09話.[この話も終わり]

「お兄ちゃん最低」


 帰ってきたと思ったら急にそんなことをぶつけてきた。

 これまではなるべく久実の方が一緒の空間にいないようにしていたぐらいだから、こうして話しかけてきた時点でよくなっているのかもしれないが……。


「……なんで話してくれなかったの」

「風邪を引く日の前日のことだろ? 正直、姉貴と微妙だったんだよ」

「その後もかくれてた」

「違う、風邪を移したくなかったんだ」


 で、謝ろうにも完全に避けられていたから不可能だったということになる。

 また、仮に謝罪をすることができたとしても久実は聞いてくれなかっただろう。

 だからもうそういうもんだと、いつかは兄離れするんだと、それがいまだったんだと片付けることしかできなかったことになる。


「すごく傷ついたんだから」


 姉貴がいてくれてよかった。

 もしいない状態でこんなことになっていたら大変なことになっていたから。

 まあ、いなかったらそもそも顔を合わせなかったり、完全に遠ざけることだって不可能だったわけだから変わっていたかもしれないが、それでも姉がいないという状態ではなかったんだから意味はない話だった。


「本当か? その割には姉貴とかと盛り上がっていたけど」

「茶化さないで」

「俺としてはあのままでもよかったぞ、いい影響は与えられないからな」


 久実が中学生や高校生になっても仲良くできているとは思えなかった。

 どうせいつかそうなるならダメージの総量が多くない内に終わらせておいた方がいいと考えてしまうのは、俺のメンタルが弱いからなのかねえ。

 俺の理想としている『仲は良くなくてもいいから無難にやる』というそれからはズレてしまっているが、強いわけではないから上手くやることができないんだ。


「事実、ここ最近はあんまり関わっていなかったけど影響を受けなかっただろ?」

「……がまんしていただけだよ」

「ちゃんと我慢もできて久実は偉いな、お兄ちゃんとは大違いだ」


 我慢できているとはとてもじゃないが言うことができない。

 男で高校生なのに恥ずかしい話としか言えない。

 だが、久実は小学生の時点でしっかりしているから両親も嬉しいことだろう。

 ほとんど長女と同じルートを辿っているということになるんだから尚更だ。


「久実、俺みたいになるなよ」

「なれないよ、男の子じゃないもん」

「はははっ、もっともだ」


 よし、これでこの話も終わりだ。

 なんだろうな……あ、反面教師的な感じでいい。

 とにかく久実らしく、そして俺みたいにならないよう過ごしてくれればいい。

 なにか困ったら姉とか両親とかに頼ってほしい。

 まあ、いちいち言うのは違うから言うことはしなかったが。

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