出会い
妊娠初期の朝は本当に辛い。恐らくこれが“つわり”というのであろう。初めての妊娠で初めての経験だった。個人差があるのは理解しているが、顎の下から首元の肌荒れ。まるで犬になったのかと思うほど嗅覚が敏感になる。さらに胸も張る。トップがブラに触れるのがむずがゆく感じるほど。一番辛いのは、睡魔と孤独感だ。『親や友達・弁護士も誰かに相談するなんて頭おかしい。』昨日彼に言われた言葉が頭に響いていた。ただただ不安で、昨日彼に産みたいと言えなかった事も含め自分自身の不甲斐なさに自己嫌悪に落ちていた。《おはよう。まだ戸惑ってるけど、逃げやんから。》通勤中に送ってきたんだろう。LINEが来ていた。もともと連絡は途切れぎみ3日に一言返ってきたら良い方だ。そんな彼の《逃げない》が信じられるはずもない。デートの約束に当日ドタキャンは当たり前。キャンセル連絡は当日の昼過ぎに連絡が来る。基本は音信不通。マンションの前で2・3時間待たされるのは当たり前。あの日から心療内科に通院して、私を取り戻しつつある今なら遊ばれていたと理解できる。彼は頑なに遊びではない。性欲処理でもセフレでも、性欲だけで私を抱いたわけではないと言い張るが、行動も私への態度も誠実さも気遣いもなかった。
ただね、ベビタン。貴方のパパは、健太郎さんは上辺だけだが優しかった。貴方がママを選んでくれて、ママが孤独に負けてパパを頼ろうとしちゃったからパパはママに優しくなくなった。ごめんね。弱くて。守れなくてごめんね。強く自立してなかった。26歳にもなって大人になった気でいたが子供だったのだ。
私の仕事は社長秘書。社長のスケジュール管理から打ち合わせの資料作成・取引先のメールなど、社用携帯はほぼ24時間何かの連絡がくる。大学進学がきっかけで大阪に来てほぼ10年1人暮らしをしている。仕事も私生活も充実していた。仕事は忙しいが、経営者の方々のお話は学びが多く楽しかった。彼は取引先の営業マンだった。大阪でも1番の優良企業に勤めている。ただ彼が取引先の営業マンだと知ったのは、彼と出会って2回目のデートが終わった次の日、少女漫画かドラマのようだし子供じみているが運命だと思った。出会いは社長の私用車を車検に入庫した時。鮮明に覚えている。社長の左ハンドルi8を私用車の車検になぜ私がと少しだけ不満を持ち、店舗の人に愛人とか変な誤解されないかなとハラハラしながら待っていた。(私服じゃなく、スーツでこればよかった)ディーラーの作業が終わるのをショールームで待っていると、BMW X6白い茶レザーの車が入ってきた。(SUV良いな)とつい目で追ってしまった。『車好きなの?』いきなり声をかけられて驚いた。『うん。好き』(なに言ってんだろ)恥ずかしくなった。それは覚えてる。これが貴方のパパとの出会い。ママはパパに一目ぼれだったの。なんてことない雑談をして、次の日曜日にUSJに行く約束をしたの。初デートでUSJありえないでしょ。二人とも年パスを持っていたの。当日健太郎さんは2時間遅刻した。それでも楽しかった。どんな家庭に憧れ築きたいか、はしゃいでたくさん話してとても幸せだった。ベビタン貴方は私とパパの愛の結晶で奇跡。私の人生26年間で初めての何にも代えられない宝物。貴方に直接言いたかった、今も愛してる。出来る事なら、あの日に戻りたい。2021年11月9日。
貴方を失ったあの日に。
愛してると言えなかった君へ りな @r1110kb
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