251話目 幼馴染好きで百合好きな僕でも恋をする

 目を瞑って布団に横になっている。


 恋と剣のことを考えてしまい、今日も寝られなかった。


 スマホを見ると、4時を過ぎていた。


 2週間ぐらい前に見た、恋の無理に作った笑顔と、涙を流す剣の顔を忘れることができない。


 愛と純だけを幸せにすればいい。


 そう思おうとしても、どうしても恋と剣のことを考えてしまう。


 気を紛らわすために手の込んだ弁当を作ろう。


 剣と一緒に料理を作ったことを思い出してやめる。


 そもそも今日は卒業式で、昼前に帰ってくるから弁当は必要ない。


 座ってスマホで百合漫画を読む。


 恋に似たヒロインが出てきてやめる。


「こうちゃん、おはよう! 今日は卒業式だよ!」


 目を瞑ってソファに身を任せていると、愛の声がしてきた。


 今日で愛の制服姿を見納めになる。


 凝視して脳内に保存する。


「じゅんちゃんの家に行くよ!」

「まだじゅんちゃんの家に行くのは早いよ」

「早くないよ! ちょうどいいぐらいだよ!」


 いつの間にか8時になっていた。


 愛が僕の方を向いて太腿に乗る。


「こうちゃん悩みがあるなら聞くよ!」

「特にないよ」

「お姉さんに嘘は通じないよ! 本当のことを言ってよ!」

「嘘ついてごめん。……恋さんと剣に恋愛感情ないのに、2人のことを忘れることができない」

「忘れる必要はないよ! これからも友達として仲良くすればいいよ!」

「……」


 ありがたい言葉なのに、心に響かない。


「特別に甘やかしていいよ!」


 愛は僕の手を自分の頭に乗せた。


 撫でると、少し気持ちが落ち着く。


「じゅんちゃんもらぶと一緒にこうちゃんに甘えよう!」


 部屋に入ってきた純に愛は言った。


 理由を聞かずに純は僕に抱き着いて、愛も抱き着いてきた。


 2人の体の温もりで幸せな気持ちになって、他のことなんてどうでもよくなった。



★★★



 純の卒業生代表の挨拶以外寝ていて、いつの間にか卒業式が終わっていた。


 校門の近くに移動する。


 愛は漫研部の人達、純は王子様ファンクラブの人達に連れられて行く。


 愛と純から打ち上げに行くとランイがきた。


 なんとなく学校の中をうろうろする。


 家庭科室に行き、剣とした部活動を思い出しそうになったから学校を出る。


 檸檬さんが経営している美容院に自然と足が向かう。


 締まっている店を見ながら、恋と一緒に檸檬さんの手伝いをしたことを思い出しそうになってここから離れる。


 ……家に帰ろう。


 学校の近くを通ると、恋は友達と剣は先生と話しているが見えた。


 そこから、目を逸らす。


 今自分が何をしたいのか分からない。


 恋と剣は僕から離れていく。


 手を伸ばそうとしてやめる。


 どうして僕が手を伸ばそうとしていたのか分からない。


 いや、分かっている。


 恋と剣と一緒にいる時間は楽しかったから、もっと一緒にいたいと思って手を伸ばした。


 ……本当に楽しいだけ?


 頼ってくれてどこか虐めたくなる剣、同じ夢に向かって切磋琢磨できる恋。


 そうか……僕はそんな2人が好きなんだな。


 恋と剣を呼び止めたい……2人を振った僕にそんな権利はあるのだろうか?


 いや、僕が拒否されるのが怖くて、いいわけをしているだけ。


 多分恋はこの町で檸檬さんの店を手伝うから、東京に行く僕は会うことすらなくなる。


 剣は東京にいても、昴と純の専属のスタイリストと学校で忙しくて会えないかもしれない。


 今勇気を出さないと、絶対に後悔する。


 1人で歩いている恋の所に全力で走って手を握る。


「どうしたの⁉」


 恋は驚いた顔をして聞いてくる。


 胸がドキドキして、何を話せばいいか分からなくなる。


「恋さんと剣に話したいことがあるからついてきてほしい」

「……それって、良い話? 悪い話?」

「恋さんにとってどっちか分からないけど、どうしても伝えたいことがある」


 ゆっくりと口を開く恋。


「……百合中君のことを忘れようとした。叶わない恋を思い続けるほど、あたしは強くないし、何より百合中君の悲しむ顔を見たくないから」


 僕の顔を真直ぐに見てくる恋。


「でも、忘れることはできなかった。あたしの知らない所で百合中君は助けてくれて、大事なもの以外は目に入らない百合中君の強さに救われたから。……少しでも百合中君と話ができるならついていく」


 喋り終わった恋はしゃがみ込む。


「……少しの間動けそうにないから、どこかで待ち合わせしていいかな?」

「校舎裏で待っていて。剣を連れてすぐに向かうから」

「うん。待ってる」


 僕の家の方に向かって剣が帰っていた。


 追いかけると、母の車の後部座席に乗った剣と視線が合う。


 寝転がって体を隠そうとするけど丸見え。


 後部座席のドアを開けようとしても開かない。


 助手席にいた昴が手を伸ばして剣の腰を擽る。


 今のうちにドアを開ける。


 車から出てきた剣は、学校の方へと逃げたから追いかける。


「剣に聞いてほしいことがある!」

「……」


 剣は走るスピードを速める。


 必死に追いかける。


「僕の我儘だけど、これを言わないと絶対に後悔するから聞いてほしい‼」


 喉が痛くなるぐらい叫ぶ。


「……また振られたら、わたしは立ち直ることができなくなります」


 剣は立ち止まり俯く。


「また傷つけてしまうかもしれない」


 剣が逃げようとしたから手を摑む。


「それでも剣と一緒にいたいから、剣に話を聞いてほしい」

「……わたしも百合中君と一緒にいたいので、怖いけど百合中君の話を聞きます」


 2人で校舎裏に向かうと恋がいた。


 恋と剣は気まずそうに視線を合わさずに、僕の対面に立つ。


 正直な気持ちをそのまま言おう。


「らぶちゃんとじゅんちゃんが1番好き。昔の僕はそれ以外の人は、どうでもいいって思っていた」

「……」

「……」

「でも、今の僕は恋さんと剣のことをどうでもいいと思っていない。恋さんと剣とこれからも一緒にいたい」

「……一緒にいれば、あたし達が百合中君の恋愛対象になる?」

「ごめん。分からない」

「あたしか音倉さんを選ぶことは?」

「それはできない。2人とも大切だから」


 恋に真面目な顔で視線を向けられた剣はゆっくりと口を開く。


「……幼馴染でも、恋人でないのにずっと一緒にいられると思いますか?」

「いられるよ! 恋さんと剣をらぶちゃんとじゅんちゃんの次に幸せにする!」

「百合中君、らしいね」

「百合中君、らしいですね」


 恋と剣のその言葉を聞いて、僕は2人に恋していると実感した。

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幼馴染好きで百合好きな僕は恋愛なんて興味がない タバスコ @tabasuko17

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