った鉄鍋の下の釜に火をくべる事だ。

元より貴族のルルンミルカは料理なんかしたことはない。

鍋釜に火を入れるなんてした事もない。

それでも言われるままに燄を起こすと鉄鍋の具材が燃え上がる。

「うわっ。やり過ぎちゃった。」燃え上がった燄は鉄鍋の具材を炭にしてしまう。

「ご・・御免なさい」と頭を下げる暇も無く、炭となった鉄鍋が

どけられ新しい具材の鉄鍋が目の前に置かれる

「ほら、ほら。ぼうっとしてないでください。

今日は五百食も作らないといけないんです。」

少しムッとしたアルメイアに呵られ、気を取り尚し加減しながら燄を起こす。

「そうそう。そんな感じです。上手ですよ。燄使いさん。

最初は小さく。材料に火が通ったら一気に火力を上げて。

あ。隣もありますからね。ほら、気を付けて」

跳菟族の奴隷商に仕える彼等は仕事には厳しい。

客人であるはずのルルンミルカも厨房に入れば下働きの料理人と同じだ。

使える者は誰でも使え。手を動かさない者は飯にありつけなぬと言う事だろう。

いつの間にかルルンミルカの手には料理篦が握られ、燄を操り篦で具材を

炒め皿に盛りつける。

そうしないと次から次へと目の前に具材と食材が入った鉄鍋の数が減って

行かないのだ。

気を抜くと燄が弱まり料理が旨くなくなる。

そうなると味を確認するアルメイアが渋い顔で睨むのだ。

「怖い・・あの目つきは玄人だ。怖すぎるの」

見習い料理人扱いのルルンミルカは必死で鍋を振り料理人とし

てその日一日を過ごす事になる。


「うっまぁ〜〜〜。美味しい〜〜〜。うんうん」

ホクホクと自分で料理した料理を極彩色に塗られた箸を慣れない手つきで

何とか使い口に運ぶ

「アタシ、料理とかした事無いけど。面白いなぁ。はまってしまいそうですぅ」

ニコニコと箸で肉巻きを掴み口に運びながらルルンミルカは楽しそうに笑う。

「燄使いだけあって、火加減の調節は上手なんですけど。

その他は結構不器用なのが玉に瑕ですよ」

料理番頭のアルメリアがルルンミルカにお代わりの鍋椀を渡しながら言う。

「まぁ何だ。この養殖場はいつも人手が足りなくてな

飛龍猫の手も借りたいくらいだ。

手を動かさないで飯にありつけるのは養殖場を仕切るソヌヌ様くらいだな。」

カイジカが体を揺らして笑う。


「なにを言うんだ。ボク・・・儂だってちゃんと働いているんだぞ。

わざと粗相をして躾を強請る奴隷共の可愛い尻を叩いてやる

と言う立派な仕事があるんだぞ」

白い女に抱っこされたまま手を振り上げてソヌヌが言い切る。

「それは御主人様の趣味で御座いましょ?」エリーヌがきっぱりと言い切る。

「なにぉ〜〜言うかぁ〜〜〜。躾してやるぅ〜〜。この。このぉ〜」

白い女の腕の中で身を乗り出しパタパタと丸っこい手を付きだして

使用人を叩こうとするが体をきつく抱っこされているから、手は届かない。

「きゃ〜〜〜。跳菟がアタシをはたこうとするぅ〜〜。

御無体なぁ〜〜助けてぇ〜〜」

跳菟の奴隷商人と従者奴隷の楽しげなやり取りの中、食事はすすみ。

燄使いルルンミルカも自分に課せられた任の重さをこの時ばかりは忘れる事が

出来ていた。


堕鞭の奴隷商人ソヌヌ、アイゼンホイミゾーヌ。

その本性をルルンミルカが見定めたのは楽しげな食事と茶会が終わり

ミヌの大川の女神深夜おそくも川藻に身を墜とす時刻であった。

「儂には関係無い事であるが、伏せるべき名前の教副帝様も無理を仰るだな。

幾ら覇教とはいえ、確かに手が届かぬ土地も未だ多い。

彼の国に精霊院教が広まれば、又一歩覇業を成すのには変わりないが

厄介だろうな。」

ソヌヌの私室天幕で白い女に抱っこされ、手に握る棒甘飴を舐めながら

ソヌヌが言う。


「無理とは思うのですが、成さねばなりません」

ソヌヌの前に座るルルンミルカも神妙に答える。

「まぁ、それは其方の話だな。さて商売取引と行こう。燄使いのルルンミルカ殿」

本人はパンパンと手を打ったつもりでも長い毛と肉球がぶつかるだけで

ぽふぽふとしか音ならない。

それでも合図には変わる事無く天幕蓋が開けられ、従者候補の者達が姿を現す。


一人は背が一番高く肉好きも良い。戦う事を常として生きてきた者であろう。

厳つい顔と体には戦勲章の傷跡が幾つも刻まれている。

「ブグンダと申します。以後お見知りおきを」

グイと大きな体を曲げてルルンミルカの前に傅く。

一つの国を墜とすとなれば戦になるのは間違いない。

屈強な戦士が従者となれば心強い。


二度目の天幕蓋が開けられると静かに音もなく入ってきたのは美形の者だった。

「あらまぁ〜」とルルンミルカも女の顔になり声を上げてしまうほどである。

「ピクシカと名乗って折ります。淑女様」すぐに傅くとルルンミルカの手を

取り甲に口付けをする。

「そいつは逸品だぞ。女と雌を悦ばせる才は逸品だな。此奴の後ろには

女共が並び歩く。

もっとも、知力、策略にも長けておる。燄使い殿には役に立つだろうなぁ」

ソヌヌが補足する奴隷商人の言う通りだろう。

確かに美形であり女共が好きそうな程よい肉付である。

貴族夫人でさえも大金を払ってもピクシカの尻を撫で回すだろう。


「教副帝の注文は厄介でな。

戦に長けていて策士を成せて、尚且つ疼く乙女の体を存分に癒やす者と言うのだ。

儂としても一人に絞るのは難題だった。まあこれだけでじゃないだが。

ほれ、ちゃんとしろ。さっさと立ち上がれ」

ソヌヌが食べかけの棘葡萄を天幕に転がった箱の奥に投げる。

ポテっと音がしたかと思うとおずおずと一人の雄の奴隷が立ち上がる。


都合三人目となる従者候補の奴隷は変わっていた。

中肉中背と見て取れるがヒョロリと痩せている。

痩せすぎではないがやっぱり痩せている。

特徴はそれだけでは無かった。長い間何処ぞの主人に甚振られたのだろう。

体には棒鞭は元よりいろいろな拷問を受けた傷跡が残る。

その後遺症でもあるのだろう。どうやら光を失っているらしい。

傷跡もあるのかもしれない。

そのために目の周りに紅い布を巻き付けてもいる。

「ンキキ・・・。と呼ばれています。」ソヌヌに促されてやっとそれだけ告げる。

「まぁ、余興という所だろう。此奴はな。取り柄は特にない。

無理に探せば何も出来ない。何もしない。

最後にはアレも無いから夜伽も出来ない。つまりは引き取り手もいない。

ただ、そこにいるだけの従者奴隷となるな。うんうん。どうしようもない奴だ。

だが、儂の一番のお勧めだ。超お勧めの逸品だぞ」


「何も出来ない従者の何処がお勧めなんです?」

首を傾げて訝しげにルルンミルカが聞き正す

「それは秘密だ。最初に言っちゃ駄目だろ?

好物の柔菓子の上に乗る棘一度は一番最後に食べるだろう

?お楽しみは最後に取って置くものだ」

「私は、むしろ美味しい物は最初に食べる派です。

後にするとお腹いっぱいになるし」

「邪道だな。お前、東方饂飩に蛇卵三個乗せて啜る輩だろ?

あれは、行かぬ。饂飩に卵は二個までと決まっておる。邪道娘め」

怪訝そうにソヌヌが言い捨てると

目を鬱ぐンキキ以外は全員ウンウンと大きく頷く。

東方饂飩を食べた事はないが、乗せて良い卵は二個までと決まっているらしい。


「どれが良いのかしら?」

小首を傾げてあれこれ考えた末にルルンミルカが選んだのは

目を鬱ぐ従者と言うより奴隷気質が抜けないンキキだった。

ソヌヌがわざわざ推したからと言う訳ではない。

むしろ直感に従ったと言う方が正しいだろう。

理由は単純でもある。何時かは食べて見たい東方饂飩に蛇卵を三つ乗せて

みたいからだ。

その時に隣にいるであろう従者に「それは邪道です。饂飩に卵は二個までです」と

怒られなくないからだ。

ただ、それだけの理由で目を布で鬱ぐンキキとを自分の従者とした。


「お達者でぇ〜〜〜。ちゃんとご飯食べるですよぉぉぉ」

「中々、良い尻だったぞぉ〜〜。堪能したぞぉ〜〜〜」

「何もしないし出来ないと思うけど。とりあえず頑張るが良い。ンキキ」

「夜伽で欲求不満になるからって情夫買い漁ちゃだめですよぉぉ〜〜」

口々に好き勝手な事をわざと大きな声を上げて見送る

堕鞭の奴隷商人ソヌヌ達の見送りに

「だっ。誰が情夫を買い漁るって言うんですか。買い漁るって・・。

そ、それてでも皆さんありがとうですぅ〜〜。ご飯美味しかったですぅ〜〜〜。」

怒声を返しつつも名残を残し礼の言葉をルルンミルカは声を張り上げる。

その横で旅礼服を着込んだ眼を鬱いだンキキが不満を漏らす。

「この鍋・・重い・・・下ろして良い?」

と本気で鞄に括られた臣上げの鉄鍋を引きはがそうとする。


「あんた、本当に何も出来ないのね。」

塩海を渡る船着き場でルルンミルカがブツクサと文句を言う。

「そんな事言ったって。僕鈍くさいし・・・面倒臭いの嫌いだし。」

下を向いていじけるンキキ。

元よりンキキは目が見えない。周りの物に手で触るか、口の中で舌撃ちをし

その反射音を頼りに周りの物を感じ取る。だからどうしても一呼吸遅れて動く。

うっかりしてると足下にころがった石にも躓く。


「大人二人で、二等船室。お付きの世話は可愛い子系で。」

堅強な者が多い港街の船着き場では比較的痩せた切符売り場の係員から船札を

受け取る。

「ホラ、行くわよ。こっちだってばぁ〜。ほらほらぁ〜」

港の喧騒なざわめきに舌内では状況がつかめ

逆方向に歩き出そうとするンキキの腕を引っ張る。

それでもまだつたない動きで何とかやっとルルンミルカの後ろを歩き出すンキキ。


ルルンミルカは二度目となる塩海渡りだが、元奴隷のンキキには初めてある。

眼も見えないし喧騒過ぎる港では困惑してしまうのもしょうが無いだろう。

案内人に指刺され示された船に足を運ぶ。


塩海。

細かい粒の塩が水のように弛み満ちる海。

白く輝く塩の海を渡る商船を使いルルンミルカ達は邪教が蔓延る彼の国へと向かう。

地図の上でそれを探せば同じ大陸の上の方にある。今の港は下側にあり船を使っても十日前後の時間は掛かる。

もっとも風と塩波が船を運んでくれるのでゆっくりと船旅を楽しむ事が出来る。

一寸した骨休みと言っても良いだろう。


「九狐の尾の七番・・・八・・・九番部屋とっ。此処だね。此処。ンキキ。

そこは十二番でしょ。こっちこっち。」

検討違いの扉のまで立っている従者の手を引き割り当てられた客室の扉をあける。

二等船室はそこそこ広い。寝台も二つ。

洗面台は一つだが一様それらしい装飾も着いている。

ンキキは部屋の隅に少し大きな荷物鞄をドサリと落とすとその横に膝を抱えて

座り込む。

どうやらそこが定位置とい決めたらしい。

「寝台も在るんだし、そこに座れば良いのに変わった子よねぇ〜。

いつも隅っこだし」

初めて会った時から数日経つがンキキはいつもそうだった。

主人ルルンミルカの側にはいるが、野宿天幕でも街宿でも出来るだけ隅っこの場所に

居場所を決めるとそこに座って過ごす。寝るときもそのまま布に包まるだけだ。

習慣と言えばそうなのだろうが、染みついた奴隷気質でもあるのだろう。

「役に立ちそうもないだけど。大丈夫なのかしら?」

確かに自分で選んだ従者であるがその反面、やっぱり心配でもあった。


塩海の港風には当然細かな塩粒が交じる。

どうせ、長い船旅に揺られる訳だし、部屋着に着替える。

上着を脱ぎ下着も半分脱ぎ去った所で、ガランと客室の扉が勝手に開く。


「本日は、愛と勇気とやっぱりお小遣いは大事です号にご乗船頂いて有り難う

ございます。

おお、これは中々大きなお尻と手頃なお胸で御座いますな。お客様

当二等船室付の客室係。ドンペルンプルンプリと申します。

まずは、最初のご挨拶変わりに塩海特産の飛鮹の塩和え焼きです。

ちなみにすごくしょっぱいです。塩海特産ですから。」

ムフフと含み笑いを隠さない客室係ドンペルンプルンプリに意表を

突かれたルルンミルカは固まる。

従者のンキキは盲目だからと勢いに任せて脱ぎ捨てたところに

指定した可愛い子系とは真っ向反対の太ったおっさんが扉の向こうに突っ立てる。


「ちょっと、行き成り失礼でしょ。鍵もあるのに。

それに大体、可愛い子をお願いしたのに。バリバリのスケベオヤジじゃない。

どの辺が可愛いって言うのよ」慌てて掛け布を胸に当て本気で睨む。


「この辺です。ちゃんと可愛い系ですよ。」

眼を丸くしてにやりと笑うとえくぼが出来る。

そこを太い指で差してひょうきんな顔で微笑む。

「無理に微笑んでるだけじゃない。それに手頃な大きさって何よ。手頃って」

「こんなに可愛いえくぼなのに。お客さんの美的感覚はずれておりますな。

まぁ、それは兎も角、差し入れで御座います。

旅の道中は私がお世話させて頂きますので、よろしくお願いしますです。

それと愛と勇気とやっぱりお小遣いは大事です号のしおりはちゃんと

読んで下さいね。

遠足のしおりは大事ですからね。あと海賊が出るかも知れませんので淑女の方は

お気をつけを。

あっ。手頃なサイズのお客様は大丈夫ですね。うんうん。では失礼」

言うべき事と言いたいことを言うだけ言うと大きな腹を揺らして客室係

ドンペルンプルンプリは姿を消す。

「ルルンミルカ。怒ると目尻に皺ふえるよ?それに美味しいよ。これ」

寝室の隅でいつの間にか受け取った塩海特産飛鮹の塩和え焼きを突き

食べながらンキキが笑う。


「ちょっとなによ。皺が増えるとか。お手頃サイズとか。

アンタもあのえくぼのオジサンも纏めて燃やしてやるからね。

まったく、可憐な淑女を捕まえてなんて言い草なのかしら。燃やして灰を塩海に巻き散らしてやる」

それは困ると胡麻をするようにンキキが差し出した飛鮹の塩和え焼きは既に半分以上が無くなっていた。



Guest character from THE COULROPHOBIA 

「跳菟の奴隷商人は邪心に悪戯されて葡萄を喉に詰まらせ清楚な

メイドが背を張り倒す」

奴隷商人 跳菟族兎ソヌヌ・アイゼンホイミゾーヌとその奴隷達


to be continue…..

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紅き瞳の燄使いが罪にまみれて霆燄を墜とせば善絲使いが熱いからちょっと待ってと愚痴を吐く 一黙噛鯣 @tenkyou-hinato

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