239話目 幼馴染達に会いたい!
今日は冬休み最終日で、愛と純が東京から帰ってくる日。
待ち遠し過ぎて、スマホのホーム画面を秒数まで出る時計に設定して昨日の晩から口に出しながら数えている。
そんなことをしても2人は早く帰ってこないと分かっていても、何かしていないと気が済まない。
夕方頃に帰ってくると母からランイがきていたけど、今はまだ7時。
そもそも夕方って曖昧過ぎるな。
具体的に何時に帰ってくるのか母にランイする。
合宿に参加した人達で打ち上げをするから分からないと、すぐに返事がきた。
ここで待っているより、東京に向かった方が早い。
打ち上げに参加していいかと聞くと、男子嫌いな女子がいるから無理だと。
それに参加しなくても、東京のどこかで待てばいいだけ。
母に今から東京に行くことを伝えたら反対される。
連絡せずに駅に向かおうとすると、母から電話がかかってくる。
『18時か19時ぐらいにはそっちに帰るから家で待っていてね。無駄使いをするのは駄目よ。今から東京にくるための時間とお金を使うぐらいなら、愛ちゃんと純ちゃんに美味しいものを作って出迎えてあげて』
「……」
ぐうの音も出ずに、電話を切る。
起きていても寂しい気持ちは募るばかり。
ベッドに横になる。
眠気はあるけど、目を瞑っても寝られる気がしない。
今までどうやって寝ていたのか分からなくなる。
何もしないと愛と純のことを考えてしまう。
スマホで百合漫画を見る。
百合漫画に出てくる女子全員、愛と純に見え出した……読むのをやめる。
愛と純と関係なく集中できることをしよう。
料理をすることにした。
リビングに入ると、身長が低くなった純が椅子に座ってスマホを触っている。
母が18時か19時に帰ってくると言っていた。
時計を見ると、まだ8時になっていない。
すぐに、何で純がここにいるかなんてどうでもよくなる。
そんなことより純にお帰りのハグをしないと。
「じゅんちゃん! お帰り!」
抱きしめながら、純に頬擦りをする。
純は全く動かなくなった。
体調が悪いのかと思い額同士を引っ付けて熱を測る。
顔は真っ赤になっているけど、熱はない。
「じゅんちゃん、東京での生活で困ったことはなかった? お腹は空いてない? 耳かきしようか?」
「……わたしは剣です」
「僕がじゅんちゃんと剣を見間違えるわけないよ」
再び抱きしめると、「わたしは純です」と呟く。
純は東京に行って冗談を学んでのかもしれないな。
久しぶりに純の耳掃除をしたくなったから、ソファに座って膝を叩く。
「じゅんちゃん、おいで」
「……いいんですか?」
「いいよ。東京でいる時は耳掃除した?」
「……たぶん、してないです」
「自分のことなのにたぶんって、じゅんちゃん面白いね」
純はおずおずと僕の太腿に頭を乗せる。
「痛かったから言ってね」
耳掃除を始めると、純が喘ぎ始める。
「じゅんちゃん、大丈夫?」
「だひひょうふれふ」
純は呂律が全く回ってない声を出しながら、身じろぎを始めた。
耳掃除を中断して、頭に抱き着くとゆでるぐらい熱くなる。
「……耳掃除を続けてほしいです」
「いいよ。左耳は綺麗になったから、僕の方を向いて」
「分かりました」
「じゅんちゃん、ちょっと待って」
頭を上げて動かそうとする純の耳に息を吹きかけると、大きく体をビクッと震わせた。
「いいよ。僕の方を向こうか?」
「もう1度わたしの耳に……フゥーってしてほしいです」
要望に応えると、純は気持ちよさそうに悶え続ける。
……どうしてか分からないけど、純を虐めたい気持ちになった。
今までにこんなことなんてなかったのに。
自然と純の耳に口を近づけて甘噛みをする。
純は跳びあがって立ち上がる。
「じゅんちゃんごめんね」
急いで謝ると、ゆっくりとこっちに顔を向けて太腿に頭を乗せる純。
「……もう少し強く噛んでもいいですよ」
いつの間にか純がドMになっていた。
嬉しいような悲しいような複雑な気持ちを抱いていると、愛が部屋に入ってくる。
あれ? 愛の身長が伸びているように見えるけど、気のせいだろう。
「らぶちゃん、おかえり」
「音倉さん! 百合中君から離れて」
愛は純のことを剣と呼びながら、出入口の方まで引っ張っていく。
目前まで愛がきて、心配そうな顔をする。
「百合中君、体調悪そうだけど大丈夫?」
「らぶちゃんとじゅんちゃんと会えたから元気だよ」
「目のクマが酷いよ。今日も寝てないの?」
愛からの質問だから真剣に考えて答えたいけど、頭が上手く回らない。
「2日前から百合中君は呆然としていることが多いから、2日以上は寝てないと思うよ」
冬休みの終わりに近づくほど、愛と純と会いたい気持ちが強くなり寂しさ増し過ぎて3日前から寝てないことを思い出す。
やっと愛と純が帰ってきてくれたから、甘やかしつくさないといけない。
「らぶちゃん! じゃんちゃん! 僕にしてほしいことがあったら何でもするよ!」
「百合中君少し待って」
愛は出入口で僕達のことを見ていた純の所に行き、手を摑んで廊下に出る。
少ししてから2人は僕の所にきて、愛が言う。
「らぶがしてほしいことは、こうちゃんに寝てもらうことだよ! 連れてってあげるからこうちゃんの部屋に行こう!」
「少しだけ耳掃除するのは駄目かな?」
寝るのはいいけど、幼馴染成分をもう少し補給してからにしたい。
両方の太腿を叩くと、純は左足の太腿に僕の方に顔を向けながら頭を乗せる。
「音倉さん! 百合中君を休ませないと倒れてしまうよ!」
「僕は大丈夫だから、らぶちゃんもおいで」
愛の手を取って優しく僕の方に引き寄せる。
「僕はらぶちゃんに耳掃除をしたいけど、らぶちゃんは嫌?」
「……嫌じゃない」
手を離すと、愛はおずおずと僕の右足の太腿にテレビの方に顔を向けて頭を乗せた。
「じゅんちゃんの右耳がまだだから、先に純ちゃんからするね」
愛の頭を撫でながら言うと「……うん」と呟く。
頭を撫でて怒らなかった愛に違和感を覚えてけど、久しぶりに会えたから撫でさせてくれているのだろう。
純の耳掃除が終わり愛の耳掃除をする。
愛は自分の腕を噛みながら小さな声で喘いでいる。
愛の手が傷つくから、空いている手を愛の口の前に出す。
「噛んでもいいよ」
愛は僕の顔を一瞥してから、歯を立てずに口をつける。
ぬるぬるとした涎が手についている。
愛のだから気にならない。
片耳が終わり、その耳に息を吹きかける。
少しだけ僕の腕を強めに噛む。
頭を撫でると噛む力が弱まった。
「こっちの耳は綺麗になったから、僕の方を向いて」
「…………あたしも耳を噛んでほしい」
純に感じた時と同じようで愛も虐めたくなる。
今日の僕はおかしい。
大好きな幼馴染達を虐めないなんて、絶対におかしい。
そう分かっているのに、僕は愛の耳を甘噛みする。
愛は僕の太腿を強く握り、表情を歪ませた。
もっと、もっと、もっと、愛のそんな表情を見たい……。
唇を思いっ切り噛んで理性を保つ。
反対側の愛の耳掃除も終えて、3人並んでソファに座る。
愛と純に喉が渇いてないかと聞くと、小さく頷いたからキッチンに行く。
2人とも少し汗をかいていた。
温めのコーヒーとココアを入れる。
戻る途中で体がふらついて愛と純に飲みものをかけてしまう。
「らぶちゃん、こうちゃん大丈夫⁉ 火傷してない⁉」
「全然熱くないよ」
「火傷してないから落ち着いてください」
温めにして本当によかった……安心している場合ではない。
このままでは、愛と純が風邪を引くから着替えさせよう。
服は僕のジャージでいいとして、その前に服を脱がせないといけない。
「百合中くん! まだ心の準備ができてない!」
「いきなりは無理です!」
愛と純の上着の裾に手を掛けて上げようとすると逃げられる。
追いかけようとして、ココアとコーヒーでできた水溜りに滑った。
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