第31話
深夜、立花の家とのベランダの隔て板に監視カメラを取り付けた。ベランダとリビングを映した映像を見られる。安物なので映像は鮮明ではなかったがリビングで食事をしたりテレビを見ながら笑ったりベランダで洗濯物を乾している動画の中で立花はとびきり可愛いくて俺は満足した。それに、部屋着で過ごす無防備な姿に俺は興奮した。それは性的な興奮ではなく無防備さを消してしまいたいような、これまでに感じたことのない異常な興奮だった。
監視カメラの映像はスマホで見られるのでデータをアプリで管理して保存した。やっていることがストーカーの様でヤバいとは分かっていたが、背徳感が病みつきになった。盗聴器は立花の部屋に仕掛けたかったがさすがに家に入るチャンスは無いと諦めていた。
だが、チャンスは突然訪れた。
春休みの平日の朝、彼女の両親は仕事で、彼女は洗濯物を乾したあとゴミ出しに家を出た。その時、リビングの窓が開いていたのだ。俺はベランダの手すりから身を乗り出して隣の部屋に移り侵入した。初めて入る立花の家はいい香りがした。リビングはきれいに片付けられていて、壁には立花の七五三の写真が飾られている。絵にかいたような理想の家族であることが伺えた。
リビングを出て廊下に出ると立花の部屋はすぐにわかった。白を基調とした部屋で、白いベッドに熊のぬいぐるみが置かれている。俺は布団に顔を一瞬だけうずめて思い切り息を吸い込んだ。このままだと立花が帰宅してしまうので、名残惜しさを感じながらベッドから離れて部屋を見回した。
取り付けるのはコンセントの中など分かりにくい場所にしたかったがこの短時間では到底不可能だ。そこで机の裏側に手を伸ばした。盗聴器は強力な両面テープを付けてきたのでしっかりと張り付いた。机は昔ながらの大きなタイプのものなので、裏を見るなんて滅多にないだろう。俺はすぐにベランダに戻り手すりから家に戻った。緊張で汗だくになったし、手すりを乗り越えるなんて危険だったがその価値はあった。それから、すぐに立花が玄関のドアを開けて戻ってきた音が聞こえた。俺は高揚感に包まれながらリビングに戻ると盗聴器の音声を確認した。部屋では音楽が流れていて、それに合わせて立花は歌っている。
(なんて……可愛い声なんだ)
俺は、一日中盗聴器から聞こえる声を聞いて妄想し、監視カメラの映像に映る立花を見て楽しんだ。妄想の世界で立花の存在はどんどん膨らみ、立花の持つ独特のオーラや存在感が俺の中でどんどん増した。盗聴器と監視カメラは俺を狂わせるには充分だった。まるで一緒に生活しているかのようで現実と妄想の境目を消してしまった。
立花には打算的なところなど無く、素直で可愛い。触れて、抱きしめて俺のものにしたいと願う。誰にも立花を見せたくないし、声を聞かせたくないし、触れさせたくない。体だけでなく気持ちさえも支配したいとその思いは日増しに強くなり胸が痛んだ。立花を想うほどに涙が出た。恋焦された。そして、立花のまわりにいる人を羨み、妬み、嫉妬した。そんな思いを発散させるためにも俺はバイトやランニングにも打ち込んだ。一人でいたらどうにかなってしまいそうだった。
入学式の日、立花がリビングで制服姿を披露している所を監視カメラで最初に見ることが出来た。スカートを膝丈で履いて、くるくる回り嬉しそうに両親に見せている。あまりの可愛さに俺は脳天が痺れそうだった。登校すると、偶然にも立花と相田桜と同じクラスだった。入学式中も教室でも平静を装いながら、立花を見つめた。彼女は俺の方を振り返らない。こんなに近くで見られて幸せだが、監視カメラと盗聴器の中の立花は俺だけのものだが、学校ではいつ誰が立花に手を出すかわからないと思うと途端に怖くなった。立花を独り占めしたい気持ちが一秒ごとに膨らみ上がった。
翌日の自己紹介の時、立花が俺を見つめていた。驚きのあまり思わずそっぽを向いたが異様に視線を感じた。立花が俺を知った瞬間を見られたことが嬉しい。言葉にするとその一言だが、俺の心は弾み浮足立つ程だった。
下校前に俺は職員室に寄って陸上部の入部届を提出に行った。もともと陸上部を続ける予定だったがさっき立花が陸上部を続けると話しているのを聞いて安堵した。
帰り道は立花をわざと追い越して進んだ。やっぱり立花は俺を見ている。後ろから二人の会話が聞こえた。
「三上君」
なんと、立花が俺の名前を呼んでくれた。だが、次の瞬間、相田の言葉に俺は突き落とされた。
「藍は背が高いイケメンが好きだもんね。三上君は私達とさほど身長変わらなそう……」
「桜ぁ! もう!」
そうなのか? やっぱり立花も外見で選ぶのか?
だが、ガッカリはしなかった。そういう奴に惑わされる前に俺が助けてあげれば良い。電車でスマホの電元を入れるとフォルダを開いた。監視カメラの保存した映像が大量に表示される。イヤホンも付けて盗聴器に仕掛けた立花の歌声も聞いた。
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