244話目 色々な百合

 学校に登校すると、靴箱に恋がいたから近づく。


 恋が僕から顔を逸らしたけど、「恋さん、ごめん」と謝る。


 無言で立ち去ろうとする恋の手を愛は摑む。


「謝っているから許してあげて!」


 恋は愛の方に視線を向ける。


「……百合中君は悪くないよ。勝手に嫉妬しているあたしが悪い。でも、百合中君が女子達に向けた視線をあたしに向けられたことがないと思うと……嫉妬が止まらない」


 僕に頭を下げる恋。


「これ以上百合中君と話すと、ひどいことを言いそうだから先に行くね。らぶちゃん、手を離して」

「仲直りしないと駄目だよ! らぶがこうちゃんを百合カップルを見るような目でれんちゃんを見られるようにするよ!」


 それから休み時間になる度に、愛は恋を僕の所に連れてくる。


 昼休みは屋上で2人きりになっている。


 僕達を連れてきた愛は、一仕事を終えたような満足そうな顔をして帰って行った。


 フェンス近くに座る。


 僕から1人分の間を空けて恋は座る。


 弁当を食べながら、百合を見るような目で恋を見ようとするけど無理。


 でも、恋と仲直りしないと、愛と一生話せなくなるかも。


「……あたしが女子とエッチなことをしていたら、いやらしい目で見てくれる?」

「見るけど、無理にしてほしくない」

「百合中君のためならどんなことだってするよ!」


 恋は力強くそう言った後、食べかけの弁当を床に置いて屋上から出て行く。


 少しして、恋は愛を連れて戻ってきた。


「れんちゃん! らぶに用事って何?」


 恋は無言で愛を強く抱きしめる。


「らぶもれんちゃんをギュッ~ってするよ! ギュッ~!」


 愛の小さくて可愛い耳に、恋は口を近づける。


「……今からエッチなことをするよ」

「駄目だよ! ……エッチなことしたら駄目!」


 愛が逃げようとするのを恋は捕まえる。


 恋は愛を床に寝かせて馬乗りになる。


 必死に暴れて抵抗する愛の両手両足を押えて、僕の方を恋が一瞥して妖艶に笑う。


「れんちゃん、怒るよ! 今すぐ放……くす、ぐったい、やめ、て……」


 叫んでいる愛の首元に軽いキスを何度もする。


「早く放さないと、れんちゃんのこと……あはははははははは!」


 愛が喋っている途中で恋が首元をペロペロと舐めると、愛は爆笑し始めた。


「れん、ちゃん、あはははは、やめて、ははははは!」


 恋がゆっくりと顔を上げる。


 愛の首元から恋の涎が糸を引いた。


 悶えているぜぇぜぇと息をしている愛。


「なんか違う気がする。もっとエッチにするためには」


 愛から片手を離して、恋はスマホを触り出す。


 愛の手が僕の方に向けられた。


 助けを求められていると思い摑もうとする前に、恋が愛の首元に吸い付く。


「な、んか、変な、気持ち、になるから、やめて……」


 愛は喘ぎながら抵抗するけどびくともしない。


 恋は数秒して顔を上げて、愛の首元に残ったキス後を指差す。


「百合中君、あたし達のことをエッチな目で見られる?」

「……見られるよ」

「嬉しい。もっとするね」


 恋は再び愛の方に顔を向ける。


「エッチなれんちゃんなんて嫌い! 絶交だよ!」

「うるさいかららぶちゃんの可愛い口をあたしの口で塞ぐね」

「こうちゃん! 助けて! こうちゃん!」


 必死に愛に向かって手を伸ばすけど遅かった。


 キスをされた愛は吐息を漏らしながら、涙目で僕の名前を呼ぶ。


 再びキスをしようとする恋を持ちあげる。


「らぶちゃんが傷つくことはやめて」

「……ごめん」


 泣き出した愛の顔を見た恋は謝った。


 それから恋は何度も愛に謝ったけど、愛は「れんちゃんなんて嫌い!」と怒り続けた。



★★★



 愛と恋は仲直りできたのか、放課後になると2人で帰って行った。


 純と一緒に家に帰ると、玄関に剣がいた。


 剣は純の手を摑む。


 純は振り払おうとするけどできない。


「わたしも昨日の女の子達みたいに、百合中君に……エッチな目で見られたいです! 小泉さん…………わたしとエッチなことをしてください!」

「……おう。いいよ」


 その申し出を純は断ると思ったけど、耳を真っ赤にして頷く。


 3人でリビングに行く。


 剣はソファの前の机をのけて布団を敷く。


「……小泉さんはここに寝てください」

「……おう」

「……百合中君はソファでわたし達のことを見ていてください」

「……うん」


 剣の指示にしたがって、僕はソファに座る。


 純は布団に仰向けで横になる。


 おずおずと純の上に体全体を乗せる剣。


「……重たくないですか?」

「……大丈夫」

「これから、これから、これからどうすればいいですか?」

「……こうちゃんは私が攻められると興奮するらしいから、私を攻めるといい」

「攻めるってどうやればいいか分からないです」

「こうちゃんの好きな百合漫画みて参考にしたら」

「分かりました」


 純の上から剣は下りて、2人は僕の両隣に座る。


「百合中君の好きな百合漫画を教えてください」

「僕も一緒に見るの?」

「はい。駄目ですか?」


 家族のように思っている純と百合漫画を見るなんて、どんな羞恥プレイだよ!


「こうちゃんも一緒に見よう?」

「……うん。見ようか」


 断ろうとしたけど、純にそう言われたら頷くしかない。


 僕の従妹の音倉音色はプロの漫画家で、WEBで百合漫画も描いている。


 音色の1作品目はほのぼのとした日常系の話だから、それを選ぼうとしていると剣が言う。


「……1番エッチなのでお願いします」


 純に視線を向けると、顔を逸らして小さく頷く。


 逃げ道をなくなった。


 2作品目を見ることにした。


 音色の2作品目は主人公の女子を、ヒロイン達があの手この手で奪い合うドロドロとした話になっている。


 純と剣は顔を真っ赤にして見るけど、画面から何度も目を逸らす。


 そんな2人を見ていて、百合なシチュエーションが浮かぶ。


「じゅんちゃんと剣の2人でスマホを持って、百合漫画を見てもらっていい?」

「……そんなのでいいんですか?」

「そんなのって、少しエッチな漫画を恥ずかしがりながらも見ている百合カップルなんて最高過ぎるよ」

「分かりました」


 ソファから立ち上がり純にスマホを渡し、2人の前に立つ。


 1つのスマホを見るために、純と剣は顔を近づける。


「さっきの所まだ読んでないです」


 剣はそう言いながら純の方を見る。


 純の頬に剣の唇が当たる。


 驚いた純は後退る。


 唐突なキスに慌てる純が尊過ぎる。


「……ごめんなさい」

「……気にしなくていい」


 漫画を読み終えた剣は険しい顔をしている。


 そんな剣が僕を見て、安心したように表情を緩める。


 自分でも隠せないほど興奮しているから、僕の表情を見て剣は喜んでいたんだな。

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