10話.[見えてしまった]
「あ、お邪魔してます」
「ええ、ゆっくりしていってちょうだい」
久しぶりに佐島君が家に来ていた。
でも、太郎は全く気にした様子もなく床に転んでいるだけ。
本当にたまにしか来ないからこその対応かもしれない。
いつも一緒にいてくれるのならともかくとして、そうではないなら気持ち良く対応できるときばかりではないということかもしれない。
「なんで中籐と過ごさないんだよ」
「い、いいだろ、それに俺は健太郎の友達なんだから」
「友達ねえ、その割には一ヶ月に一度来ればいいぐらいだけどな」
「それは言いすぎだ」
「まあいいや、ゆっくりしていけよ」
どうせならふたりで来ればよかったと思う。
寧ろひとりで来るよりも自然なような感じがした。
それに太郎のあの発言は佐島君達のことを考えてでもあるからだ。
「佐島君、中籐さんを呼んだらどうかしら」
「え、あー、多分大丈夫だと思いますけど……」
「その方が太郎も対応しやすいと思うわ」
空気が読めていないことは確かだからリビングから出た。
部屋に戻ってベッドに転んでいたら「姉貴、入るぞ」と太郎が来てしまった。
「佐島君は?」
「いま電話中だな」
「ごめんなさい、余計なことを言ったわよね」
「いや、俺としても中籐と過ごせた方がいいと思っていたからな」
久実がいたらまた違った結果になっていたんだろうけれど、残念ながら今日は冬休みということで遊びにいってしまっていた。
静かすぎる空間というのはあれから少し苦手になってしまっているから変なことを言ってしまったのだ。
「姉貴、風邪を引くなよ」
「いきなりどうして?」
「久実に対しても同じだけど弱っているところを見たくないからだよ、それに話せなくなるからな」
「大丈夫よ、そういうことに関しては強いから」
「そうか、あ、下に行こうぜ」
結局、数分もしない内に戻ることになってしまった……。
弟がこう言ってくれているからと残ってしまうのはいいのか分からない。
少なくとも弟の友達としてはどうしているのかと気になってしまうだろう。
「あ、お姉さん!」
「こんにちは」
「こんにちは! 山本と仲直りできたんですね」
「仲直り……? 喧嘩はしていないけれど……」
「え、山本が喧嘩をしてしまったって言ってましたけど……」
太郎の方を見てみたら「ほら、なんであなたはそうなのと言って先に帰った日があっただろ?」と言ってきた。
……私としては変わらない太郎を前に揺れてしまっただけだけれど、太郎からしたらそういう風に見えてしまったらしい。
「そういうのじゃないわよ」
「そうですか、とりあえずお姉さん次第で山本の調子も変わるので喧嘩とかじゃなくてよかったです」
「健太郎は結局寂しがり屋だからな」
「そうだよ、誰かといられないと嫌なんだ」
「学校では私達が支えて、家ではお姉さんが支えてくれるからいいよね」
支えられるわけでもなく、寧ろこっちが支えられているぐらいだった。
それでも今度こそ変なことは言わずに黙っておいた。
89作品目 Nora_ @rianora_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます