緊急記録! すっ飛ばして~最終話(?)

 2022年12月30日23時30分。


 13人目の人格『あき』が、

「もうこっちのおうちには来ない。ずっとお家で一人で居る」

 と、泣きながら帰って行きました。


 彼女たちが「もう来ない」と宣言すると、本当にもう2度と僕の前には現れ無くなるので、これは別人格の顕現が終わったと言う事なのだろうか?




 2022年初頭から、今年で13歳になる猫のショコラが腎臓病になり、病院通いが始まった。


 ほとんど全ての猫が生まれながらにして腎臓病を持っていて、その内腎臓病を発症する猫は約1/4。

 実に4頭に1頭は腎臓病になる計算だ。


 うちの子も1/4の腎機能を失っていて、これからは療養食しか食べられない。


 そんな訳で家庭での投薬と点滴が始まった。


『点滴は医療行為であり、免許の無い一般人が行う事はできないのでは?』


 と思われるかも知れませんが、動物の点滴に関しては、動物病院の先生が許可をして、飼い主が直接行う場合のみ許されています。


 腎臓の機能が落ちるとオシッコの処理ができなくなり、毒素が身体中に回ってしまう。

 だから皮膚と肉体の間に針を刺して、点滴によって身体の中に補液をする必要がある。


 猫は首の後ろ辺りを摘んで持ち上げるシーンをよく見ると思いますが、あの部分には神経が通っておらず、彼ら・彼女らは痛みを感じない部分なんです。

 だから親猫も子供を運ぶ時に、首根っこのあの部分を咥えて運びます。そんなシーンをテレビなどで観たことありますよね?


 ですから針はその部分に刺します。


 ショコラの皮を摘んで引っ張りあげ、身体との間に十分な距離を稼いで、そこに針を刺す。

 針が皮を刺す瞬間は痛いのですが、刺してしまえば痛く無いんです。


 それでもやはり痛がりますから、僕が暴れない様にショコラの身体を押さえ付け、亜希子あきこが針を刺す。


 亜希子では力が弱いから、痛くて身体をよじるショコラの力に負けてしまう。

 ショコラが身体を捩った拍子に、針が肉体を傷付けてしまってはいけないので、押さえ付ける役目は僕。

 針を刺す役目は亜希子だ。


 毎日100ミリリットルの点滴を行う。

 毎日亜希子は泣きながらショコラ我が子に針を刺す。


 ショコラはクスリを『飲まない技術』が大変高い。

 錠剤は口に入れても入れてもぴゅ〜っと飛んで帰ってくるし、クスリを口に入れた後シリンジ(針の無い注射器の)で水を多目に流し込んでゴックンゴックン飲ませ、『これなら飲んだだろう』と解放してあげると、まるで道端にツバを吐き捨てる様に『ぺっ』とクスリを床に吐き捨てる。

『え? イリュージョン?』

 って夫婦でびっくりする。


「わーっ。家の子手品出来るんだ。かしこーい!」って、バカ!


 などとやっているから点滴と投薬で軽く1時間は掛かる。




 妻の人はだいたい10時・11時からソファで寝てしまい、寝ると『13番目のあき』が起き上がる。


 彼女はお菓子(とにかく甘いお菓子じゃないとダメ)を要求する。


 数ヶ月前までは週に3回くらい出て来ていたあきだが、最近はほぼ毎日だ。

 困るのはお菓子代。


 あきの存在は僕しか知らないので、彼女のお菓子代は家のお金が使えない。


 僕が買って隠しておくしかない。僕の少ない小遣いはほぼあきのお菓子代に取られてしまうのだ(悲)。


 それはさて置き、あきがこっちに来ると向こうに帰るまでに2~3時間掛かる。


 普段から風呂に1時間半、髪を乾かしたりお肌の手入れに1時間掛かるので、その間に猫のトイレ掃除(トイレは5ヶ所ある)、食器洗い、ベッドメイク、2階の掃除機掛けを毎日夜中1時2時にやっているから、毎日寝るのは朝3時。

 起きるのは6時半。


 正直3時間睡眠はギリだったのに・・・。


 この時点で家に帰ってきてからの自分の時間は無いに近い状態だったのに、11月末からショコラが急にご飯を食べなくなった。


 ショコラは何でも頓着無く食べる子だと思っていたのに、突如として食べ物を受け付け無くなった。


『今食べているカリカリご飯の匂いや味が急に嫌いになったのか?』と思い、『腎臓に配慮した系のカリカリご飯』を求めて、たくさんのペットショップを回ったり、ネットで色々な種類のご飯を買いまくった。

 ちなみにショコラは生などのウエット系のご飯は全く食べないから、カリカリしか眼中にない。


 どれもちょっと食べてはすぐに食べるのをめてしまう。


『猫は人間の約4倍の時間を生きる』と言われている。

 人間が1日を過ごすと、猫は4日を過ごした事になる。


 つまり、『ショコラが1日食べなかった』と言う事を人間時間に置き換えると、『ショコラが4日食べなかった』とイコールなのだ。


 食べる事は生きる事。


 このままではショコラが死んでしまう。


 そこで動物病院の先生の指示のもと、『強制給餌きょうせいきゅうじ』が始まった。


 病院から療養食の缶詰め【a/d】【NF】(猫話しでは無いので細かい説明は省きます)を買い、カリカリご飯を粉砕機で粉々にして、【キャットミルク】も混ぜて、全部で100キロカロリー以上を目指す。


 ショコラの体重から計算して1日に必要なカロリーは、100キロカロリー。


 それ以下では体重が減っていくので、100キロカロリー以上でなければならない。


 水を加えてドロドロになったご飯を、大き目のシリンジに入れて、口に突っ込んでいく。


 だいたいシリンジで7本分くらい、ショコラを抱え込んで食べさせていく。


 これがご飯を作るところから1時間以上掛かるので、寝るのは朝4時。

 睡眠時間は2時間半になった。


 (亜希子は仕事が週2なので、仕事じゃない日はもっと寝ています)


 ちょっとズレると朝5時になっていて、僕も亜希子もフラフラだった。




 そんな状態が1ヶ月続いた12月30日。


 強制給餌・点滴が終わって、リビングでぐったりと仮眠状態になっている亜希子とショコラと僕。


 みんなうたた寝をしていた23時30分。


「ママ? ママ?」


 あきだ。『13番目のあき』がこっちにやって来た。

 声に反応して僕が目を覚ます。


「ママ何処?」


 彼女が言うところの『ママ』は僕の事だ。


 ちなみに『パパ』と呼ぶのは『12番目のあき』だ。


 蓄積した疲労と寝不足がたたって、何だか頭が痛い上に身体中痛い。


「ママ何処?」

 まだ目を瞑ったままソファで寝ているあきが、両手を持ち上げて何かを探すように宙を漂わせる。


 僕はあきの呼び声に応えて、よろよろとソファまで歩いていく。

 いつものルーティンだ。


「ママ居るよ」

 フラフラと漂う両の手を掴む。


「ママ? ママお仕事終わった?」


「お仕事終わったよ」


「お腹空いた。ママ、ケーキある?」


 仕事の年末進行と毎日のあきのお菓子代で、体も財布もボロボロの僕にはケーキどころかお菓子も買えない状態だ。

「ごめんね。今日はケーキ無いんだ」


「プリンある? お菓子ある? 白いふわふわある?」


 矢継ぎ早に言ってくるが、何一つ応えてあげることが出来ない。


「ごめんね。今日は何にも無いんだ。堪忍して」


「嫌だ! お腹空いた! 何か食べる!」


 現実はついさっき亜希子が夕食とケーキを食べたばかりなので、彼女の体が『お腹が空いた』状態にある訳は無いのだ。


 しかしあきとしては、『毎日来ているのにいつもご飯を食べたことは無いし、ケーキやお菓子も無いなんて・・・』と言う感情なのだろう。


 そしてこの日は僕の身体も悲鳴をあげていて、ソファまで行ったは良いが、立て膝でソファの横に立ってあきの背中をトントンする事が、30秒くらいしか持たなかった。


 トントンするには腕を持ち上げ続けなければならないので、けっこう辛いのだ。


 身体もしんどかったのでソファの横で横になった。


 それがいけなかった。


「わたしずっと良い子にしてるのに、何でお菓子無いの? お腹空いたぁ。ショコラも一緒に寝てくれないし、ママも暗くならないと来ない!」

 言いながら彼女の感情が爆発的に膨れ上がり、最後の方では泣き始めてしまった。


 ショコラはソファのすぐ横に置いてあるベッドで寝ているのだが、抱っこが嫌い。

 しかし気まぐれで、あきの腕を枕にして添い寝をしてくれる事もある。

 でも基本的には、連れて来ても直ぐに逃げてしまう。


「ショコラ連れて来るからちょっと待って」


「嫌だ。ショコラすぐ出て行っちゃうもん。来なくていい!」

 ショコラを無理やり連れて来て添い寝をさせても、大概は直ぐに出て行ってしまう。逃げられると精神的ダメージは倍だ。


「ごめんね。許して。甘い物何も無いんだ。抱っこするよ」

 実際には29日に買って隠しておいた『プッチンプリン』があったのだが、疲れて忘れていた。

 この時点で思い出していれば、こんなお別れにはならなかったかもしれない。


「イヤァァ! もうおうち帰るぅ」

 あきは大泣きで、感情はどんどん膨れ上がって来て止められない様だ。


「あきのおうちはココだよ? あきとショコラとママだけのお家だよ?」


「違うぅ。もう一つのお家ぃ。もうこっちのお家来ないぃぃ」


 もう一つのお家とは、亜希子の頭の中にある別次元のお家のことだ。


 僕は頑張って起き上がり、ソファで上半身を起こして大泣きしているあきの背中を摩るくらいしかできない。


「もうショコラ触らなくていから。もうお家でずっと一人で居るから」

 彼女は泣きじゃくりながら続ける。

『 もうずっと一人で居るから。もうこっちのお家には来ないから。もうずっとお家で一人でいからぁぁぁ』


 僕はもう何もできない。ただ事の成り行きを見守っているだけだ。


「もうこっちのお家には来ないから。もう帰るぅぅ」


 帰ると言ってもこんなに興奮していたら人格交代はできないのではないか?

 疑問がよぎる。


 ここであきはバタンとソファに横になった。


「もう帰る。迎えに来てぇぇ」

 ソファに横になったが、やはり興奮が収まらず涙と感情の爆発が止まらない。


 そんな状態で本当に帰れるのだろうか?

 迎えに来るって、お姉さんみたいな人が出て来るのだろうか?


「もうずっと一人で居るから。迎えに来て。迎えに来て」


 だんだんと声が弱くなり、ふと見ると、あれだけ泣き叫んでいたのに、もう寝ていた。

 誰かがお迎えに来て、あきを連れて行ったらしい。

 たぶん迎えに来たのは、全ての人格を統括している人格ではないかと思う。


 それ以来あきは出てきてはいない。


 それ以来亜希子が寝ていても、起こした時に亜希子のまま起きる。


 それ以来お菓子は買わなくて良くなった。

 もうお菓子を買わなくて良くなったかと思うと、何だか寂しい気もする。



 彼女はもう来ない。




 2023年1月4日22時10分


 亜希子がソファで寝ている時、

「痛い痛い痛い」

 身体の何処かが痛くて呻き始めた。

 よくあることだ。


 僕は洗い物の手を止めてソファに近寄る。

「どうしたの? 何処が痛いの?」


 亜希子は足を摩る。


「足が痛いの? 今摩るよ」


 亜希子の足を摩り始める。


「sdgれ)%*-=+4-・・・だれ? おいしゃさん?」


「違うよ」


 一瞬別人格が現れた。

 14番目か?


 やはり解離性同一性障害はまだ終わった訳では無いらしい。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

人格の整理


主人格:亜希子


サブ人格:

1.全ての記憶の統合者(出てくることは無い)

2.優希(小学生高学年およそ12歳くらい)

3.お姉さん(25~29歳?)

4.恨みの塊の男(ブツブツ言っている)

5.恨みの塊の男(外に出て行った)

6.パンの娘

7.赤ちゃん

8.扉の悪夢(外には出てこない)人格(?)

9.あきA(およそ8歳くらい)(優希の廉価版?)

10. 『あきAのお姉さん』(優希のお姉さんの廉価版?)

11. ガヤ?(外には出てこない)何人か居る様だ。あまり良い事は言わない。

12. あきB(およそ6歳くらい)(パパと呼ぶ)

13. あきC(およそ3歳くらい)(ママと呼ぶ)

&?


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉

【じょえ】です。


いつもお読みくださってありがとうございます。


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観察日記『妻と13人の別人格との共同生活』

https://kakuyomu.jp/works/16816700428966142110



他にはこんなお話しを書いています。


良かったら覗いて見てください。


ちょっと留置場に入ってきた。

https://kakuyomu.jp/works/16817330649739372982


「魔王軍VSスパロボ&スーパーヒーロー’S ~魔界から魔王軍50万が東京に攻めてきた件~」

https://kakuyomu.jp/works/16816700427028791174



 応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。


 誠にありがとうございます。


 感謝しております。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

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観察日記『妻と13人の別人格との共同生活』 じょえ @aio16

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