五 ぼくらのラブソング

 あのふたりと別れてから、たぬちゃんはなんだかソワソワしていた。


 たまーにぼくのほうを見ては、にやにやしたり口をとんがらせたりといそがしい。


「どうしたの、たぬちゃん」


「ねね、あれってあたしたちの歌だよね」


「やっぱりたぬちゃんもそう思う?」


 たぬちゃんの顔が、ぱっと輝いた。


「うたってみる?」


「いいけど、たぬちゃんは緑でいいの?」


 赤がいいっていってたじゃない。


 首をかしげるぼくに、たぬちゃんは幸せそうにはにかんだ。


「あたしの好きな赤が、あたしのだーいすきなアンタの色なら、なーんにもいうことないさね」


「たぬちゃん……」


 ぼくたちは、お互い前足をのばしてぎゅっとつなぎあった。


 二匹で、真っ赤な夕日に照らされた森に向かって歩き出す。


「あーかいきつねとっ♪」


 たぬちゃんがうたい出す。

 

「みどりのたぬちゃん♪」


 ぼくも続く。


「やだ、おきつねさんったら。歌詞がちがうよ」


「ごめんごめん。じゃ、もっかいうたおうよ」


 ぼくたちは笑い合いながら、声がかれるまでうたっていた。


 それは、ぼくたちの特別なラブソング。



<おしまい>

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ぼくらの特別なラブソング かみにわ @kakuIvuki

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