241話目 勘違い①

「神様、お願いします! 先輩と付き合えるようにしてください!」


 登校後、トイレに向かおうとしていると、見覚えのない女子が拝んできた。


 不審な行動だけど、こういう扱いは慣れてきた。


 スルーしてトイレに向かう。


 今までは恋のキューピットとして相談を受けることが多かった。


 2月の最近になって神様扱いをされ、恋愛相談より拝まれることが増えた。


 恋愛相談を受けると、幼馴染達と一緒にいる時間が減るから神様扱いを受け入れている。


 それに、恋心が分からない僕には恋愛相談を受けるのはストレスになっていたから助かる。


「おい、今いいか? 相談したいことがあるんだけど」


 トイレをすませてから教室に入ろうとすると、声をかけられた。


 振り返ると見覚えのある女子だったけど、思い出すことができない。


「誰だっけ?」

「キューピットじゃなくて今は神様だったな。神様のおかげで春日桜と恋人になれた夏井向日葵だよ。思い出したか?」


 冬休みに入る前に百合カップルが誕生したことをあったな。


「思い出したよ。それで僕に相談したいことって何?」

「人目が多い所では話し辛いから移動するぞ」


 夏井は歩き始めたから後を追いかけると、この階の端の空き教室に着く。


 教室に入ってから近くの席の椅子に僕達は横に並んで座る。


「おれは今まで誰とも付き合ったことがないから、春日と何を話せばいいか全く分からん。恋人って何を話せばいいんだ?」

「趣味の話をすればいいよ」

「おれは登山したり、スポーツをしたりして体を動かすことが好きだ。でも、春日は運動するのが苦手で話しが噛み合わずに盛り上がらない」

「春日さんの趣味は知っているの?」

「知っている。コスプレをしたり、動物と触れ合うのが好きだ」

「春日さんの趣味に夏井さんが合わせたらいいんじゃないの?」

「動物に興味がないし、コスプレのことなんて全く知らない」

「動物の動画で笑顔になっている春日さんを愛でたり、夏井さんが春日さんに着せたい服を着てもらうようにすれば夏井さんも春日さんの趣味を一緒に楽しめると思うよ」


 夏井は僕に向かって手を合わせる。


「流石は恋愛の神様だな。おれの悩みが全て解決した。ありがとう。これで春日に嫌われずにすむ。本当によかった」


 夏井は思い詰めていた顔から安心したような顔に変わる。


「僕は教室に戻るね」

「ちょっと待ってくれ。また困ったことがあったら相談したいからランイを教えろ」

「休みの日まで恋愛相談をされるのは嫌だから教えない」

「神様の連絡先だから気軽に聞いたおれが悪いな。すまん」


 夏井と別れて教室に戻ると、見覚えのある女子……春日が僕の教室を覗いていた。


 恋人の片方が不安を抱いていると、もう片方もそうなっている場合が多い。


 春日も夏井と一緒で僕に恋愛相談をしにきたのだろうと思いながら話かける。


「恋愛相談にきたの?」

「そうです。聞いてもらっていいですか?」

「いいよ」


 再び空き教室に入り、さっきと同じ席に座る。


「夏井さんが格好よすぎて何を話せばいいか分からなくなります。どうしたらいいですか?」

「一緒に長い時間いれば慣れてくると思うよ。それから話せばいいよ」

「時間をかけていたら、夏井さんに嫌われるかもしれないです。そうなったら……夏井さんに振られるかも……」


 俯きながらスカートをぎゅっと握りしめる。


 付き合ってから互いを意識し過ぎて、ぎくしゃくするカップルの割合が多い気がする。


 今回もそれに当てはまる。


 互いの好きという気持ちを知らずにいると、そのうち別れる可能性がある。


 夏井と同じアドバイスをしようとして、それよりいい方法が浮かんだから口にする。


「夏井さんから春日さんと何を話したらいいか分からないって相談を受けたよ。相談が終わってからこれで春日さんに嫌われずにすむって安心していた」

「夏井さんに好かれているか不安だったけど、夏井さんもわたしと同じ気持ちだったんですね。それを知れて少し安心しました」


 ついでに、夏井にもしたようなアドバイスをして教室を出ようとすると声をかけらえる。


「神様のアドバイスを参考にして、今日夏井さんとデートをしようと思います。……思いますが、2人でデートをする自信がないのでついてきてほしいです」

「放課後はらぶちゃんとじゅんちゃんと一緒に下校するから無理」

「賽銭をいくら出せばきてくれますか?」

「お金は受けとってない」


 廊下に出ると、春日さんが足に抱き着いてきて「神様お願いします!」と叫ぶ。


「今までしてきたみたいにすればいいよ」

「今まではわたしの友達についてきてもらって3人で遊んでいました。夏井さんと2人で遊んだことがないです。だから、ついてきてください」


 春日は僕の足を放す気配が全くない。


 このままでは、授業に遅れて愛と純が心配する。


 仕方なく、2人のデートについて行くことにした。


「こうちゃん、どこに行っていたの?」


 僕のクラスに戻ると、愛がやってきた。


「恋愛相談を受けていたよ」

「こうちゃんばっかりずるいよ! らぶも恋愛相談されたいよ!」

「今日の放課後にさっき相談を受けた女子のデートに付き合うけどついてくる?」

「まじかよ! 新作のゲーム、今日発売かよ! 人気作だから今日買わないと売り切れになって、一生買えないかもしれないな!」


 近くにいたうるさい男子と声が被る。


「女子、デート、付き合う」


 男子に殺意を向けていたから、愛が何を呟いたのか聞こえなかった。


「こうちゃん! とっても大事な用事を思い出したから、れんちゃんの所に行ってくるね!」


 愛は足早で教室から出て行く。


「こうちゃんがさっき言ったこと音倉さんに伝えていい?」


 僕の席の左隣に座っている純が話しかけてきた。


 僕が百合カップルのデートについて行くのを剣に伝える意味は分からなかったけど、いいよと答えた。


「音倉さんには助けられたことがあるからこれぐらいはしよう」


 純の呟きは聞こえてけど、その意味は分からなかった。

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