233話目 積極的な眼鏡女子と元前髪で顔が隠れている女子②
愛と純が東京に行って1日が経った。
昨日の晩に純に電話したけど、愛は既に寝ていて純はあくびをしていた。
早めに電話を切ったから話し足りなくて、起きてすぐに枕元に置いているスマホを手に取る。
6時過ぎだから寝ている可能性がある。
もう少しして電話をかけることにした。
ジャージに着替え、ポケットにスマホを入れる。
外を適当に走って、脱衣所で筋トレをしてシャワーを浴びてパーカーとジーパンに着替えた。
「「……百合中君」」
リビングに入る。
恋と剣は抱き合って、寝言で僕の名前を呼んでいる。
なんとなく恋と剣が可愛いな。
……朝食を作ろう。
机の上に料理を並べても2人は起きなかった。
8時過ぎ。
純に連絡しよう。
廊下に出て純に電話すると、1コールで出た。
「じゅんちゃん、おはよう」
『こうちゃん、おはよう。私も今電話しようとしていた』
純との以心伝心にテンションが上がる。
「合宿の方はどう?」
『歌もダンスも私よりレベルの高い人が多いから勉強になる』
声のトーンがいつもより上がって早口で喋っている純の声を聞いて、本当に合宿を楽しんでいるだと分かった。
喜ぶことだけど、僕のいない所で頑張っている純の姿を見られないのは寂しい。
『こうちゃんはどう?』
「いつも通りだよ」
純と愛がいないから寂しいと本音を口にしたいけど、純の足を引っ張りたくないから我慢。
『じゅんちゃん! じゅんちゃん! 誰と電話しているの?』
電話越しに愛の元気な声が聞こえてくる。
『こうちゃんと電話している』
『こうちゃん! らぶもこうちゃんと電話する!』
『スマホを渡すから落ち着いて』
『じゃんちゃん! ありがとう! こうちゃん、らぶだよ! おはよう!』
愛と純のやり取りに和んでいると、愛が話しかけてきたので急いで答える。
「おはよう。らぶちゃんは今日も元気だね」
『うん! 元気だよ! こうちゃんは元気?』
「らぶちゃんとじゅんちゃんの声を聞けたから元気になったよ」
『もっと元気になれるように愛が歌ってあげるね』
昴の曲を個性的に歌い出す愛が可愛過ぎて感動する。
音程通りに歌うだけが正しいと限らないという見本になっている。
『2曲目歌うね!』
『らぶちゃん、そろそろ朝ご飯食べないと遅刻する』
『本当だ! らぶは三実の手伝いするって昨日約束したから行かないと! そうだ! こうちゃんに聞こうと思っていたこと忘れていたよ! こうちゃんはれんちゃんと仲よくできている?』
恋にベッドで抱きしめられたことを思い出す。
このことは言わなくていいな。
「仲良くできているよ」
『そんないい子のこうちゃんにはお土産をたくさん買うよ! 楽しみにしていてね!』
「うん。楽しみにしとくよ」
『らぶちゃんが言う、こうちゃんと影山さんが仲よくできているかってどういう意味?』
純の声が冷たくなった気がする。
恋と剣が泊まっていて、冬休みが終わるまで僕の家にいることを伝えたくないな。
嘘を吐けずに正直に話した。
『……朝ご飯食べてくる』
最初の間と、不機嫌そうな声で純が怒っていることが分かった。
「じゅんちゃんごめんね」
『こうちゃんは悪くない。私が勝手に苛々しているだけだから……だから、「こうちゃんの恋」を応援できるように頑張る』
何の応援を頑張ると言ったのか分からなかったけど、平坦な声音から真剣さが伝わり聞き返せない。
着信が切れてからも呆けているとランイと音がする。
スマホの画面を見ると純からだった。
『合宿の成果を帰ったらこうちゃんに最初に見せるから上手くできたら……たくさん褒めてほしい』
言われなくても褒めるけど、言われたら手加減なしで褒めまくりたくなるな。
リビングに入る。
2人はまだ寝ていた。
朝食が冷めるから起こそう。
「恋さん、剣、朝食ができたよ」
「……お姉ちゃん、勝手に部屋に入ってこないでって、いつも言っているでしょ」
「……昴が朝ご飯作ったら大変なことになるからわたしに任せて」
薄っすらと目を開けた恋と剣は寝ぼけている。
次の瞬間、2人は目を見開いて離れてから、どうして抱き着いたのか互いに言い合って喧嘩する。
「ご飯が冷めるから早く食べるよ」
僕がそう言うと、2人は睨みながら僕の席の対面の席についた。
「泊まらせてもらっている間、わたしが料理を作ってもいいですか?」
朝食がはじまってすぐに剣が聞いてきた。
「ありがとう。3食作ってもらうのは大変だから晩飯をお願いするよ」
「分かりました。こちらこそありがとうございます。久々に百合中君に料理作るので気合入れて作りますね。何か食べたいものとかありますか?」
「剣に任せるよ」
「百合中君は好き嫌いなかったですよね?」
「うん。ないよ」
「分かりました。スーパーに行ってから食材を見て何を作るか決めますね」
僕と剣の会話を羨ましそうな目で見ていた恋が言ってきた。
「そんなに料理は得意ではないけどあたしも作っていい?」
恋の家に行くことは何度かあったけど、恋が料理をしている所を見たことがない。
不安が残るけど、剣だけに作ってもらうと悪いな。
「恋さんにもお願いするよ」
「うん。美味しく作れるように頑張る」
「上手くできたらご褒美として、冬休みが終わるまでそこに座っていいですか?」
剣は僕の隣を一瞥する。
「あたしも百合中君の隣に座りたい」
「いいですよ。百合中君の隣の席に座る権利をかけて料理勝負をしましょう」
「元家庭科部の音倉さんにあたしが勝てるわけない」
「逃げるんですか? わたしは不戦勝でもいいですよ」
「……百合中君の隣の席を譲りたくないから勝負する」
料理勝負に勝ったら冬休みが終わるまで、晩飯を作る権利ももらえると剣は付け足した。
★★★
昼食に袋のラーメンを食べた僕達は晩飯を買うために外に出た。
「家庭科部の時に一緒によく買い物に行きましたね」
「懐かしいね。最近料理は作っているの?」
「はい。作っていますよ」
右隣を歩いている剣はスマホを触ってから見せてきた。
そこには、ウサギやネコやクマをデフォルメした形の料理が並んでいて、可愛いもの好きの剣らしさが出ている。
「可愛い料理を食べるのに躊躇するのは変わっているの?」
「今も可愛そうなので、形が崩れるまで目を瞑って食べています」
自信満々の満面な笑みを向けてくる。
「形もこだわっていますけど、味の方も上達しているので楽しみにしてください」
「うん。楽しみにしているよ」
左隣の恋は青ざめた顔で歩いている。
料理勝負が決まった時からそうだった。
余程料理を作る自信がないのだろう。
近所の公園を通り過ぎようとしていると、小学生の女子3人が僕達の所にやってきた。
小学生女子Aが聞いてくる。
「愛と王子様はいないの?」
「らぶちゃんとじゅんちゃんは東京に行っているよ」
「何で東京に行っているの?」
純がアイドルになることはまだ公表されていないから、合宿のことは言えない。
「旅行に行っているんだよ」
「何で幸は行かないの?」
小学生女子Bが残酷な質問をしてくる。
僕だって行きたかったよと、心の中で愚痴る。
「僕は用事があったから残ったんだよ」
「幸の彼女はどっち?」
小学生女子Cが恋と剣を見ながら言った。
「どっちが恋人に見えますか?」
「あたしよね?」
「両方とも幸の彼女に見える」
真剣な顔をした剣と恋に、小学生女子Cは純粋な笑顔を向けながら口にした。
その言葉に嬉しそうだけど悔しそうな複雑な顔をしている恋と剣。
「幸でいいから一緒に遊ぼう」
「今から買い物に行くから遊べない」
「分かったまた今度遊ぼう」
小学生女子達は僕達に手を振ってから公園に入って行く。
「今から何する?」
「ままごとしよう」
「いいよ。お母さんとお父さんは誰がする?」
恋と剣に手を摑まれる。
「久しぶりに童心に帰ってままごとをしたい」
「いいですね。子どもの心を忘れないのはいいことですよ。小学生達にまざってままごとしませんか?」
買い物を急ぐことはない。
小学生女子達のままごとに混ざることにした。
公園の滑り台の近くに小学生女子が持ってきたレジャーシートの上に座って、ままごとの配役を決めていく。
恋と剣は自分が僕の妻役をしたいと、欲望を駄々洩れにしている。
小学生女子達はそれを気にすることなく僕が父、小学生女子Aが母、小学生女子B、Cが子ども。
恋は猫、剣は犬になった。
2人は講義するけど、小学生女子達はままごとを始める。
この公園で遊ぶ小学生女子達は、純を奪い合って強くなっているから図太い。
「いってらっしゃいあなた。チュッ」
小学女子Aは僕の頬にキスをする。
その光景を恋と剣は目を白黒させながら見ている。
仕事に行く振りをしてベンチに座り、空を呆然と見る。
今、愛と純は何をしているんだろうな。
「百合中君、今日も娘と遊んでくれてありがとうね」
声をかけられて前を向くと、小学生女子達の母親がいた。
小学生女子と母親は手を繋いで公園を出て行った。
「3人でままごとをしたい」
「3人でままごとをしたいです」
殺気を放っているから、簡単に2人が喧嘩することが想像できる。
聞かなかったことにして、スーパーに向かった。
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