第34話
四月十四日(日曜日)
部屋でスマホで新たな盗聴器やこれから立花を独占するために必要なものを選んでいるところに来訪者が訪れた。俺は息を呑んだ。モニター越しにいたのは、立花だった。
俺はドアを開いて立花を見つめた。
「突然来ちゃってごめんね。一昨日、私が一方的に言っちゃって……申し訳なかったなって思って……ちゃんと謝りたくて」
「そのことか? 気にするようなことじゃないし。不良なのは当たっているから」
立花に外で話そうと言われたが、そんなことをしてはもったいない。俺は心の中で舌なめずりをしながら部屋へと促すと立花は俺の部屋に遠慮がちに上がった。これがもし他の男だったら即、襲われているだろう。無防備すぎる。俺はこのまま監禁したくなるのを死にそうになるほど我慢した。
リビングに座って、俺の一人暮らしの経緯を話すと立花は目を丸くして驚きながら聞いていた。それから突然、変なことを言い始めた。
「どうして……。どうしてそんなに辛いものを背負っているの?」
「は?」
意味が分からない。
「何か背負っているように視えるのは……どうしてかな?」
俺は驚いた。立花には、俺には見えない何かが見えているのだろうか? これまで俺ではなくて俺の後ろばかり見ていたのは何かが視えていたからなのか?
とは言え、正面に座っている立花を見ていると理性が吹っ飛んで行きそうなので俺はベランダに出て煙草を一本吸った。
「俺のこと、立花に関係ないだろ」
そう、俺に立花の事は関係があるが立花には俺のことを気にする義理は無いし、なんの関係もない。そこに座って従順に言うことを聞く愛玩人形のような存在でいてほしい。
二人きりで過ごす時間はこんなにも幸せだとは。俺は立花のことを狂おしく愛していると改めて気付いた。俺のものにしてしまいたい。俺をその目に宿してほしい。立花が家に来た意図はよくわからなかったものの、こんな男を気に掛けて来たなんてどれだけ無防備なんだろう。家に返したくなったが、今は信頼を勝ち取らなければいけない。立花の帰り際、俺は改めて忠告した。
「じゃあな。あとな、これからは不用意に男の家には上がるなよ。これは、絶対だ」
ドアを閉めるなり俺は脱力した。この家に立花が来た甘美な喜び。これなら、誘えば二度目も来てくれるだろう。俺はすぐに盗聴器の他にももっと願望を満たすために手錠や鎖などの拘束に使えるようなものを探しに家を出た。
四月十五日(月曜日)
朝練の部活中に女子更衣室に侵入し、鞄に盗聴器を忍ばせた。鞄の外側の小さなポケット内に取り付ける。このポケットは見た目のために縫い付けられたようなもので、使うことは無いだろう。それからすぐに部活に戻った。
帰宅中、電車に乗るとすぐにスマホを取り出してイヤホンで盗聴器の音声を確認した。暫くザザザ………と不明瞭な音が流れた後に電車の音が聞こえてきた。
『多分……明日は部活中止……。早速明日……よ! 返事……』
『う……。……ちょう……白谷……』
『……彼氏が……! 連絡先……!』
立花と相田の声が耳に飛び込んでくる。頭を殴られたような衝撃を受けた。相田は稔と別れて数日で他の男のことを話しているのか? また立花を巻き込もうとしているのか? 電車内のせいで音が不明瞭だ。あれから稔からは特に連絡はない。きっと、部活が始まって新しい女子でも探しているのだろう。
俺は帰宅すると苛立ちながらベランダに出た。強風のせいで監視カメラの位置がズレてしまっている。監視カメラを直していると、立花が帰宅してリビングに電気が付いた。そのままベランダに向かってくる。慌てて隔て板から身を引いて立っていたが立花は俺に気付いたらしい。声を掛けてきたが俺は苛立っていたので返事はしなかった。
四月十六日(火曜日)
翌日、マンションを出ると前方を立花が歩いていた。あれから盗聴器を聞いていても、相田が何を企んでいるのか分からなかったし直接確認することにした。
「今日放課後予定ある?」
「え? なんで?」
「ちょっと」
「今日は予定あるんだ」
立花の返事で今日男に会いに行くのではないかと胸がざわついた。
「じゃあ、明後日は?」
「明後日? 何の用事?」
「まぁ、ちょっと」
「明後日は何も無いけど……」
昨日までの立花とどこか違う。俺への警戒心を感じた。相田が何か言ったのかもしれない。怒りを感じる。
電車を待ちながらイヤホンを付けて盗聴器の音声を確認すると雑踏にまぎれて相田の声が聞こえてきた。
『三上君はいいの?』
『いいのも何も……三上君は近所なだけだよ』
『よし。じゃあ、放課後を楽しもう!』
相田は立花に付き纏う害虫だ。すぐにでも駆除しなければならない。俺は腹の底から怒りが湧き上がった。
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