第7話「新しい人格【あき】」

 『優希ゆきとお姉さんが居なくなった』と『乖離性同一性障害かいりせいどういつせいしょうがいが治った』は、同意語では無い。


 優希とお姉さんがお別れをしてから、僕もひょっとしたらお姉さんと一緒にみんな引っ込んだのだろうか?とも思った。


 が、実際には幾人も出てきた内の二人が、二人分の記憶を亜希子に返して引っ込んだ。

 と言うだけだった。


 でも、亜希子はそうは思。

 記憶の統合と言う珍しい体験をしたので、もう別人格は居なくなったんだと、そう信じている。


 例え解離性同一性障害の症状が無くなったのだとしても、『うつ』が無くなった訳では無いので、毎晩些細なことで喧嘩が絶えない。


 この頃はよく床に正座させられて、朝4時まで説教をされていた。


 彼女は同じ事をグルグルグルグル繰り返し深夜遅くまで怒るので、正座しながらガックンガックン寝ると、

「寝るなぁァ」と、

 また更にヒートアップするし。


 いや、寝るだろう!

 君は昼前までたっぷり寝られるけど、僕は2時間後には起きて朝ご飯の用意して、仕事に行かなきゃいけないんだ。

 それを3日に1回ペースで食らうのだ。


 本気で「殺す気か?」って思ったさ。


 この『朝まで説教』問題はこの頃知り合って、今でも仲良しのSちゃんが、

「4時まで叱るのはめてあげて」

 と亜希子に注意してくれたから、それは無くなった。


 ちなみにSちゃんは『保護猫活動』を通じて知り合った、パニック障害の精神疾患仲間だ。


 二人して性格そっくりだから意気投合しちゃって、彼女も一生懸命に生きている良いお友達です。


 Sちゃんも寛解はしていますが、未だに自宅から徒歩15分の会社に、片道一時間かけて頑張って仕事に通っています。

 素晴らしい人です。


「もう自分を責めるのはめよう」って、亜希子にはちょくちょく言います。


 亜希子だけじゃなくて、Sちゃんも含めて、精神疾患の人には、自分自身を許してあげて欲しいです。

 もし今の状態が何かの罪で、罰を受けているのだとしたら、彼女たちはもう十二分に罪は償っています。

 自分自身を許して、自分を甘やかせてください。


 かく言う僕もこっち寄りな人なので、あまり人の事は言えませんが、頭では理解していても、それができないのがこの系統の人たちなんですよね。


 頭に住み着いた躾に厳しい親(毒親)などが、繰り返し繰り返し自分を責め続ける。


 この系統の病気になって、無理くりフルパワーで活動していた『理想のカッケー過去の自分』と、『何も出来なくなってしまった無様な現在の自分』の、断崖から突き落とされた様な落差に、現実を受け入れられない人が多い。


 その現実を受け止めて、自分を認めてあげて、自分を甘やかしてあげる。


 でも人は『無様な自分』を認める事が、なかなかできない。

『昔はもっとできていたのに!』

『こんな簡単な事も 私はできなくなってしまったの?』って。


『自分を認めてあげる』

 そのたった一言で終わる事を、言うほど簡単に出来たら、世の中にこんなにも患者は居ないよね。




 優希が2ヶ月ほどしたある日、いつもの様に湯船で気を失ってしまった亜希子を、気合いで風呂の中から抱き上げ、転ばないように浴槽を跨ぎ、風呂椅子に座らせて、妻の頭を洗っている時だ。


 ぐったりしていた頭に力が入り、ムクっと首が動いた。


「起きた? 今頭を洗っているよ」


 僕は亜希子が起きたのだと思い、そう話し掛けた。


「おじさん誰? お母さんは?」


 このたどたどしい喋り方、優希が帰ってきたのかと思った。

 『一度記憶を返したから、また最初からなのか?』と思った。


 でもそうじゃ無かった。

 目の前に居るこの子は、優希とは別人格だった。


 優希と同じ様に、亜希子の幼少期をベースに創られたサブ人格なので、かなり似ているが、さらな状態の様だ。


「お母さんはここには居ないんだ。・・・・」


 前に優希に話した話しをもう一度する。

 話していく内に気付いたのだが、どうやらこの子は優希よりも年齢は小さいようだ。

 優希が小学校高学年だったとすると、この子は小学校低学年な気がする。

 そうだとすると、一つ気になることがある。


 亜希子とはよく、昔の話しをした。

 その中で、

 「小学校の頃の記憶があまりない」と言うことと、

 「よく覚えているのは小学校2年生の時の担任の先生が、わたしのことを明らかに贔屓ひいきしていて、誰も居ない放送室で先生のお膝に抱っこされていた」と言う記憶。

 記憶はそこで途切れていて、その後どうなったのか?

 密室で小学校教諭が女子生徒をお膝に抱っこして・・・。


 明らかに性的なモノがあった可能性大。


 人格交代のトリガーの一つが『性的虐待』だからだ。


 その時に生まれた人格なのでは無いか?

 もちろんこんな事は亜希子にも出てきたサブ人格にも聞けない事なので、闇にほうむったままではあるが。

 そんな事実をほじくり返しても百害あって一利無し。本人のトラウマが増えるだけだ。


 この子に名前は無いというので、便宜上【あき】と呼ぶことにした。

 亜希子が起きた時、あきなら間違えて呼んだとしても違和感が無いからだ。


 以後出てくる子供の人格は、皆【あき】だ。



 あきは優希と違って長時間こちらに居ることができないようだ。

 特に自分からそう言っていた訳では無いが、観察上長居は出来なさそうだと勝手に思っている。


 あきと優希の決定的な違いは、あきはよく話しの中に小学校の友達の名前が出てくる。

「小学校の時の記憶があまり無い」と言っている亜希子の話しからして、【あき】との人格交代は、長期間に渡って行われていたのかもしれない。



 最初のあきが出てきている時期、亜希子は減薬の真っ最中の時で、特に幻覚・幻聴・目眩めまい・大量発汗などの異常な状態が酷い時だった。


 その所為せいか、あきは向こうに帰るのを拒む傾向があった。

 どうやらあきの世界は亜希子の体調に影響されているようで、悪夢がベースの世界らしい。

 亜希子がベッドに入って寝てしばらくすると、


「舞斗! 舞斗! 怖い人が殺しに来るよ!」


 寝たと思った亜希子が急に起き上がって、僕をたたき起こす。

 うちはシングルベッドを二つ並べて寝ているので、あきは手を伸ばせば届くところに寝ている。

 

 サブ人格がよく出てくる時間の一つが寝入ねいばななので、僕は寝起きでぼやっとしながら起き、


「どうしたの? 怖い? ここに居れば大丈夫だよ。ここはあきのおうち。ここには僕とあきとショコラしか居ない。他には誰も入って来られないよ」


 いつもの台詞を言って、左腕を下にした横向きになって右手を伸ばし、あきの肩に手を回してトントンを始める。

 そうしてあきを向こうの世界に送り返してから僕も寝る。のが理想だが、僕も寝ぼけ眼なので僕の方が速効寝てしまうことも多い。


 サブ人格の出現で一番困ることは、『この時間に起こして』と言って亜希子が寝るときだ。

 

 亜希子は常に身体のだるさや頭痛やめまいを常時発動させているので、普通に起きているだけで相当体力を消耗してしまう。


「疲れたから1時間休みたい。1時間経ったら起こして」

 と言って寝るのだが、その後直ぐにあきのような子供の人格が出てきて起き上がる確率が高い。妻の身体は休まらない。


 あきが出てきたから、お話しをして、トントンして寝かしつけて、30分くらい待って起こすのだが、やっぱりあきが出てきて、またトントンして・・・・となるので、時間通りに起こせたことが無い。


「あれほど1時間経ったら起こしてって言ったのに!!」

 起きた亜希子がブチ切れる。


 特に最近は週2ではあるが仕事に行くようになったので、起きる時間は決まっている。

 6時半に起こさなければならないのに、起こすとサブ人格が出てきてしまう。

 チョー焦る!


 余裕が見られる時間は6時45分。

 15分の間に寝かしつけて、向こうに帰ってもらって、亜希子に出てきてもらわなければならないのだ。

 寝かしつけた後、

「亜希子! 亜希子!」

 と必死で呼ぶ。


 ここで起きてくれたら良いのだが、あきがまだ帰ってくれていない場合は7時前後になってしまう。不思議とその頃には起きる。


 7時だと朝から喧嘩だ。


「何で起こしてくれなかったの!?」

「いや、起こしたんだけどー

pね・・・」

 全部は言えない。


 言うと怖がるから



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


〈あとがき〉

【じょえ】です。


いつもお読みくださってありがとうございます。


人格の整理


主人格:亜希子


サブ人格:

1.全ての記憶の統合者(出てくることは無い)

2.優希(小学生高学年)

3.お姉さん(25~29歳?)

4.恨みの塊の男(ブツブツ言っている)

5.恨み


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観察日記『妻と13人の別人格との共同生活』

https://kakuyomu.jp/works/16816700428966142110



他にはこんなお話しを書いています。


良かったら覗いて見てください。


ちょっと留置場に入ってきた。

https://kakuyomu.jp/works/16817330649739372982


「魔王軍VSスパロボ&スーパーヒーロー’S ~魔界から魔王軍50万が東京に攻めてきた件~」

https://kakuyomu.jp/works/16816700427028791174



 応援してくださいました方、さらに重ねて御礼申し上げあげます。


 誠にありがとうございます。


 感謝しております。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

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