249話目 ダブルデート

 昨日の酒の匂いで酔って甘えてくる純が可愛かったな。


 駅前で立っていると、恋と剣がやってきた。


 愛に恋と剣とデートするように言われて、日曜の今日3人でデートすることになった。


 電車に乗って隣町に行き、モールに入っていく。


 適当に店を周る。


「百合中さんが矢追さんと純さんと一緒にいないのは珍しいですわ」


 声をかけられ後ろを振り向く。


 角刈りの髪型をした体の大きな男と腕を絡ませている鳳凰院がいた。


「百合中さんは何をしているんですの?」

「デートをしているよ」


 両隣にいる恋と剣を見ながら言った。


「矢追さんと純さんにしか興味のない百合中さんが女子とデートをしているんですの⁉ しかも2人の女性と⁉」


 目を見開いて大声を出して驚く鳳凰院。


 僕達が偽の恋人で、どうしてそうなったのか事情を説明する。


「試しに付き合ってみて、2人に恋心は芽生えましたの?」


 鳳凰院がそう言った瞬間、恋と剣は僕を凝視する。


 2人のことは友達以上に好きだと断言できるけど、それが恋愛の好きと聞かれたら……どうなんだろう?


「……よく分からない」


 僕がそう答えると、温かい目を僕と恋と剣に向けてくる鳳凰院。


 理由は分からないけど苛々する。


 鳳凰院の提案で、鳳凰院達と一緒に行動することになった。


「ダブルデートですの! テンション上がりますわ!」

「危ないから気をつけろ」


 前を見ずに歩き出した鳳凰院の手を角刈り男子が掴む。


「ありがとうございます」

「お礼なんて言わなくていい。彼氏が彼女を守るのは当たり前だからな」


 見つめ合って今にもキスをしそうな鳳凰院と角刈り男子。


 そんな2人を恋と剣は見てから、僕を何度も一瞥する。


「鳳凰院さんと角刈り男子は同じネックレスをしてるんだね」


 気まずさを感じて、話題を逸らす。


「はい。強さんとお揃いですわ。学校でもつけていれるのでネックレスにしたんですの」


 鳳凰院は首元にあるパズルのピースの形をしたネックレスを摑んで見せてきた。


「一緒にいなくても鳳凰院を近くに感じられていい。お前達も買ったらどうだ?」

「いいですわね。買いに行きますわよ」


 近くにあるオシャレ気なアクセサリーの店に、鳳凰院と角刈り男子は入る。


 恋と剣はその店まで、僕の背中を押していく。


 2人お揃いのものを買うのは嫌ではないから抵抗しない。


 店内には、指輪、ネックレス、ブレスレット、ピアスが透明なケースの中に入っている。


「恋さんと剣は何がほしい?」

「百合中君に選んでほしい」

「百合中君に任せます」


 アクセサリーに今まで興味を持たなかったから、どれがいいのか分からない。


「3人で店内を周ってから決めようか?」

「うん。それでいいよ」

「はい。私もそれでいいです」


 適当に店内を周る。


 ピンクゴールでハート型のネックレスが愛に似合いそうだな。


 シルバーのシンプルなブレスレットは純に似合いそう。


 恋と剣の期待の眼差しに気づく。


 2人に似合うものを探すけど見つけられない。


「すいませ」

「百合中君に決めてほしい」

「百合中君が選んでください」


 店員を呼ぼうとすると、恋と剣にそう言われた。


 店に並んでいる商品を全て見た。


 恋と剣に似合いそうなものは見つからなかった。


「恋さんと剣はほしいものはある?」


 恋と剣は商品棚をじっくりと見始める。


「これはどうかな?」


 恋は茶色と黒色のシンプルな革のブレスレットを見せてきた。


 2人でつけて見せ合う。


「いいと思うよ。これ買う?」


 僕の顔を凝視した恋は「他のものを探してくるね」と言った。


 ブレスレット元の位置に戻して、他の商品を真剣な表情で見る恋。


「百合中君こっちにきてください」


 剣に呼ばれて行くと、剣が青とピンクの指輪を指差す。


「よかったらはめてみますか?」


 店員に聞かれて、剣は頷く。


 剣も恋と同じで僕の顔を凝視してから、「他のものを見てきます」と。


 それを何度か繰り返す。


 恋と剣は疲れ切ったような顔をして、また今度買いにこようと口にした。


 レジ前にいた鳳凰院達の所に行く。


 2人の指にはさっきなかった指輪をしている。


「お前たちは何か買ったのか?」

「買ってないよ」

「何で買わなかったんだ?」

「欲しいものがなかったから」

「無理に買う必要もないからな」


 角刈り男子はそう言ったけど、鳳凰院の指輪を羨ましそうに恋と剣が見えている姿に罪悪感を覚えた。



★★★



 モールで昼食を食べてから、鳳凰院の家にきている。


 初めて入る鳳凰院の部屋の広さは教室ぐらいあった。


 ふわふわとした高級そうな絨毯に鳳凰院が座った。


 僕達は鳳凰院の近くに座る。


「恋愛感情を芽生えさせるためには、好きな相手の体に触れるといいですわ。わたくしは強さんにお姫様抱っこをされて恋をしたので、効果があると思いますの」


 隣に座っている角刈り男子の腕に抱き着く鳳凰院。


「それに強さんに触れる度にもっと好きになっていますわ」

「その通りだな。麗華に触れるとドキッとするけど、温もりをもっと感じたくなぅて触りたくなって愛しさが込み上げてくる」


 角刈り男子は鳳凰院に抱き着きながら惚気る。


「手以外にも色々な所を触った方が効果あると思うので、今からストレッチしますわよ」


 鳳凰院は自信満々な顔で言った。


 でも、ストレッチと相手の体に触れることが結びつかない。


 角刈り男子が足を開いて体を前に倒して、背中に鳳凰院が乗っているのを見て鳳凰院の言いたいことが分かった。


 恋と剣も足を開いて体を前に倒す。


 必死に前に手を伸ばすけど、全く体を倒すことができない恋。


 剣はベタっと床に上半身をついているから、恋の背中を押すことにした。


 恋の後ろに立って背中を押す。


「いたたたたたっ、たたたた」


 悲鳴を上げるから手をのけようとすると、「もっとしてほしい」と言ってきた。


「痛い、けど、気持ちいい。変な気分に、なって、きた、よ」


 顔を歪ませながらそんな台詞を言われたら、もっと虐めたくなる。


「痛いのに気持ちいいとか、恋さんは変態だね」

「変態、じゃ、ない」

「変態じゃないなら、背中押すのをやめるね」


 恋の背中から手を離す。


 涙目になっている顔だけを僕に向けてくる。


「……あたしは変態です。だから、背中を押してください」

「素直になれた変態にはご褒美をあげるね」


 強めに背中を押す。


 恋は喘ぎ声を上げてから、横に体を倒した。


 涎を垂らしながら悶えている姿にゾクッとする。


「……わたしも、百合中君に背中を押してほしいです」


 ものほしそうな顔をしている剣の後ろに立つ。


 恋より剣の方が体は柔らかいから、強めに押しても体を痛めないだろう。


 上半身を剣の背中に乗せて体重をかける。


 剣の恍惚とした顔と押し潰される大きな胸を見てさらにゾクッとして、エッチだなと思った。


 今まで百合以外で、エッチな気持ちにならなかった。


「剣と恋さんは僕とエッチなことをしたいと思う?」


 恋愛に性欲が関係しているのか気になって質問した。


 剣は絨毯に尻をつけたまま逃げて行き、恋は何か言っているけど声が小さ過ぎて聞こえない。


「鳳凰院さんと角刈り男子は恋愛に性欲は関係していると思う?」


 抱きしめ合っている鳳凰院と角刈り男子は僕を見る。


「強さんにしかそういう気持ちにならないから、関係していると思いますわ」

「俺も麗華と一緒だ」


 鳳凰院と角刈り男子が正しいなら、僕は恋と剣に恋愛的な意味で好きになるのか?


 納得できるような、できないような感じ。


 角刈り男子がトランプをしたいと提案した。


 5人で日が暮れるまで、大富豪をした。


 恋を送って剣と一緒に自宅に帰っても、心のもやもやは消えなかった。

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