240話目 久しぶりの幼馴染達!

 目を覚ますと、ソファの上で寝ていた。


 頬を赤らめた恋と剣が、自分達のことを分かるかと聞いてくる。


 2人の名前を呼ぶと安心した顔をしてから、少し残念そうに溜息をする。


 頭が冴えてきて今日の晩に愛と純が帰ってくることを思い出す。


 時計を見ると18時。


 その時間ぐらいに帰ってくると母が言っていた。


 焦りながら周りを見渡しても愛と純はいない。


 念のため2人が帰ってきているか、恋と剣に聞くとまだと答える。


 ポケット、机の上を見てもスマホがなかった。


 自室に向かう。


 ベッドの上にあったスマホを開くと、愛と純からは連絡がまだきてない。


 ランイと音がなり純の名前が画面に表示された。


 19時に着くと書かれていた。


 愛と純にもう少しで会えると思ったら、2人のために尽くした気持ちが限界突破する。


 急いでキッチンに行き、家にある食材を使って愛と純の好物を作る。


 恋と剣が僕の方を見ているけど、気にしている時間がない。


 作ることに集中する。


 完成した料理を並び終えていると、玄関のドアが開く音がした。


 急いで廊下に出る。


 靴を脱いでいた愛と視線が合う。


 走ってきた愛は僕に抱き着く。


「こうちゃん! ただいま! ただいま! ただいま! ただいま!」

「らぶちゃん! おかえり! おかえり! おかえり! おかえり!」


 今まで言えなかった分の挨拶を僕達はした。


 純が家に入ってきた。


 愛を抱えたままそっちに向かう。


「こうちゃん、ただいま」

「おかえり、じゅんちゃん。後、おつかれさま」

「おう。合宿は勉強になって楽しかったけど……こうちゃんに会えなくて寂しかった」

「僕もじゅんちゃんに会えなくて寂しかったよ」


 愛を抱えたまま純に抱き着く。


「らぶはお姉さんだから、寂しくなかったよ!」


 愛はそう言いながらも、僕の頬に自分の頬を擦りつけている。


 強がっているな。


 純の頭を撫でてから、純も持ち上げる。


「こうちゃん力持ちだね! 凄いよ! あはははははは!」

「……」


 愛は嬉しそうに手足をばたばたさせながらはしゃぎ、純は耳を赤くして照れくさそうにしている。


「らぶちゃんとこうちゃんはお腹空いている?」

「ぺこぺこだよ! ペコペコ過ぎてお腹と背中がくっつきそうだよ!」

「おう。お腹空いた」

「2人の好物を作ったから一緒に食べよう?」

「やったー! 久しぶりのこうちゃんのご飯だよ!」

「おう。食べる」


 愛と純を抱えたままリビングに向かおうとしていると、服を引っ張られる。


 振り払って前に進みたいけど、両手がふさがっているからできない。


 仕方なく後ろを振り向く。


 母がいた。


「わたしの好物は作ってくれたかしら?」

「らぶちゃんとじゅんちゃんの分しか作ってないよ。手を離して」


 母に構っている時間はない。


 真顔でそう言うと、母は悲しそうな表情をしながら手を離した。


 部屋に入る時に後ろから、「こうちゃんが構ってくれないからふて寝するわ」と言う声と、階段を上る音が聞こえてくる。


 まだ愛と純を抱えていたいけど、2人のお腹を満たす方が優先。


 唐揚げ、キムチうどん、野菜サラダを置いている4人掛けの机の椅子に愛を座らせ、ドーナツ、ミルクゼリー、カルピス蒸しパンを置いているソファの前の机に純を座らせる。


 匂いが部屋に充満しないように窓をあけて暖房の温度を上げる。


「いただきます! パクッ! 美味しいよ! やっぱりこうちゃんの料理が1番美味しいよ!」

「……」


 愛は感動を口に出しながら、純は1言も喋らずに夢中で食べている。


 2人の真ん中で立って食事風景を見ていると、愛と純に食べさせたい感情が沸々と湧き上がってくる。


 愛の隣の席に座る。


「食べさせていい?」

「お姉さんだから1人で食べられるけど、今日は特別だよ! あーん!」


 小さな口を大きく開いたから、そこに唐揚げを入れる。


「もぐもぐ、美味しい、もぐもぐもぐ、よ!」


 食べている最中に喋っているから、食べかすが机に落ちた。


 机の上にある布巾で拭きながら、愛の世話をしている喜びを噛みしめる。


 純の視線を感じてそっちを振り向くと、薄い唇を恥ずかしそうに小さく開けていた。


 純の隣に座って、ドーナツを口の前に持っていくと大きくガブッと食べる。


 頬についた食べかすを取っていると、すぐに口を開く純。


 恋と純が可愛過ぎて……死にそう。


「れんちゃんと剣も一緒に食べよう」


 愛の言葉で、棒立ちしている恋と剣の存在に気が付く。


 恋と剣に食べていいかと聞かれたから頷く。


 2人は恋の対面に座って食事を始めて、顔を顰める。


 愛に合わせて辛めで味を濃くしているからだろう。


 何か作ろうかと聞いたけど、恋と剣は大丈夫と答えた。


「こうちゃんはれんちゃんと剣のどっちと付き合うようになったの?」


 全ての皿が空になったから重ねていると、愛が目を輝かせながら聞いてきた。


「誰とも付き合ってないよ」

「同じ家に住めば恋が芽生えるって漫画で描いていたよ! こうちゃんはれんちゃんと剣ことを前よりも好きになってないの?」

「前よりは好きになっているけど、恋人にはなってないよ」


 愛は恋と剣の間に立ち、2人の顔を交互に見る。


「こうちゃんとどんなことをして冬休み過ごしたの?」

「迷惑ばかりかけていたかな」

「……そうですね」


 項垂れながら答える恋と剣。


「今日は何をしていたの?」


 勢いよく顔を上げて僕の顔を見た恋と剣は、顔を朱色に染めて再び俯く。


 純は2人の前に立つ。


「何をしてた?」

「……何もしてないよ」


 恋が顔を上げて純を見たけど、すぐに目を逸らして答えた。


「……耳掃除をしてもらいました」


 剣は俯いたまま呟いた。


 剣に耳掃除をした記憶がない。


「こうちゃん!」

「……どうしたの?」


 口調強めに純に呼ばれたから、怒られると思い身構える。


「耳掃除をしてほしい」

「食器を流しに置いてからでいい?」

「今すぐしてほしい」


 なぜかソファの前の机の端に耳かきがあった。


 それを手にしてソファに座る。


「らぶも! らぶもして!」


 僕の太腿に純が頭を乗せると、愛がやってきて空いた太腿に頭を乗せた。


 愛と純の頭の重みと温もりを感じて、このまま時が止まればいいのにと本気で思った。

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